泥棒少年


 山間は紅葉が美しかったが、風は冷ややかだった。街中とくらべると、気温が5度ぐらい低いのだろう。暦の上では秋だけど、山では冬が間近なのかもしれない。


 目的地には、なかなかたどりつけなかった。まさか、遭難をしてしまったのではないのか。いや、一本道なので迷いようがない。このまま進んでいれば、必ず目的地にたどり着けるはずである。


 僕は山道を一人で歩きながら、くじけそうになる自分を何度も𠮟咤しったした。


 どんなにつらくとも、どんなに怖い目にあっても、泣いたりわめいたりはしない。小学生より強くて勇気があるからだ。僕は負けない。絶対にやり遂げてみせる。


 目的地のお屋敷に着いた時には、山道のせいで足の裏が痛くなっていた。思っていたより、大きなお屋敷だ。中学の体育館より大きいかもしれない。


「ごめんください」と、声をかけた。

 しばらく待ったけど、何の応えもない。大きな声で何度も呼びかけたけど、結果は同じ。物音ひとつしない。聞こえるのは鳥のさえずりぐらい。ここには今、誰もいないのだ。


 悔しかった。地団駄じたんだを踏むほど悔しかった。どうして、お屋敷の人はいないのだ。せっかく時間をかけてやってきたのに。ほとんど時間が残されていないのに。


 だけど、これは逆にラッキーなのかもしれない。お屋敷の人に願いをきいてもらえるかどうかは微妙なところである。いや、たぶん、きいてもらえる可能性は限りなくゼロに近い。そうなったら、完全な無駄足になる。


 お屋敷の周りをグルリと歩いてみた。幸い、人の気配はない。戸締りは厳重だが、古びているので、あちらこちらにガタが来ている。雨戸を乱暴にゆすっていたら、まんまと外すことに成功した。


 泥棒はいけないことだとわかっている。でも、僕には大事な使命があった。そのためなら何だってやってやる。勇気さえあれば、誰でもヒーローになれる、と誰かが言っていた。これは僕にしかできないことだ。


 勇気をふるって、真っ暗なお屋敷の中に足を踏み入れた。予想していたより、かなり広い。スマホの明かりを頼りに、ほこりっぽい廊下を進む。目星をつけた奥座敷から順にあたっていく。


 ドキドキしながら懸命に探し回った。ほこりまみれになりながら、押し入れから段ボール箱を取り出し、中身を確認していった。もし今、家の人が帰ってきたら、警察に突き出されるだろう。スリリングななりゆきだが、ここまできたら、最後までやり通すしかない。


 相当な時間もかかったけれど、どうにかこうにか、目的のものを見つけることができた。それは細長い木箱の中に入っていた。和紙に包まれたそれは干からびていて、木の枝のように見える。かすかに生臭いにおいがした。


 これがそうなのか? 本当にそうなのか?


 木箱に貼られた短冊に文字が書かれていたが、どうしても僕には読めなかった。中学では国語が得意科目だし、漢字の読みには自信があるんだけど、墨で書かれたそれは、あまりにも達筆すぎたからだ。



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