第12話 非日常の始まり 12
午後の授業が終わり、今は放課後の時間となっている。教室では部活に向かう生徒や教室に残って談笑する生徒、そのまま帰宅する生徒など各々の行動をとっている。
「で、航氏?、結衣氏とはいったいどんな事をしていたのですかな?」
「そうだよ航ちゃん!結衣ちゃんとは、どんな事やっちゃったの!?」
特に福男と凛の2人が集中して聞いてくる。
2人の言う結衣氏、結衣ちゃんと言うのは、今日このクラスに転校してきた生徒の、
転校してきた初日にその生徒と一緒に昼食と取ったのだから、こういう事を聞かれても仕方がない。
「どんな事って……、普通に昼ご飯を一緒に食べたってだけで、それ以外は別に何も……」
それ以外にも色々と話したが、その事については黙っておいた。すると福男が……
「航氏……僕にとっては、それだけでも十分すぎるお……!」
「えぇ……」
悔しいがでも羨ましいという感じでそう言ってくる。一方で凛は……
「航ちゃん、まさか……あまりにもお腹が空いてたから結衣ちゃんのご飯を……」
「何で、そうなるんだ」
そもそも向こうから誘ってきたはずなのに、その相手の昼ご飯を奪うとかどれだけヤバい奴なんだと、凛の言葉に航は心で思う。
「……秀一、この2人なんとかしてくれよ……」
「あははは…………」
航は秀一に助けを求めるが、秀一は困ったように苦笑いをしている。
「でも、お昼の事は僕達だけじゃなくて、クラスの人達も気になってたみたいだし、福男君と鈴城さんが聞いてくるのも仕方がないんじゃないかな」
「それはまぁ……そうなのかもしれないが……」
航が秀一とそう喋っていると、凛がいきなり立ち上がった。
「よし、本人に聞いてみよう!」
立ち上がるなりそう言った凛。何か嫌な予感がするなぁ……と航は感じ、凛に聞いてみる。
「何をするって?」
「いやだからね?航ちゃんが結衣ちゃんのご飯を食べちゃったのかを、結衣ちゃん本人に聞いてみようってことだよ!」
ふふんっ!といった顔で凛が言ってくる。
こいつはまだ言ってるのか……と航が思っていると、教室に結衣が入ってくる。そして席に座ると凛が彼女に近づいていく。
「結衣ちゃんっ!ちょっといいかなっ!!」
「えっ!?な、何?……っていうか、誰?」
いきなり近づかれて大きな声で喋られたら、びっくりするだろう。すると、凛は何かに気付いたような顔になる。
「私は、鈴城凛だよっ!よろしくねっ!結衣ちゃんっ!!」
「よ、よろしく……」
「後、結衣ちゃんって呼んでもいい?もう呼んでるけどっ!」
「いいよ、別に……」
凛の勢いのある自己紹介に、結衣は押され気味で若干引いている。
「こっちは、航ちゃんだよっ!」
「こっちてお前……」
「えぇっと、知ってる」
何やら凛による紹介が始まった。航を紹介した凛は次に秀一の方を向いて……
「そっちは、秀ちゃんだよっ!」
「佐藤秀一です。よろしくね、姫川さん」
「うん、よろしく」
名前を省略して凛は紹介していたが、秀一はちゃんとフルネームで言って訂正する。そして今度は、福男の方を向く。
「最後は、福ちゃんだよっ!」
「……僕の名前は、ぜ、ぜぜ、善財ふ、福男だお。よ。よろしくだお、ゆ、結衣氏!」
「……?、結衣氏って何?」
「あぁ、それは福男の独特な呼び方だから気にしなくていいぞ」
「そうなの?……まぁ、よろしく」
福男が緊張していて答えられそうになかった為、結衣の疑問に、航が代わりに答える。そして福男の紹介が終わると、再び凛が口を開いて結衣に聞いてくる。
「それで結衣ちゃんっ!ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかなっ!!」
「いいけど……ちょっと声抑えて……」
結衣がそう言うと、凛はやや声と勢いを抑えながら……
「結衣ちゃん、航ちゃんにご飯盗られたって本当!?」
「…………どういう事?」
「えぇっと、つまりだな……」
凛の言ったことが分からなかったのか、結衣は航の方を見てどういう事かを聞いてくる。航は結衣に昼休みの時の事が……と説明をすると、結衣は何となく理解したという顔になった。
「坂下君とは、一緒にご飯食べただけだよ」
「本当に?航ちゃんに口止めされてない?」
「その可能性はありますな。それに航氏と一緒にご飯を食べた理由も気になりますな!」
