第2話
「あの……」
何かを言わんとするサクヤを見て、オウスは気付く。この少女が何者であるのか、何故護衛を必要としているのか、色々当事者であるはずの自分が何も知らない事を。何も聞かされていない事を。
「私が原因……だと思います……今回の事……」
…………オウスがサクヤに尋ねたい事が増える。
「嬢ちゃん、どういう事だ?」
スクネが問いかける。オウスは黙るしかない。
「先日もお話ししたように、私はなったばかりの巡回教師ですが……」
「いやいやいや待て待て待て待て!」
「何だうるせぇなオウス、嬢ちゃんの話聞けよ」
「いやホントちょっと待て!この
「今更何言ってんだ?」
「オレは初耳だ!もっと早く教えろよ!」
「あ?言ってなかったか?」
オウスは話を中断されてほんの少し不満げなサクヤを
「君が巡回教師……?その若さで……?」
巡回教師である事といい治療魔法を使った事といい、目の前の少女、やはり普通ではなさそうだ。
「……オウスさんは巡回教師という職業の事をどの程度ご存じですか?」
「ん?えーと、教育を受ける場のない辺境の村に派遣される教師のエリート、でいいのかな?あと、冒険者としても一流でないといけないってイメージがあるな」
「……エリートかどうかはともかく、そんな感じです。でも……」
サクヤが言い
「……私は……冒険者としては全くもって無能なんです…………」
それは仕方ない事だろうとオウスは思う。その若さで巡回教師になって、治療魔法を身に付けた。その上で冒険者としての経験を積む?不可能に決まっている。
「もしかして落ち込んだり恥じたりしてんのか?君くらいの年で巡回教師になるとか、すごい才能だろ。それだけで偉業だよ」
サクヤは顔を上げ、オウスを見る。
「それにしてもわからないなぁ。何故君は一人なんだ?巡回教師は巡回教師だけでパーティーを組んで旅するもんじゃなかったか?」
「それは……昔の話です。かつては二百人以上いたと言われる巡回教師も、今では私を含めて五人しかいません。とてもパーティーを組めるような状況ではないのです」
「何かそれだけ減った理由があるのか?」
「聞いた事あるぜ。先々代の皇帝が死んでから、巡回教師の扱いが悪くなったってな」
スクネが横から口を挟む。
「先々代の皇帝というと……スジン八世だったか?あぁ、あれだ、教育帝って呼ばれてたな確か」
「はい、そうです。スジン八世皇帝陛下は教育を重視して、巡回教師の育成と派遣に注力されたと当時を知るアカデミーの方々から教わりました」
「アカデミー?」
「帝都にある巡回教師の育成機関です」
「そういやホオズキも昔アカデミーにいたんだったな?」
スクネがさらっととんでもない事を口にする。
「「………………えぇえ!!!!?」」
ハモりながら驚くオウスとサクヤ。
「今はそんな事関係ありませんっ!それより、そろそろドラゴンバードが現れた原因がサクヤさんにあるかも知れないというお話の続きを……」
オウスもサクヤも正直ホオズキの過去の方が気になったが、話を戻す事にした。
「先々代陛下が
サクヤは一呼吸おいて、話を続ける。
「キビツという巡回教師に、
「聞いた事あるな。何か要領を得ない話で、そのキビツって巡回教師もいつの間にか獄死してたよな?」
「私にこの話を教えて下さった元巡回教師の方は、『彼は謀殺された』とおっしゃってました」
オウスはホオズキを見る。アカデミーにいたという彼女が何か知っているのではないかと期待したのである。その視線に気付いたホオズキは、助けを求めるかのようにスクネを見た。スクネは、軽く溜め息を
「……嬢ちゃん、
スクネはオウスを見る。
「オウス、悪いな。この依頼は無かった事にしてくれ」
「は?!ふざけんな、こんなワケわからん状態で終われるか!」
「聞き分けてくれ、オウス。この嬢ちゃん、無自覚にとんでもない爆弾抱えてんだよ」
「ちゃんと全部説明しろ!つーか滅茶苦茶やる気出て来たわ!お前が何も言わないなら今すぐこの
オウスの
「落ち着いてくれ、オウス、これは本当にヤバい話なんだ。ドラゴンバードも嬢ちゃんを狙っている奴らが用意した可能性が高い」
そこまで言ってスクネは気付いた。即座に後悔した。
「……サクヤを狙っている奴ら?スクネ、知ってる事全部話せ!!!」
オウスは女子供が危害を加えられるような事柄を非常に嫌う。それはオウスのつらい過去に起因した、根の深い話である。
「オウス……」
スクネは迷った。スクネが知っている事をオウスに話せば、オウスは確実にサクヤと旅に出る決心をするだろう。だがしかし、その旅は命懸けの旅となる。かと言って、何も話さなかったとしても…………やはりオウスはサクヤと旅に出てしまう。スクネにはわかる。オウスはそういう男だ。
「……なぁスクネ、オレは確かにサクヤと出会って日が浅いしサクヤの事はほとんど何も知らない。だがな、こんな子供が命を狙われているというのなら、オレは、護る。これは理屈じゃない……理屈じゃないんだ……」
「スクネ様…………」
悩むスクネの腕にホオズキがそっと両手を置いた。
「…………わかった、オウス。話そう。だがな、色々覚悟しろよ?話を聞いたら後戻りできねぇぞ?」
オウスは、黙って軽く
巡回教師サクヤと護衛のオウス(仮) 月偲織 慧泉明 @curecurecure
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