第42話

【ライダー視点】


 私は斥候として最前線に立っている。

 くっくっく、王は私の力を認めている。

 

 奈落のダンジョンでの罰と聞いた時は焦った。

 金と兵は確かに失ったがこれはチャンスだ。

 私が敵を発見し、一網打尽にする事で失った金と兵士分の功績を手に入れる事が出来る。


 騎乗した部下が走って来る。


「報告します!Aポイントの探索進捗率、40%です!」

「遅い!もっと部隊間隔を広げろ!」


「し、しかしこれ以上間隔を広げては奇襲を受けた際の援軍到着が遅くなります」

「貴様は馬鹿か?何のために部隊を100単位に分けていると思っている!?その部隊だけで対処できるように考えての事だ!見せしめに処刑されたくなければ黙って命令を守れ!」


「し、失礼しました!すぐに任務を遂行します!」


 騎乗兵は慌てて走って行った。




 兵士がライダーに逆らえば処刑される可能性もある為ライダーに異を唱える事は難しい。

 そして今兵士が言った意見は勇気を振り絞った発言だったのだ。


 ライダーは最初に決めた作戦をコロコロと変更し部隊を混乱させた。

 しかも何か問題を報告すれば殴られる。

 ライダー自身が前に出るよう王から何度も命を受けたがそれを守らず後ろでテントを張り、そこでワインを楽しみつつ肉を焼いて味わう。

 煙を上げないよう進言する兵士を殴り、敵に見つけて貰うヒントを出し続けている。


「ライダー様!白い騎士がこちらに向かってきます!」

「すぐに騎乗するのです!」


「慌てるな。貴族たる者常に優雅でなくてはならん」


 ライダーは歩いてダッシュドラゴンに乗った。


 11人の白い兵士が歩いてくる。

 そして1人が魔法で花火を上げると轟音があたりに響いた。

 味方を呼んだか?

 だがこちらは100、敵はたった11人。

 恐れる事は無い。


 桃色の髪をなびかせる上品な女が前に立ち、言葉を発した。


「煙を頼りにここまで来ましたが、敵の姿が見えないこの状況で焚火ですか。最初はおびき寄せる為の罠かと思いましたが、あなたの顔を見て確信しましたわ。ただの愚か者ですのね。兄と同じ目ですわね」

「ふ、たった11人の兵士で100騎兵を相手によくそのような戯言が言えたものだ」


「ふふふ、誉め言葉として受け取っておきますわ」

「ふ、命が惜しくて時間を稼ぎたい気持ちも分かる。だが無駄だ。貴様と、そこの2人を捕え、奴隷として可愛がってやろう」


「わたくしのようなか弱き女が相手でも兵の後ろに隠れていますのね」

「私はライダー・ナイツ公爵だ!私は指揮官なのだ!上に立つ者は皆を使う資質が必要なのだ!」


「そういう話ではありません。お話になりませんのね」

「ふ、話は終わりだ。全員でかかれ!ただしそこの3人だけは生かしておけ!」


 100の騎兵が突撃する。


 その瞬間に後ろにいた女6人が魔法攻撃を放った。

 前にいた騎兵が転倒し、その後ろにいた騎兵が転倒しする。


 だが無駄だ。

 その後ろの騎兵が11人に殺到する。

 魔法は射程攻撃により力を発揮する、だが近づかれれば脆い、それが魔導士なのだ。


 騎兵が槍で攻撃を始めると全員が剣を抜いて応戦した。

 そして隙を見ては魔法攻撃を使う。


「馬鹿な!魔導士が剣を使うのか!しかもこんなに近距離で魔法すら使いこなすだと!」

「ここにいる全員は鍛え抜かれた者達ですわ。当然違うジョブのスキルを習得している者も多くいますのよ!」


 桃色髪の女がロングソードで兵を倒し、ダッシュドラゴンを倒していく。

 私の軍はシルフィ王国が誇る100のダッシュドラゴン部隊だ。

 なのわずか11人の歩兵にやられそうになっている?

 なぜ劣勢に追い込まれている?


 意味が、分からない。


「お、押しきれ!向こうは疲れが見え始めている!」

「虚言に惑わされてはいけませんはわ!こちらの援軍が到着しますわよ!」


 左右から10人ずつ、合わせて20名の援軍が到着し、挟み撃ちをするように100の騎兵に迫った。


 そして、いつの間にか、漆黒の男が視線に現れた。

 漆黒で白髪交じりの男は私に目を向けた。


 いつから居た?

 いつ現れた?

 気づいたら視界の中にいた!?


 まるで死神のように急に!


 白い歩兵とは真逆の漆黒をまとい、近くにいた3体のダッシュドラゴンと3体の兵が一瞬で倒れる。


 何をした?

 まったく見えなかった。

 ただ、男の両手にはロングナイフが2本握られていた。



 漆黒の男が叫んだ。


「ワッフル様!指揮官を叩きます!」


「ええ、ライダー・ナイツ公爵のお相手はお願いしますわね」

「私の名はセバス、一騎打ちを申し込む!」


「て、敵の策に乗るな!殺せ!皆殺しにしろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 私とセバスの間にいるいる兵が倒れる。

 私とセバスの間にいるダッシュドラゴンが倒れる。


 セバスは私に真っすぐ向かってくる。

 まるで障害物を排除するように兵を殺し、ダッシュドラゴンを殺しながら近づいてきた。


 私は即判断した。

 ここにいれば死ぬ。

 固有スキルが発動した。


「固有スキル・生存戦略ううううううううううううううううう!!」


 セバスが斬りかかる前に私はダッシュドラゴンから飛び降りた。

 乗っていたダッシュドラゴンがセバスに倒される。


 私は走って後退した!


 気づけば短剣が背中に刺さっていた!


 後ろを少しだけ見るとセバスに迫った兵とダッシュドラゴンが、物凄い速さで倒れている。


 どんどん部下が死んでいる。

 背中に刺さったナイフは投てきか?

 いつ投げた?

 まったく見えなかった!


 死神が私を見た。

 恐怖で走る足を速めた。


 後退だ!後退後退後退!

 これは逃走ではない!

 この異常事態を本隊に生きて伝えるのが私の役目だ!


「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 私は涙と鼻水を吹き出しながら必死で本陣へと帰還した。




 ◇




 私は本陣に走り、無事任務を遂行した。

 残った兵がどうなったかは、分からない。



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