「お前らなぁ……」
いったいどれだけ昼食を奪ったことにしたいのか。そして何故か福男も一緒になって結衣に聞いている。
「本当にご飯を一緒に食べて、ちょっと喋ったくらいだよ。後、坂下君を誘ったのは……まぁ席が隣だし、最初に仲良くなっておこうかなって思っただけ」
結衣がそれっぽい理由を言うと、凛と福男は……
「そうだったんだね。まぁ、私は航ちゃんはそういう事はしないって分かってたけどね!」
「むう……理由の方はなんか適当に言われてる気がするけど……わかったお」
といって、一応納得はしてくれたようだ。ただ凛の納得に関しては、航はどこか腑に落ちないところを感じる。
そう思っていると、結衣は鞄にノートや教科書などを入れ始めた。
「あれ?結衣ちゃん今日は帰るの?」
凛がそう言うと、結衣は頷いて席から立ち上がる。
「今日はこの後、ちょっと用事があるから」
結衣はそう言って、航の方に少し視線を向ける。用事……というのは、恐らく昼休みの時に言ってたことだろう。
「それじゃあ、また」
そう言うと、結衣は鞄を持って教室から出ていこうとするが……
「結衣ちゃんまた明日ねっ!」
凛がそう言って結衣に手を振っている。すると結衣は、教室のドアの所で止まり凛の方を見て小さく手を振る。そしてもう一度、航の方を見て教室から出ていった。
凛は、結衣が自分に手を振ってくれたのが嬉しかったのか、航の方を見て何故かドヤ顔をしてきた。何なんだこいつは……。
「さてと、僕達はこの後どうするお?」
福男がそう言ってくる。いつもだとこの後は、4人または3人で何処かに寄って遊んだり、食べたりしてから帰っているのだが、航にも今日は用事がある。
「悪い、俺、担任に呼ばれてて、この後職員室に行かなきゃいけないんだ」
「職員室に?航氏何かやったん?」
「いやぁ、俺もよく分からないんだけどな……」
そんな事を言うが、勿論担任に呼ばれてなどいない。この後行く場所に、福男たちが一緒に来ないようにする為の嘘だ。すると凜が航の方を怪しむように見てくる。
「航ちゃん……」
「な、何だよこっち見て……」
「……やっぱり、結衣ちゃんのご飯を……」
「まだ言うかお前は……!」
航がそう言っていると、秀一がちょっといいかなと言ってくる。
「実は、僕も今日はちょっと用事があって……」
「むむっ?秀一氏もかお?それはまた一体どんな用事で?」
「まぁ……ちょっと、色々とね」
理由については、秀一は濁すような言い方をして言わなかった。言いたくない理由があるのだろうかと思っていたが……
「実は、私も今日は用事があるんだよっ!!」
と、凛が大きな声で言ってきたので、その事は反ば強制的に消えた。
「なんとっ!?凛氏もかお!?」
「そうなんだよ!早く家に帰って遊びたいという大事な用事があるんだよっ!」
凛がそう言って福男がその後に、な、なんだってー!とわざとらしく言っている。
「福男は、ノリがいいよな……」
「あはは……」
そんな2人を見て、航と秀一は色んな意味で関心する。
「う~む……どうやら、みんな都合が悪いみたいだから、今日はもう解散っていう事にしておきますかな?」
「そうだな、今日はそうしておいた方が良いだろ」
「私もそれで良いよ!」
「僕もそれで良いかな」
福男がそう言うと、航達もそれに賛成をする。このまま解散になれば、航にとっても都合がいい。
「よし、じゃあ今日はこのまま解散にするお!」
福男の言葉に他の3人も頷いて、帰り支度をする。その際に凛が秀一にどんな用事なの~と聞いていて、秀一が困っていた。
そして教室を後にして、階段を降りた所で……
「それじゃあ、俺は職員室に行かないといけないから……」
航はそう言って、福男達とは別の方の廊下へ行こうとする。
「おっと、航氏はそうだったお。航氏、また明日だお!」
「またね、航君」
「じゃあね!航ちゃん!」
福男達は航にそう言って、生徒玄関の方歩いて行った。そして3人の姿が完全に見えなくなった所で……
「……さてと」
航は、降りてきた階段を上り始める。教室に忘れ物をしたとか別にそういう事ではない。
「確か、屋上だったよな」
航はそう言って、教室ではなく屋上に向かう。ある少女が待つ屋上に。
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