焼却炉の中身
山道脇の木々がビュンビュンと、高速で後方に流れていきます。怖くて怖くて、目を開けていられません。つい先ほどまでの安全運転とは、天と地のちがいです。私は必死で、芦矢さんの背中にしがみついていました。
おそらく、式神クロの現在地を正確にとらえているのでしょう。芦矢さんの運転にはまったく迷いがありません。芦矢さんとクロは心の深いところで、強い絆で結ばれているのだと思います。
芦矢さんは10分ほど走ると、ようやくスピードを落としてくれました。先行していたクロの後ろ姿が視界にとらえたのでしょう。GX250を走る式神の後ろにつけると、行きと同じ安全運転に戻りました。
山道は終わりましたが、クロは町の中心には向かいません。四車線の国道に入って、ひたすら西へと走ります。車道の左端を走っているのは、車に跳ねられないように注意しているせいでしょう。
隣接の市に入る手前で、クロは川沿いの脇道に入りました。クネクネと曲がりくねった道を器用に駆け抜けていきます。ジョギングを楽しむ人たちや自転車に乗った学生たちとすれちがいましたが、誰一人、クロに注意を払いません。
どうやら、彼らの目にクロが見えていないようです。式神とは、そういうものなのでしょうか? 私には、よくわかりません。
長い脇道を走り続け、最終的にクロが入っていったのは、ビルの工事現場でした。背の高いスチール製の壁に覆われていて、今日はお休みなのか作業員の姿は見当たりません。
資材置場の奥に大きな焼却炉があり、その前にクロが座っていました。芦矢さんと私はGX250を降りて、焼却炉に駆け寄ります。私の脳裏に、嫌な考えが浮かびました。
「まさか、もう焼かれてしまったの」
「そうならないことを祈りましょう」
焼却炉の火が点いていないことを確認してから、芦矢さんは蓋の取っ手に手をかけました。素早く引き上げると、「ひいっ」と悲鳴が聞こえました。
「芦矢さん、どうしましたっ!?」と、私。
「今のは、僕の声じゃないですよ」と、芦矢さん。
悲鳴の主は、焼却炉の中に潜んでいました。芦矢さんに促されて、彼はおそるおそる外に出てきました。灰まみれの少年です。着ている学生服から、市内の中学生だとわかりました。やせっぽっちの体格ですし、見るからに気が弱そうでした。
「君は、誰?」私の問いかけに対し、
「永瀬ハジメ」と、少年は短く答えました。
「ハジメくん、僕の名は芦矢道彦という。実は、川上という方からの依頼で、ある物を探している。何か、心当たりはないかな」
ハジメくんはハッとした様子を見せたが、何も言わない。だから、私が付け加えた。
「もしかして川上さんのお屋敷に入り込んで、何か持っていかなかった? 木箱に入ったものなんだけど」
ハジメは慌てて、頭を下げた。
「すいません、すいません。本当に、すいません」
彼は〈河童のミイラ〉を盗んだことを認め、ひたすら頭を下げ続けた。
「どうか、許してください。何もかも僕が悪いんです。だから、
「えっ、罰? 罰ってどういうこと?」
私の問いかけに、ハジメは驚くべきことを話し始めた。
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