第16話

「Gランクのクエスト達成ですね」

「もう終わりか」

「私何もしてない」


「プリンは早くランクを上げられる。ショートカットだ」

「お嬢様、旦那様が頼もしいですね」

「だ、旦那さまってそんな」


 プリンがもじもじし始めた。


 後ろから気配を感じてみんなが同じ方向を向く。

 その視線の先にはクマのような体格をした男がいた。

 その斜め後ろから受付嬢がついてくる。


「俺はウォーアップの冒険者ギルド長!マッチョだ!」


 声が大きい。

 そして重低音のような低い声が腹の中まで響く。


「そっちがものまね士のアキで、そっちのお嬢さんがプリンで良いな?」

「そうよ」

「はい」


「正直に言うぜえ。ストレージを使える時点でアキはGランク越えの力を持っている。プリンも見た感じGランクを超える力を持っているだろう。だが、Gランクの研修を一瞬で終わらせられちゃ困るんだ。新入りが無理して魔物に飛び込んで死ぬケースが出て来ちまう。7日でいい。それまで待ってからランクアップの手続きを始めてくんねえか?」


「分かったわ」

「いいですよ」

「それともう1つ。俺と試合をしねえか?」


「ん?」

「ストレージから薬草と跳ねうさぎを出して研修が終わりました。めでたしめでたしとはならねえ。周りから色眼鏡で見てくるやつが出てきやがる」


「ギルド長、殺しちゃ駄目ですよ!」

「殺さねえよ!俺を何だと思ってやがる!手加減はする!大きな怪我はさせねえ!」

「最近体がなまっているから暴れたいとか言っちゃってましたよね?」

「だからって本気で子供を殴るわけねえだろ!」


 受付嬢とギルド長が言い合いをしている。

 下の者から思ったことを言える雰囲気を作るギルド長か。

 ギルド長は信頼できると思った。


「ギルド長は体術使いですよね?」


 ギルド長がニヤッと笑った。


「そうだぜえ!俺と試合をする事で色眼鏡で見てくるやつは減る。そして体術のものまねもただで出来る」

「やりたいです!」

「私もやりたいわ!」


「決まりだな」


 俺達は訓練場に移動した。

 受付嬢がギルドにいる冒険者に声をかけていたせいかギャラリーが多い。


 最初はプリンが相手をする事になった。


「いつも使っている武器を使っていいぜえ!本気が見たい!」


 マッチョの筋肉が隆起する。

 マッチョは靴を脱ぎ、素足と素手で構える。

 プリンは素手で構えた。


「もう、始めていいの?」

「いいぜえ!」


 プリンは両手で手裏剣を取り出して投げる。


「良い速度強化だ!」


 そう言いながら手裏剣を避ける。

 プリンは刀を両手で構えてマッチョに迫る。


 プリンの繰り出した突きを左の拳でプリンの腕を弾くと、右腕の正拳突きがプリンにヒットする瞬間に止まった。


「参りました」

「仕切り直しだ!手加減するな!本気で攻撃していい!」


 その後プリンは5回斬りかかるが5回とも攻撃を防がれて終った。

 俺はものまねを発動させつつマッチョの動きを見ていた。


「次はアキだ!」

「出来れば試合じゃなくて体術訓練をお願いしたいです」

「ははははは、いいぜえ!俺の動きを見せる」


 マッチョは唐突に型を始めた。

 正拳突き、蹴り、その流れるような動きをものまねする。


「おいおい!ものまねのレベルが高えのか?ついてくるじゃねえか。次はもう少し速く動くぜ!」


 俺はマッチョの型をコピーするようにものまねする。


「次はお前をゆっくり攻撃する。ミラーで返せ!」

「オス!」


 右手の正拳突きに左手の正拳突きを合わせる。

 蹴りに蹴りを合わせ、お互いが鏡のように打ち合う。


『体術レベル1取得』


「ははははははは!良いじゃねえか!もう覚えたか!次はもっと早く行く!」


 マッチョの動きは徐々にスピードを上げ、威力も増していく。


 周りの冒険者がその動きに見入る。


「ものまね士は弱い……はずだよな?だがどうだ?あのGランクは、マッチョの動きについていってやがる!」

「マッチョの動きに合わせて進化している!どんどん動きが良くなってるぜ!」

「もう体術を取得したのか!」


 体術を覚えた瞬間の感覚がたまらない!

 生まれ変わったように体術の動きが良くなるこの感触が気持ちいい!

 俺は何度も拳を重ね、何度も蹴りを打ち合い、何度も吹き飛ばされ何度もマッチョの動きをミラーで返した。


『体術レベル1→2』


「ストップ!すとーっぷ!ギルド長!もう終わりです!アキさんの手足から血が出てるじゃないですか!」


「あ!すまねえ!つい楽しくなっちまってな」

「はあ、はあ、はあ、もう少しお願いします!この感覚を掴んでおきたいんです!」

「終わりだ!後でまた付き合ってやる!それよりもプリン、アキ、それとチョコもだが。部屋で話をするぜ」


 俺達はギルド長に連れられて応接室に入った。

 受付嬢が皆に飲物を出して俺の手足に包帯を巻いてくれた。


「チョコ、2人ともどれだけスキルを上げてやがるんだ?プリンの刀と投てきレベルが高い。極めつけはアキだ。ストレージを使ってたった一日で体術を取得するほどのものまねレベル、普通はありえねえ!どうなってやがる?アキはどんなスキルを持ってやがるんだ?」

「プライバシーがありますから」


 ギルド長は俺に頭を下げつつ言った。


「ステータスを見せてくれねえか!頼むぜ!」


 ギルド長が俺の両肩を掴む。

 力が強い!

 熊のような体型だと思っていたがゴリラのように見えてきた。

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