もののけディテクティブ
霊能者の親戚
世の中には霊能者や拝み屋、祈祷師と呼ばれる方々がいます。
私の遠い親戚も同じような仕事をしていました。ただ、小説や映画のヒーローのような生業ではありません。悪霊や化け物を退治しているのではなく、地域の人たちの相談役のような立場だと聞いていました。
その方に初めて会ったのは、中学二年の冬のこと。手書きの地図を元にさびれた商店街を訪ねたのですが、極度の方向音痴のせいで、道に迷ってしまいました。
確か、約束の時間から30分ほど遅れてしまったはずです。途中、黒い犬の道案内を受けたのですが、それがなければさらに1時間は遅れていたことでしょう。
親戚の暮らす古民家は、裏通りの外れにありました。うっかり見過ごしそうな奥まった場所にある上に、カフェのはずなのですが、屋号はおろか表札も見当たりません。商売っ気がないのでしょうか。
そういえば、週に数えるほどしか開いていないのは、ひとえに店主の気まぐれによるもの、と聞いています。
私はコンパクトミラーで顔を確認し、身だしなみをチェック、紺色のスカートを軽く叩いてから、
「ごめんください」と声をかけました。
引き戸を開くと、チリンと呼び鈴を鳴りました。上がり框も壁も天井も味わいのある木目が浮き上がっています。年代物の民家のはずなのに、心地よい木の香りに包まれた気がしました。
「どうぞ、遠慮なく、お上がりください」廊下の奥から、優しい声が上がりました。「外は寒かったでしょう。こちらに、あたたかい
「失礼します」と応えて、靴をそろえていると、
「このあたりは入り組んでいるから、皆さん、よく道に迷われます」と、私が迷子になったことを承知している様子でした。さらに、「驚くことはありません。あなたが近くの橋を渡ってきてから、ずっと見ていましたから」とのこと。
二階の窓から女子中学生の迷走ぶりを見ていたのか、それとも千里眼という噂通りなのか、大いに気になるところです。そういえば、
優しい声の主は四畳半の和室におられました。私は勝手に和服のイメージを抱いていたのですが、黒のハイネックセーターにスキニーパンツというカジュアルな装いでした。アラサーと聞いていましたが、大学生ぐらいにしか見えません。
「あの、はじめまして。私、
「僕たちは親戚の間柄なんだから、そんなに緊張することはないよ。研修といっても、僕は〈
「そんなことはないです。勉強させてください」私は両手をワイパーのように振った。「あ、そうだ。本家からの伝言もあるんです。川上家の件の資料は、こちらになります。実は、その、説明が難しいのですが……」
「ああ、その件は連絡を受けています」男はにっこり微笑んで、「申し遅れました。
私は芦矢さんの顔を見て、心の奥から納得していました。
なるほど、美青年と騒がれるだけのことはあります。知的なまなざしが印象的ですし、肌が抜けるように白く、
「あの、早速なのですが」言いつのる私を芦矢は右手で制して、
「コーヒーは大丈夫ですか?」と訊いた。
私がコクンとうなずくと、芦矢さんは火鉢にかけてあった鉄瓶からマグカップに、ゆっくりとコーヒーを注ぎ始めました。ふくよかな香りが漂ってきます。ただ、それだけで、私は心が落ち着いてくるのを感じました。
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