第13話 非日常の始まり 13
授業が終わって放課後の時間となっている校内。
「放課後、屋上……だったよな」
航はそう言って、階段を上っていく。
今日の昼休み、ある少女と一緒に昼食を取った時に少女が言ってきたのだ。とある場所に来てくれれば、航の知りたいことがもしかしたら知ることができるかもしれないと。
「まぁ、その場所がどこかは教えてくれなかった訳だが……」
しかし、肝心の場所を少女は教えてくれなかった。分からないではなく、ただ教えてくれなかった。少女は、もし一緒にその場所に来てくれるのであれば、放課後にもう一度、屋上に来てほしいと言っていた。
普通に考えれば怪しいのだが……
「昨日あった事も……気になるしな……」
昨日の夜に不審な男にいきなり襲われて、その男からある少女が助けてくれた。ただその2人は、体を変化させたり刀を使っていたりと、現実とは思えない事をしていた。それに航自身も……。あれは一体何だったんだろうか。
そう思っていると、階段を上り終えて屋上の入り口に辿り着く。航が入り口の扉を開けて屋上へ出ると、そこに1人の少女がいる。
整った顔立ちをしていてスタイルの良い体つき。髪は黒色ストレートのセミロング。そして瞳の色は深い紅、深紅色をしている。
名前は、
彼女は屋上に設置してあるベンチに座っていて、スマホを操作している様だ。
航が近づいていくと、結衣はこちらに気付いたのか顔をこちらに向けてくる。
「坂下君、来たんだね」
「まぁ……な」
「来たってことは、この後私と一緒に来てくれるってことで良いんだよね?」
「そういう事になるな。俺も気になることは色々あるから」
「そう、わかった」
結衣はそう言うとスマホを制服にしまってベンチから立ち上がり、鞄を持つ。そして航の方を見て……
「それじゃあ、行こっか」
と言って、屋上入り口の方へ向かって行く。航も結衣の後を付いて行くような感じで入り口の方へ向かう。
そして2人は階段を下りていき、生徒玄関の方へ向かって行く。その際に結衣は何人かの女子生徒から声を掛けられていた。というか、結衣に声を掛けていたのはクラスの女子生徒だった。
「凄いな。もう仲良くなったのか」
航が言うと、結衣はそう?と言ってくる。
「別にそこまで凄いことでもないと思うけど」
「いやいや、転校初日なのにあれだけ仲良くなってるのは凄いことだろ」
「そうなのかな、あまり気にしたことないし。それに……」
「それに?」
航がそう聞いてくると、結衣は数秒ほど間を置いてから……
「それに、今後どうなるかは分からないし」
「えっ」
結衣の言葉に航は、少し驚く。今後は分からないと結衣は言ったが、それはどういうことなのだろうか。そう思っていると、結衣が航の方を向いてくる。
「っていうか、坂下君も仲の良い友達はいるでしょ」
「まぁ一応な」
「……その内2人は、ちょっと癖が強いけど」
「うん……それは……否定できない……」
絶対にあの2人だよなと航は心の中で思う。それにちょっとではない。
そんなことを話しながら航と結衣は生徒玄関で靴を履き替えて、外へ出て校門へ向かう。そして校門を出た所で結衣が航に言ってくる。
「ちょっと歩くことになるけど、大丈夫?」
「それはまぁ、大丈夫だけど……場所はやっぱり言えないのか?」
「ごめん、それは言えない。決まりだから」
「そ、そうか……」
場所をもう一度聞いてみたが、返答は変わらなかった。恐らく、何回聞いても同じ返答をされるのだろう。
(決まりだから……か……)
昨日の夜の時もそうだったが、結衣は何度かそう言っている。決まりだから言えないと……。
今から行く場所は、周りにバレると不味い所なのだろうか。
(なんかちょっと、不安になってきた……)
航は心の中で思う。とはいえ、やっぱり行くのをやめますとも言いにくい。
そんなことを思っていると、結衣が何故か校舎側を見ていた。
「姫川?どうかしたのか?」
航が声を掛けると、結衣は数秒ほど校舎側……正確には生徒玄関の方を見た後に……
「……ううん、なんでもない」
と言ってくる。
「えっと……、忘れ物でもしたのか?それだったら俺はここで待ってるから……」
「そういうのじゃないから、気にしないで」
そう言うと、結衣は歩き出す。航は結衣の見ていた方を見てみるが、生徒玄関に何人かの生徒が見えるだけで、それ以外は別に何もない。
(う~ん……何か気になった事でもあったのか?)
