僕の失敗


 ボタンのかけ違いという例えがある。僕の陥っている状況は、まさにそれだった。間違いに気づくのが、あまりにも遅すぎた。それも致命的に遅れてしまったらしい。一体なにがいけなかったのだろう。


 僕は自分の利益のために行動したわけじゃない。すべては大好きなお姉ちゃんのためである。幼い頃からいろいろと面倒を見てくれたお姉ちゃんのために、力になってあげたかっただけだ。それは決して、悪いことじゃないだろう。


 でも、結果は散々だった。僕のせいで、お姉ちゃんは変わった。まったくの別人になってしまった。今は僕が誰なのかもわかっていない。まるで、記憶喪失になってしまったみたいだ。


 原因はわかっている。たぶん、僕はお屋敷から持ち帰ってきた、のせいなのだろう。正直に言ってしまえば、最初からうすうす嫌な予感がしていたんだ。なぜ、その時点でやめなかったのか、と言われてしまえば、それまでだけど。なぜ、僕はそれを持ち帰ることをあきらめなかったのか。


 いや、それ以前に、例のお屋敷に向かわなければよかったのだ。ちょっと疲れたところで、さっさと引き返せばよかった。足腰がガクガクになるまで歩きとおし、大変な思いまですることはなかった。


 いや、それ以前に、あんな噂なんか信じなければよかったのだ。トイレの花子さんや口裂け女の方が、まだ可愛げがある。それで身体をなでると、速く泳げるようになるなんて、いかにも怪しげな噂じゃないか。


 ああ、悔やんでも悔やみきれない。僕はいつだってそうだ。後になって、相当な時間がたってから、ようやく気付くのだ。結果が悪かったことを知って、ようやく失敗だったと気づく。


 どうすれば、いいのだろう。今の僕は、まったくの無力である。何も思いつかず、ただ、頭を抱えているだけだ。どうすれば、別人になったお姉ちゃんを元にもどせるのか。だめだ。僕には何も思い浮かばない。


 もし、お姉ちゃんに襲いかかってこられたら、僕には何もできないだろう。できるのは、逃げることだけだ。捕まってしまったら、たぶん、無事ではすまない。もしかしたら、お姉ちゃんの手で八つ裂きにされてしまうかもしれない。


 あの木の枝のようなもののせいで、からだ。



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