第16話 非日常の始まり 16

 目の前にいる1人の男、彼は寺島てらしまと名乗った。

 つい先程までは、テンションの高い酔っぱらいだなぁと思っていたのだが……


坂下航さかしたわたる君……だろ?」


 その一言を聞いた瞬間、航は目の前にいる男が別人に思ってしまった。

 姿が変わったとか声が変わったとか、そういう事ではない。姿も声も先程と変わっていない。浮かべている笑みも変わっていない。だが……


(な、なんだ……この……感じ……)


 この男の雰囲気……とでもいうのだろうか、それが変わったのだ。

 どこか……威圧されるような、恐ろしく感じるものに。


「あの……何処で会いましたか……?」


 航は目の前のソファに座っている寺島に、聞いてみた。もしかしたら自分が忘れているだけで過去に会っている可能性もある。


「いや?君とは今日が初対面だよ?」


 しかし寺島は、航にそう言ってきた。


「え……?だったら何で名前を……」

「何でだと思う?」


 航の言葉に寺島は、ニヤニヤしながら言ってきた。しかし、やはり何処か威圧の様なものを感じる。


「……なんてね、はっはっは!」


 すると寺島は、笑い出した。航が困惑していると寺島は、ごめんごめんと言って謝ってくる。


「どういう反応するかなぁと思って、ちょっと試してみちゃったよ。ごめんねぇ!」

「は、はぁ……そうなんですか……」


 寺島の言葉に航は、若干引きながら言葉を返す。先程から感じていた圧の様なものもいつの間にか消えていて、テンションが高い状態に戻っている。


「……支部長?」

「おっとっと、姫ちゃんそんなに睨まないで。ここからはちゃんとやるからさ」


 航の隣に座っている少女、姫川結衣ひめかわゆいが軽く睨むと、寺島はそう言った。そして寺島は、ふぅっと息を吐くと……


「えぇっと、何で君の名前を知っているか……だったっけ?」


 と言ってきた。初対面の筈なのに何故この男は航の名前を知っていたのだろうか。


「なに、理由は簡単さ」


 そう言うと寺島は、テーブルの上に置いていたタブレットを手に取る。そして画面を航に見せてきた。

 画面には、何やら報告書と書いてあり、そこには……


(えっ?俺に名前が書いてある……?)


 航が画面を見ると、そこには自分の名前が書いてある。つまりこの報告書というのは……


「君に関する報告書だよ」


 寺島は航に対してそう言ってくる。そしてタブレットの画面を自分の方へ向ける。


「実はさぁ、君の事をちょ~っと調べさせてもらったんだよね。まぁ、中身はまだ見てないんだけどね」

「……何で見てないの?」


 結衣が再び寺島の方を見ると、寺島はちょっと待ってよ~と言ってくる。


「姫ちゃん、おじさん昨日の夜からずっと仕事してたって言ったじゃん。だから見てる暇なんて……」

「お酒飲んで、酔いつぶれて寝てたのは誰だっけ?」

「まあまあ、それについてはまた後でってことで……ね?」

「はぁ……」


 結衣は寺島の言葉に呆れたようにため息を吐く。一方の寺島は、タブレットの画面を操作して報告書を確認し始めた。


「えぇっと何々……、名前は坂下航さかしたわたる、年齢は16歳……」


 寺島は報告書を見ながら書かれている事を言っていく。


「身長は175cm、体重は…………って別にこの辺は見なくてもいいかな」


 寺島は途中で言うのをやめて、別の場所を見る。


「生まれも育ちも藍王市らんおうし……か、そうなの航君?」

「へ?あ、あぁ……はい」


 急に聞かれた為、少し変な声を出してしまった。航は恥ずかしい気分になるが、対する寺島は気にしていないのか続けていく。


「今年の春から藍王市にある、藍王高校に入学。ってことは、入学してから大体1ヶ月ぐらい経ってるって感じかな?」

「まぁ、そうなりますね」

「成績は……あんまり良くないみたいだねぇ。まぁ、気にしない気にしない!」

(いや、そう言われると……気にするんだが……)


