第89話
【剣闘会3日目】
今日が祭りの最終日で剣闘会も最終日だ。
今日はワッフル・プリン・アーチェリーが解説をしつつ剣闘会が進む。
「プリン様、次のラック選手とエリス選手の戦いはどちらが勝つと思いますか?」
「エリスの方が強そうね」
「ワッフル様はどう思われますか?」
「わたくしもエリス選手の方が勝つと思いますわ」
「アーチェリーはどうですか?」
「私も2人と同じ意見ね」
基本3人は同じ意見で、正解を当ててくる。
ラック選手とエリス選手の戦いは予想通りエリス選手が勝った。
事前にどっちが勝つか分かるって面白いのか?
周りを見ると気にしている者は誰もいない。
マイクを渡されたワッフルがアドバイスを始めた。
「ラック選手は剣で受けるか、下がって短剣を投げるか、それとも固有スキルのアーツを使うべきか、その判断を磨いた方がいいですわね。具体的には少し格上の方と打ち合い、反復して判断を繰り返す事をお勧めしますわ。取れる手数が多いのですからそこを磨くことで更に伸びていきますわ」
「ありがとうございます!」
「エリス選手、見事な勝利でしたわ。スピード上昇の固有スキルは素晴らしいですが、更に決め手となるアーツスキルの習得を目指す事で更に強くなれますわね」
「頑張ります!」
盛り上がっている。
◇
そろそろ始まるか。
セバス相手に、勝てない気がする。
クラフトがやって来た。
「すまなかったのだ」
「ん?」
「スライム鉱石で武器を作る約束は、まだ先になりそうなのだ」
「気にしてない。忙しいんだろ?」
クラフトは無言で頷いた。
「内政で皆が忙しいのは知っている」
「だが」
「そろそろ出番だ。それにな、これは命のやり取りじゃないんだ。行って来る」
「……」
俺とセバスがリングに入ると魔導士が結界を張った。
セバスは良いが、俺は爆炎を使う。
結界を張らないと観客が危険なのだ。
「ワッフル様、どちらが勝つと思われますか?」
「セバスですわね」
「その心は?」
「アキの能力はオールラウンダーですわ。ですがセバスは1対1の短期戦で真の力を発揮しますわ。2人の特徴の違いはこの限られた完全に1対1でしかも短期戦の状況、戦場ではありえないこの状況こそがセバスの勝ちを確定させていますわね」
「なるほど、アーチェリー選手はどう思いますか?」
「分からないわ。セバスもアキも、倒れる姿を想像できないのだわ」
「ありがとうございます。プリン様ははどちらが勝つと思いますか?
「アキよ!アキは今まで不可能を可能にしてきたわ!次もアキが勝つわ!」
「はいはい、ありがとうございます」
チョコの素が出ている。
『はいはい』は駄目だろ。
「爆炎の英雄アキ選手VSセバス選手の試合、開始です!」
セバスが短剣を2本構える。
俺はものまね極を意識的に発動させた。
「スライムウエポン!」
魔力で作った液体が宙に浮く。
スライムウエポンが槍に変形した。
最初はリーチの長い槍だ。
セバスの体勢を崩してクロスフィニッシュを当てる!
スライムウエポンは俺の体から離れれば離れるほど威力が落ちる。
その特性がある為、槍の威力は思ったより低い。
投てきで手を離せば更に威力が落ちる。
だがセバス相手にはそれ以前の問題だ。
当てる事が出来るか?
いや、当てる!
当てるには近距離での連撃、これで隙を生み出す!
時間の流れが遅く、スローモーションのように感じた。
セバスが一瞬で距離を詰めて来た。
縮地を使って来た!
一瞬で力を使い切るか!
セバスは温存して戦う気が無い!
俺の突き出した槍は躱され、懐に潜り込まれる!
横なぎに槍を払いつつスライムウエポンを刀に変形させて横に振るが、それすら刃でいなされた。
俺は左手を武器から離してグラビティの魔法で攻撃を仕掛けるが、それも腕でガードされた。
だがそれでセバスの突進力が少し弱まった。
今はそれだけでいい。
その一瞬のスキを突いて斧を叩きつける。
セバスはその攻撃を短剣をクロスさせてガードした。
当たらない!
当てられない!
隙を作る事が出来ない!
温存しても意味がない。
今装備している短剣は6つ。
後先考えるな!
俺は胸から短剣を2本引き抜いた。
「クロススラッシュ!」
短剣が砕け散り、十字の斬撃が飛ぶ。
ただ隙を作りだす為だけにクロススラッシュを使った。
セバスが全力で横に飛び、攻撃を回避した。
体勢が崩れた!
チャンスは今しかない!
俺はセバスに急接近した。
「クロスフィニッシュ!」
短剣が砕け散り、拳の紋章も消える。
俺の今出来る最大火力!
セバスは避けきれず左肩に攻撃を受けてスピンする。
いやな予感がした。
セバスはスピンしながら空を蹴る空歩と、高速移動の縮地を発動させた。
セバスは回転し、体勢を崩しながら言った。
「
セバスは体勢を崩され、不完全な状態でそれでも回転した力を利用して強引にアーツ系の固有スキルを使って来た。
セバスの動きは技量の塊だ。
普通なら出来ない動きをさらっとやってのける。
アーツを使い無防備になった俺はスライムウエポンでガードしきれずにセバスの攻撃をもろに受けた。
そして俺の首にセバスの刃が突きつけられた。
「参った」
俺は、一瞬で、負けた。
「セバス選手の勝利です!」
一瞬の静寂。
「「うおおおおおおお!!」」
そして歓声が聞こえた。
観客には何が起きたか見えなかったのだろう。
「完敗だ。セバスに届く気がしない」
「いや、思ったよりも、差は無かった。奥の手を使いかけた。それと」
「それと?」
「クロススラッシュとクロスフィニッシュを使うと、スライムウエポンの制御が甘くなる。そのせいで私の攻撃を受けきれなかったのだ。固有スキルに慣れた方がいい」
「……確かに」
「それと、アキは自分で言うほど適当な人間ではない。戦ってよく分かった」
セバスは1人で納得したように頷いてリングを降りていく。
「せ、セバスさん!最後の一言がまだですよ!」
「むう、」
そう言ってリングに戻って来た。
セバスと戦ったことで色々見えてきた。
たまには固有スキルを使おう。
もっと固有スキルに馴れて、それから。
「アキ君も一言がまだですよ」
「ん、そうだったな」
俺はセバスに完敗して剣闘会が終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます