第90話

 祭りが終わると王に呼び出された。


「剣闘会ご苦労だった」


 王がほくほくと笑顔を浮かべて言った。

 お祭りの収入が良くて負担が減ったんだろう。

 無い金をこねくり回すより税収を増やした方が楽だ。


 そしてこの流れは何か別の用があるんだな。


「さて、次は武器の英雄に協力要請をお願いしたいのだ。出来ればアクア共和国からの協力も頼みたいのだ」

「俺が行って来て交渉するのか?」

「そうなる」

「希望は薄いと思う」


「私もそう思う。だが可能性が少しでもあるなら、すべて手を打っておきたいのだ」


 例え武器の英雄から協力が得られなくてもアクア共和国から協力を得られるかもしれない。

 物事はやってみると思わぬ方向に行く事が多い。

 それにアクア王国に協力を求めておかないと文官が『意見を出しても王が動かない』となり不満が溜まっていく。

 だが、『アキが交渉に向かった』と返す事で文官の不満を和らげ、交渉が失敗したとしても今できる事に集中してもらう事が出来る。


「今の財政収支と食料問題の簡易資料だ」


 こうして俺への現状把握と方針会議を合わせた打ち合わせが始まった。

 朝から始まり、食事を摂りつつ話を進め、夜中になった。

 王も目の下にクマが出来ているから怒ったりはしない。


 武器の英雄は癖が強い。

 そしてアクア共和国もどう出るか分からない。

 何を提案してくるか分からない為、あらゆるケースを想定した話し合いが行われた。




 俺はワッフルとセバスを連れてアクア王国に向かう事になった。

 護衛を付ける話も出たがそうなれば移動速度が遅くなる。


 俺とセバス、ワッフルだけで移動するとワッフルの移動が遅れる。

 その為ワッフルだけは途中までモグリンに乗って移動する事になった。


「きゅうーーーー!!」


 モグリンの上にワッフルとアーチェリーが乗って疾走する。

 俺とセバスは走る。


「アクア共和国か」

「どうした?」

「いや、意思決定が遅くて待たされそうだと思った」


 アクア共和国は日本に近い。

 行った事は無いが、本や話を聞く限り日本を連想させる。


「それに武器の英雄だろ?」

「アキに似ている。気が合うと思うのだが?」

「似ている部分はあると思う。でも怒らせてるんだよなあ。それと兵士を脅してアクア共和国に移民させている。移民の兵士を仕切っているのが武器の英雄なんだろ?」


 セバスが俺から目を逸らした。

 目を逸らしたまま言った。


「物事はやってみなければ分からない」

「何で目を逸らした!俺の目を見て言ってくれ!」


 セバスは俺と目を合わせない。


「やってみるしかない!」

「だから目を見て言ってくれ!」


「ふふふ、2人は仲良しですのね」

「違うわ!」


「ふふふ、モグリンとわたくしも仲良しですわ」

「きゅう~!」


 聞いていないだと!


 こうしてモグリンやアーチェリーと別れてアクア共和国に向かった。



 

 ◇




「3日宿屋に入れられっぱなしか」


 俺は錬金術で武器を作りながら言った。


「アクア王国でしたらもっと待つことになるかもしれませんわね」

「どのくらい待つと思う?」

「そうですわね、後4日ほど」


 日本のようだ。

 俺が何か質問すると文官が集まって会議を開くが一向に答えが出ない。

 答えが出るまで数時間待たされたりする。


 俺とセバスは窓を見た。


「武器の英雄が来た!」


 俺達が宿屋の入り口に向かうとアクア王国の文官が止めた。


「こ、困ります!勝手に出歩かれては!」

「武器の英雄が来たんだ。話がしたい」

「しょ、少々お待ちください」


「それには及ばん、ワッフル様、セバス、前より元気そうだな」

「お久しぶりですわね」

「はい」


「アキ、爆炎の英雄か」

「武器の英雄、ピリピリしないでくれ。戦いに来たわけじゃない」


 武器の英雄の近くに武器が浮く。


「む……無意識であった」

「ま、殺し合いをしてはいたけど、別に恨みはない。協力の要請をしに来た」


 武器の英雄にはまず結論を言った方がいいだろう。


「場所を変える。ついてこい」

「こ、困ります!そう勝手に決められては!」


 文官の男が焦り出す。


「何かあれば我の責任で構わん」


 そう言って文官の言葉を聞かずに部屋に入る。


 俺がテーブルに座ると対角に武器の英雄が座り、俺の隣にワッフルが座った。


「セバス、座ってもいいのだぞ?」

「いえ、このままの方が落ち着くのです」

「変わらないな」

「あなたもでしょう」


 お互いに笑い合う。


 そこに文官が入って来る。


「ウエポン様、責任を取る旨の文書にサインをお願いします」

「分かった」


 ウエポンがサインして紙を返すと、文官は2枚目の紙をテーブルに置いた。


「……あと何枚あるのだ?」

「テーブルに置いた紙を合わせて4枚です」

「……全部置くのだ」

「はい」


 武器の英雄は眉間に皺を寄せながら文書を読んでサインをしていく。


「これでいいな?」

「いえ、会話を記録する書記を付けます。少々お待ちください」

「早くするのだ。客人を待たせている」


「はい」

「それと食事を頼む」

「この部屋は食事が禁止なのです。規則ですので」

「飲み物は出せるか?」

「それなら大丈夫です」


「我はコーヒーを」

「俺もコーヒー」

「紅茶をお願いしますわ」

「私は結構」


 文官が去って行く。


「大変そうだな」

「堅苦しくはあるが、人命は守られているのだ。良い面もある」

「何かしようとすると批判が来るんだろ?」


 あの文官を見て分かった。

 あそこまで細かい対応をするのは民が口やかましいからだ。

 要するに日本のマスコミやクレーマーと同じだ。


 多くの日本人はまともだと思うけど一部口やかましい人がいるのと同じで、一定割合で騒ぐ人間がいる。

 真っ当な理由で騒ぐならまだ良いが、たまに思い込みや、調べもせず騒ぎ立てて足を引っ張る人間が出てくる。


 そうなれば文官はどんどん細かくなっていく。

 ちょっとでも制度に不備があれば大量のクレームが来るため意思決定も送れて利益を取りこぼし続け、世界に負け続ける。

 日本のような国、それがアクア共和国だ。

 


「気にしなければいい」

「……大変そうだな」


 その後、話し合いが行われた。


 


 結果武器の英雄から協力は得られなかった。

 だが、フレイム王国から移民した民を一部受け入れる事が決まり、食料の援助を取り付けた。

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