第43話
【ライダー視点】
グラディウスが兵士に訓練を行っている。
「アキ!どけええええええ!」
私は訓練を受けるアキを突き飛ばそうとするが避けられてバランスを崩しよろめく。
「敵の襲撃を受けた!」
私はグラディウスに敵の情報を伝えた。
王とアーチェリーも集まり、会議が始まった。
「ライダーよ。報告ご苦労。所で近くに100に仲間がいたはずだが、何故100の兵だけで戦ったのだ?」
「王よ、それは、その時間も与えぬほどの猛攻だったのです!」
「私はお前に最前線に自らが立ち斥候をするように何度も命じたがなぜおまえが報告に戻ったのだ?本来ならばそれは戦士ではなく斥候の役目のはず」
「ま、瞬く間に周りの者がやられたのです」
「う~む、情報が食い違っているがまあ良い。もうお前は休むのだ」
「し、失礼します」
ライダーは休息の為テントに向かっていった。
【グラディウス視点】
「ライダーと話をしても進まん。グラディウス、どう思う?」
「ライダーが着ていた鎧は上質です。そしてライダーのレベルだけは高いのです。その鎧をもし投てきだけで貫通し、あそこまでの手傷を負わせたとすれば、手練れ揃いのダッシュドラゴン部隊も危ないでしょう。すぐに援軍に向かいます。もっとも、間に合うとは思えませんが」
ライダーの発言は嘘が多すぎる。
理想としてはライダーだけが死に、優秀なダッシュドラゴン部隊の指揮権を取っておきたかったが逆の結果が出つつある。
これ以上優秀な兵が死んでは大戦に支障が出る!
「うむ、頼んだ」
「アーチェリーも竜と共に来て欲しい」
「もう準備は出来ているわ。バハムート、行きましょう!」
「グラディウス様、俺も行きましょう」
「アキ、そういう礼儀はいいから、すぐに出発するよ!」
僕は精鋭を連れて森に入った。
現場にたどり着くと100の兵は全滅しており、ダッシュドラゴンもすべて倒されていた。
「引き際が鮮やかだねえ。アキも敵の気配を感じたかい?」
「ああ、グラディウスに斥候訓練を受けなければ気づかないほど遠くにいた。しかも1人凄く薄い気配を感じた」
「お、気づいたね。それが英雄クラスの黒い死神だろうねえ」
ライダーの言う事は大げさだ。
『漆黒の悪魔』『黒い死神』などその時によって言う事が違う。
せめて呼び名くらいは統一して欲しい。
ライダーの話は半信半疑だったが、あの気配を感知して黒い人間は僕より強い、そう思った。
気配が薄いのに移動速度は驚くほど速い。
気配が薄いのは隠密スキルを使った為だ。
そして速く、スキルレベルが高い敵は強い。
アキはその異様さを読み取ったのか緊張した顔をしていた。
あの敵を察知し即座に状況を理解した。
アキを頼もしく感じた。
「斬り傷を見ても英雄クラスが混ざっている事が分かるねえ。HPの高いダッシュドラゴンが1撃で倒されているよ。しかもこの切り口は短剣、ロングナイフっぽいねえ。次に強いのはロングソードの切り口か。短剣を使う黒い英雄クラスと、ロングソードを使うエースクラスってところか。優秀なダッシュドラゴン部隊が簡単にやられるわけだ」
ダッシュドラゴン部隊がここに走って来る。
「部隊の間隔を広く取りすぎようだね。どういう指示を受けたの?」
ダッシュドラゴン部隊の兵士が俯く。
「あ~、君らは気にしなくていい。ライダーが君らに責任を押し付けるのは分かっているからねえ。王には僕から言っておくよ」
グラディウスは兵士の肩を抱いて隅に移動し、聞き取りを行っていく。
兵士はそんな僕を見て遠くから礼をする。
その瞬間にライダーが指揮官を務めるまずさを痛感した。
ライダーは王の命を無視して自ら前線に出ない。
暗殺しようとしても固有スキルの生存本能がある為失敗する可能性がある。
あの強敵を相手に逃げ切るライダーの固有スキルが強力すぎる。
爵位を引き下げて一気にすべての指揮権限を奪おうとすれば敵に寝返るだろう。
王はそれを配慮して見極めた上でライダーから力を奪っていた。
ライダーを潰すために力を使えば、兵の訓練がおろそかになり失敗する可能性が高い処か更に状況を悪くする可能性すらある、か。
自分の身を守る能力だけは英雄クラスだがそれ以外は害悪で邪魔にさえ感じる。
出来れば最前線に出てライダーだけが死んでほしかった。
殺せない無能な指揮官ほど厄介なものは無い。
ライダーにジョーカーのようなまずさを感じていた。
「アキ、斥候はダッシュドラゴンじゃなくて僕らでやろうか」
「そうなるよな。花火を3回上げればいいか?」
「そうだねえ。すぐ頼むよ」
アキが3回魔法花火を打ち上げると本陣にダッシュドラゴン部隊が戻って行く。
斥候部隊を再編成して斥候を再開した。
【セバス視点】
「ワッフル様、ライダーを取り逃がしました」
「ふふ、意図的に取り逃がしたのでしょう?」
「ワッフル様にはお見通しでしたか。もっとも、本気で追っても取り逃がす可能性はわずかにありました」
「逃げ延びる事に特化したような固有スキルでしたわね。異常な逃走速度でしたわ」
「ええ、ライダーは兄王様と同じ性格だと、そう感じました」
「私もですわ。ライダーを殺さずにいた効果は後になって毒のように効いてくるはずですわ」
ライダー・ナイツ公爵。
父と違い、強力なダッシュドラゴン部隊を使い潰すように酷使し、父が作り上げたシルフィ王国最強の騎乗軍団に毒を撒き続ける存在。
ライダーは部隊の間隔を広く取りすぎた。
そして指揮を放棄して逃げた。
挙句の果てには罠も無しで森の中でバーベキューなどと、無能でしかない。
このままライダーが斥候を続けてくれればこちらとしては被害を限りなくゼロにしつつ強力なダッシュドラゴン部隊を切り崩す事が出来るが、そううまくはいかないだろう。
最強の軍も、将が無能であり続ける限りいくらでも切り崩せるが、斥候の指揮官はおそらく変わる。
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