 通っている学校の名前も出てきて成績の事まで出てきた。何というか、こういった事まで調べるのかと、少し引いてしまう。


「次は……家族について……だね」


 寺島そう言ってタブレットを操作して、家族の部分を見ていく。


「家族は、父親、母親、妹、そして君を含めた4人家族」


 報告書を見て寺島は、書かれていることを読んて行く。


「父親の名前は、坂下剛さかしたつよし。年齢は40歳。職業は……研究員。現在は、とある研究機関で働いていて、職階は室長かぁ。お父さん、凄いねぇ!」

「そ、そうですね……。まぁ、仕事が忙しいのか、家に帰ってくることは少ないですけど」


 特に最近は忙しいのか、さらに帰ってくる回数も減っている。ただ家族との関係は悪くなく、とても良好だ。


「母親の名前は、坂下光莉さかしたひかり。年齢は38歳で主婦。料理が得意みたいだねぇ」


 寺島の言っていることは合っている。後、どこかおっとりとしている部分もあるが、父親が普段家にいない為、家を任されているという事でしっかりしている部分もある。


「そして妹さんの名前は、坂下…………ん?」


 寺島の言葉が途中で止まった。何やらタブレットの画面をジっと見ている。


(……?どうしたんだ……?)


 航がそう思っていると、寺島は……


「…………へぇ、なるほどぉ……そうだったんだねぇ……」


 と言って、タブレットの画面をマジマジと見ている。本当にどうしたのだろう。


「あの……、どうかしたんですか……?」

「……いや、何でもないよ、ごめんごめん」


 航の言葉に寺島は謝り、報告書を読むのを再開する。


「妹さんの名前は、坂下茜さかしたあかね。年齢は15歳。現在は全寮制の女子中学校に通っている学生。運動が得意……」


 寺島はそう言ってくるが、顔には笑みを浮かべてる。

 そして、家族の事を一通り言うと、寺島は航の方を見て……


「……っと、まぁこんな感じで君に関すること、君に関係する人達の事を調べた訳なんだけど……何でか分かるかい?」


 寺島は航にそう言ってきた。

 何故か?。そう言われると航に思いつく理由は1つしかない。あの事しか……。


「昨日の夜の事……ですか?」


 航がそう言うと、寺島は正解!と言って右手の人差し指をさしてきた。


「昨日の夜、君は1人の男に出会っているよね?」

「は、はい……」

「しかもその男は普通じゃなかった。だよね?」

「そうですけど……」


 体を部分的に、又は全体を大きく出来るなど普通の人間ではない。


「そして君は男に襲われた。ただそこでおじさんは考えたんだよ。何で君は襲われたのかってね。だから調べたんだよ。襲ってきた男の事、そして君の事を」


 寺島は航の方に顔を向ける。そしてまた、威圧のようなものを感じた。表情は笑みを浮かべているのに。


「君を襲ってきた男の方は、まだちょっと時間がかかるみたいなんだけど、航君の方は早く調べ終わったから、内容を確認しようと思って姫ちゃんにお願いして君を此処に連れてきてもらったんだよ。」

「それだけじゃないでしょ」


 すると結衣が寺島にそう言った。


「坂下君を此処に連れてきた理由、もう1つあったでしょ?」

「…………大丈夫だよ姫ちゃん、忘れてないから!」


 寺島は、はっはっはと笑う。航は隣の結衣を見てみると、結衣はコイツ今思い出したな……といった顔で寺島を見ている。


「姫ちゃんの言う通り、実はここに来て貰った理由はもう1つあるんだよ」

「もう1つの理由?」

「そう、理由。航君、君に1つお願いがあるんだ」


 寺島は航にそう言ってきた。お願いがあると。いったい何だろうか。


「あの、お願いとは……何ですか」

「あぁ、実はね航君……


 この瞬間だけ、寺島の口調が少しだけ変わった。































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異能の力がある世界 黒刃 @sasamoti

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