第41話

 アキのいるシルフィ王国の隣国、敵国フレイム王国には美しい騎士がいた。


 ワッフル・フレイム。

 兄王の妹だが兄には疎まれている。

 王になった兄より民に人気があり、美しく、そして強い。

 桃色の髪をショートカットに短く切ることで女性であることを捨てる覚悟をした。

 それでもなお民の人気は衰えなかった。

 同じく桃色の瞳は優しい印象を受け、そして行動も優しい。


 本来死ぬか、運がよくて奴隷か娼婦か盗賊に落ちるしかない孤児を冒険者として育て立派に自立させた。

 そして今回姫騎士として同行する300人はすべて元孤児である。


 更にフレイム王国最強ではあるが、ひたすら力を隠し続けたセバスもワッフルに付き従う。

 

「ワッフル様、今回の見回りはあまりにも無茶です」

「ですわね。ですが、兄の言いつけ通り10人ずつの小隊を30に分けて行動しますわ」

「本来斥候は斥候ジョブの者が行うのが定石です」

「そうですわね。お兄様はどうしてもわたくしに死んでほしい様ですわね」


 セバスは少し俯いた。




【セバス視点】


 私は前王直属の暗部だった。

 前王であるワッフル様のお父上が亡くなる数日前に私だけを呼んで言った。


『セバス、力を隠したまま、ワッフルを、守ってほしい。これは友として最後の頼みだ!頼む!』


 私は無言で頷いた。


 私は年を取った。


 私は後何年、ワッフル様を守れるだろうか?


 王の目的は2つだ。

 戦争の勝利、そしてワッフル様の死。

 王は戦争の勝利を確定させつつ、不幸な事故でワッフル様には死んでほしい、そう思われている。


 その証拠に今もワッフル様は生かされている。

 そして戦争の敗北はすなわち王の座を危うくし、王自身が不幸な事故で死ぬ可能性が高まる。


 王が変わり、飢饉や災害、魔物のスタンピードや戦争の敗北が起きれば王には高確率で不幸な事故が起きる。

 要するに王は生贄のように殺されるのだ。


 重要な大戦を控え、それでも王は戦地に赴かず、そして強力な1000の近衛騎士団で自らの身を守り王都に引きこもっている。

 4万の兵で大戦を始めるフレイム王国軍にとって、1000の、しかも精鋭騎士団を欠いたまま戦う事は大きなハンデとなる。

 それでも王は自らの命を優先する。


 今の所誰も王を暗殺しようなどと考えてはいない、私以外は。

 私は短剣の柄を強く握りしめた。


「セバス、思いつめる必要はありませんわ。あなたの訓練を受けたわたくし達は簡単には死にませんわ」


 白髪の混ざった髪をかき上げるふりをして額に掻いた汗を拭った。


「緊張しすぎていたようです。ワッフル様の部隊だけは19人で編成するのです。私は1人で十分です」

「そうかもしれませんわね。セバスは最強ですわ。あなたについていける兵は誰もいませんもの。ですが、残る9人は他の部隊に配置しますわ」

「かしこまりました。ワッフル様ならすぐに私を超える強さを手に入れるでしょう」

「それはいつになるのでしょうね?数年、それとも、10年以上かかるかもしれませんわね。さて、そろそろ出発しますわよ」




 外に出ると300の白い騎士が整列する。

 元孤児で、結束が固く、そして兵の質も高い。

 セバスとワッフルが鍛え上げた姫騎士団だ。


 正確にはワッフル様の事を姫と呼ぶかは微妙ではあるが、姫=身分の高い女性や未婚の女性という意味もある。


 何よりワッフル様は昔から冒険者として活動して民を守ってきた。

 王女の指揮する冒険者=姫騎士となりその名前で定着しているのだ。

 前王よ、あなたの血は、ワッフル様に色濃く表れているようです。


 こうして、300の白い騎士と、白いドレスアーマーを身に着けたワッフル。

 そして白の中でただ1人漆黒の衣をまとった最強の斥候が野に放たれた。

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