そう思うが、しかし結衣は気にしないでと言っていた。そしてそのまま歩きだして、いつの間にか距離が開いていて……
(……ってやばっ!置いて行かれる!)
航は急いで結衣の後を追う。そして結衣の言っているある場所へ向かって歩いて行く。
学校から歩いて1時間以上が経過していた。その間、航と結衣は何も喋らずに歩いていた。ただ結衣は、スマホをいじって何かをしていたみたいだが、何をしていたか航には分からない。
(かなり歩いたが……まだ歩くんだろうか……)
長時間歩き続けて、航は疲れが出てきている。
ちょっと歩くと結衣は言っていた為、そこまで遠くはないのかなと思っていたが、そんなことはなかった。
途中、バスに乗って移動しないかなとも思ったが、それもなかった。それどころか、歩いている航と結衣の横を通り過ぎて行っている。
(……姫川は、疲れてないのか……?)
航は前を歩いている結衣を見たがそんな様子はなく、歩く速さは変わっていない。余裕がある様にすら見える。
(流石に……そろそろ……着いてほしい……)
そう思いながら歩いていると結衣の足が止まった。
目的の場所に着いたのかと思い、航は前を見てみると……目の前には大きな建物が建っている。建設途中の……
「……姫川、目的の場所ってもしかしてここか?」
まさか、この建設現場に何かあるのだろうかと思ったが、結衣は周りを見渡している。そして何かを見つけたらしく……
「坂下君、こっち」
と言って、また歩き出した。結衣が向かって行っているのは建設現場の方ではなく、別の方向だ。航は後に付いて行くが、その先にあったのは駐車場だった。それも、地下駐車場だ。
地下駐車場に入っていくと、広い空間があって何台かの車が駐車している。そして警備員が航と結衣の方を見ている。
「姫川……?なんか警備員の人に見られてるんだけど……」
「大丈夫だから、気にしないで」
結衣は警備員の視線など気にしていないのか、そのまま奥の方へ向かって行く。航は結衣の後を追うが、もう一度警備員の方を見ると、警備員はすでにこっちを見ていなかった。
奥の方へ向かって行くと1台の車が駐車している。結衣と航が近づいていくと、運転席から1人の女性が降りてきた。見た感じでは航達よりも年上だが、それよりも航が気になったのは彼女の服装だ。
彼女が来ているのは黒色の軍服だ。その軍服を着ている者たちを航は昨日見ている。つまりこの女性は……
(姫川や昨日の人達の仲間……?)
航がそう思っていると、結衣が彼女と何か話し始めていた。数十秒くらい話した後に女性は運転席に戻り、結衣は航にこっちに来てと言ってきた。航が結衣の方へ行くと車の後部座席の方のドアが開いている。
「ここからは、車で移動するから乗って」
「あ、あぁ……分かった……」
航は、言われるがままに車に乗り込む。そして航が乗った後に結衣も隣に乗ってきて、車のドアを閉めてシートベルトを付けると、車のエンジンが掛かってゆっくりと動き出した。
「……姫川、目的の場所にはまだ時間がかかるのか?」
1時間以上歩いて、そこからさらに車で移動となると、かなり距離があるのだろうか。というか、もしそんなに距離があるのなら最初から車などによる移動でよかったのでは航は思っていたが……
「その事なんだけど……坂下君、ちょっと外を見てくれる?」
「えっ?あぁ、うん……」
航は結衣が座っている側の車の窓から外の様子を見てみる。すると外には先程の警備員と数人の学生がいた。どうやら警備員に何か聞かれている様だが、航が気になったのは学生の方だ。
「あれ?あの制服って俺達の通ってる学校の制服だよな?」
「うん」
「じゃあ、俺達と同じ学校の生徒……?」
航の言葉に結衣は、たぶんねと言ってくる。しかしなぜ
そう思っていると、結衣が彼らを見て……
「あの人達、私達の後をつけてきてたんだよ」
と、航に言ってきた。その言葉に航は驚くが、学校を出る時に結衣が生徒玄関の方を見ていたのを思い出した。
「もしかして姫川があの時、生徒玄関の方を見ていたのって……」
「うん、明らかにこっちを見てたから怪しいとは思ってたんだけど」
姫川はそう言って、窓の外を見る。車はすでに地下駐車場を出て道路を走っている。
「そしたら案の定、私達をつけてきてたんだよね」
「そうだったのか……」
「まぁ、すぐに何処かに行くって思ってたんだけど、意外としつこくて」
姫川はそう言って、ふぅっとため息をつく。
「でも、今から行く所の場所をあの人達に教える訳にもいかない。だから坂下君には悪いけど、わざと時間をかけたの」
「そ、そうだったのか……」
「うん。ごめんね」
「あぁ、いや、別にいいよ」
結衣は航の方を見て謝ってきたが、航は大丈夫だと言う。
「だけど、あの地下駐車場いたってことは、それでも後をつけてきたってことだよな?」
「そうなるね」
「……俺達と同じ距離をその人達も歩いてきたのか……」
「まぁ、その部分は別の意味で凄いかもね」
結構な距離があったはずだが、きつくなかったんだろうか……。
「だけど、何で俺達の後をつけてきたんだろ?」
そして次に疑問となってくるのは、理由だ。後をつけてきている以上、そこには何らかの理由、又は目的があるはずだ。
航がそう言うと、結衣は……
「ただの興味本位、或いは別の理由のどちらかだと思うけどね」
と言ってくる。
前者は、結衣が今日転校してきたばかりだから、そんな彼女と一緒に何処へ行くのかが気になる。だから後をつけてみよう……といった感じだろうか。
だが後者の別の理由というのは、どういう理由なのだろうか。
「なぁ姫川、別の理由っていうのは、どんな理由なんだ」
「うん、例えば……」
結衣は、航を見ながらもう1つの理由を言ってくる。
「昨日の夜、坂下君を襲ってきた男の関係者……とか」
深紅色の瞳で航を見ながら結衣がそう言う。航は彼女に若干気圧されながらも、確かにその可能性もあるのかと心の中で思う。そう思うと少しだけ、恐怖を感じてしまう。
すると結衣は、航の思っていることを見透かしたのか……
「……まぁ、あくまでも可能性だから、そこまで気にしないで」
と言ってくれた。気を使わせてしまっただろうか。
「……そうだな。なんか……すまん」
「いいよ別に。今は車で移動してるし、さっきの人達はついてこれないだろうから大丈夫」
確かに車のスピードについてこれる人はいないだろう。というかいたら確実に人間ではない。
「それに、いざとなったら私が坂下君を守るから、安心して」
「えっ?」
航は結衣にそう言われると、先程まであった恐怖感が何故かなくなった。その代わりに安堵感を感じてくる。
(何だろう……凄く……落ち着いたというか、何というか……)
航は結衣の方を見てみると、結衣はまたスマホをいじっている。ただ航の視線に気付いたのか、こっちを見てくる。
「ん?どうかした?」
「えぇっと、その……ど、どれくらいの時間で着くのかなぁ……て思って……」
少し変な声になりながら、航は咄嗟に考えた事を結衣に聞く。
「大体、10分弱で着くよ。だからそれまで坂下君も休んでて」
「あぁ、わかった……」
結衣は再びスマホをいじり始めた。
航は体を少し楽にして、鞄からペットボトルを取り出して中身を飲む。長時間歩いて疲れたからか、いつもよりおいしく感じる。
そして車は目的の場所、ある場所へ向かって走っていく。
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