第9話 非日常の始まり 9

 朝の学校の教室で、坂下航さかしたわたるは、やや疲れ気味で机に突っ伏している。

 昨日の学校の帰り道で不審な男に出会い、いきなり襲われたためだ。しかもその男は、腕や足などを巨大化させるという訳の分からないことをしてきた。

 その後は航自身の腕に鎧のようなものが着いたり、刀を持った少女に助けられたりと人に話したら信じてもらえなさそうな事が立て続けに起こった。


 その為、昨日はいつもより疲れたので早めに就寝したのだが……


(何だろう、思ったよりも疲れが取れてないなぁ……)


 昨日、航は男に襲われた時に腕が急に光だして鎧のようなものが装着された。その鎧を使って男と戦ったのだが、直ぐに鎧が消えてしまいその直後に強烈な眩暈と疲労感に襲われてしまった。その時は動くことすら出来なかったので、そう思えば回復はしているのだが。


(それに……やっぱりと言うか、警察の人たち多かったなぁ)


 今日、学校までの通学路に多くの警察官やパトカーが見られた。例の傷害事件の影響で昨日から学校近辺のパトロールが強化されているからだろう。学校の校門の近くにも数人の警察官がいた。ただ、それにしても多いような気もする。


 そんなことを思っていると、前の席に座っている生徒から声を掛けられる。


「航君、なんか疲れてるみたいだけど大丈夫?」


 そう言ってきたのは航のクラスメイトの1人、佐藤秀一さとうしゅういちだ。彼とは高校で一緒になって付き合いはまだ短いのだが趣味などの話が合い、あっという間に仲良くなった。


「あぁ……まぁ、大丈夫だよ。全然大丈夫」


 昨日あったことを言う訳にはいかない。航は適当に返事をする。

 そう言うと今度は別の生徒が声を掛けてきた。


「むむむっ?航氏、何か隠してる?」


 そう言ってきたのは、秀一の隣の席に座っている生徒、善財福男ぜんざいふくおと言う生徒だ。秀一と同じくクラスメイトの1人で、航とは中学から一緒だ。航や秀一よりも背が大きいが、横にも大きい。後、アニメやゲーム、漫画と言った二次元オタクで、その知識は恐らくこの学校で右に出る者はいないだろう。


「はっ!?もしかして昨日実装された、新キャラをすでにゲットしたとか!?」


 福男はそんなことを言ってくるが、航は違うと言う。


「昨日帰った後にちょっといろいろあって……まぁ、そんな感じだ」

「あっ!……もしかして昨日帰りが遅くなって怒られてしまったとか?。だとしたら済まなかったお……。僕と凛氏がゲームに夢中になっていたせいで……」

「い、いやそうじゃないって。昨日のゲーセンとは関係ないからさ」


 ゲームセンターからそのまま何事もなく帰れていたとしたら、何故遅くなったのか理由は聞かれたかもしれないが、怒られるということはなかっただろう。


「だから、気にしなくていいぞ」

「わかったお航氏。因みに僕は新キャラ手に入れたお」

「…………ん?」


 何だろう。今一瞬、勝ち誇った言葉が聞こえたような。航は恐らく聞き間違いだろうということにしておいた。

 そんな事を思っていると、秀一がそう言えばと言ってきて……、


「昨日の夜、藍王市らんおうしに外出と交通の規制がでてたよね」

「あ、あぁ……そう言えばそうだったな」

「例の事件の犯人が現れたとかで規制が敷かれたみたいですな。ネットでもちょっと話題になってたお」


 福男の言葉に航は、例の事件の犯人……と心の中で思ってしまう。

 その犯人と言うのは、昨日航を襲ってきたコートの男だろう。


「後、関係あるのかは分からないけど、藍王市にある公園の1つがボロボロになってたみたいだお。なんでも地面にヒビが入っていたり、割れてたりしてたみたいだお」


 その他にも……と福男は言っているが、航は別の事を思い出していた。

 福男が言っている公園で航を助けてくれた少女の事だ。深紅色の瞳をしていて軍服のような服を着ていた少女と何人かの人達。

 彼女らは一体何者だったのだろうか。家まで送ってくれた後の事は航は知らない為、分からないままだ。

 そう思っていると、教室の扉が開いて元気のいい声が聞こえてくる。


「おっはよー!!」


 教室に入って来たのは、鈴城凛すずしろりん。秀一や福男と同じくクラスメイトの1人で、航とは中学からの付き合いだ。

 他の生徒が凛におはようと挨拶をしており、それに対し凛は挨拶を返しながら自分の席に向かって行く。


「おはよー!航ちゃん、秀ちゃん、福ちゃん!」

「おぅ、おはよう」

「おはよう、鈴城さん」

「おはようですぞ、凛氏」


 航達3人は、凛に挨拶をする。


「今日は早めに登校したよ!」


 凛は、フフン!といった感じでドヤ顔をしてくる。昨日は遅刻ギリギリで教室に入って来たので、今日は余裕をもって登校してきたのだろうが……


「どう?航ちゃん?今日は先生が来る前に来たよ!」

「そうだな、ホームルームの5分前だがな」


 正直昨日とあまり変わらないんじゃないか?と航が思っていると、凜は航の方を見てくる。


「あれ?航ちゃん……」


 と言ってくる。不思議そうに見てくる為、航は一体何なんだと思ったが、


「……の隣にある席って誰の?」

「あぁ、そっちね……」


 航の疲れを見抜いて心配してくれたのかと思ったが、そうではなく航の席の隣にある机と椅子の方を見ていたらしい。


「なんか、教室に来た時からもうあったんだよ。誰のかは知らんけど」


 航の席は窓側の一番後ろで、その前が秀一の席でその隣が福男の席、秀一の前が凛の席となっている。そして航の隣には席はなく、本来は空いているはずなのだが……


「あっ!もしかして航ちゃん、贅沢にも1人で2つの席を使って授業を受けるつもりで……」

「そんな訳があるか」


 凛の言葉に航はツッコミを入れる。そんなことをすればクラスの生徒たちから変な目で見られるし、その状態で授業を受けるなど航にはそんな度胸はない。っというか教師が、なぜ2つ席を使っているんだと真っ先に聞いてくるだろう。


「普通に考えると、転校生が来る……とかじゃないかな」


 秀一の言葉に凛は、なるほどと言う。


「確かにそれなら、知らない席があっても変じゃないね!」

「まぁ、まだそうと決まった訳じゃないけど……」

「いやいや、絶対に転校生だよ秀ちゃん。だよね!航ちゃん、福ちゃん!」

「そう……なのかもな。それぐらいしか理由が思いつかないし」


 航がそう言うと、福男が何やら考えている顔で……


「フム……転校生……」


 と言っている。何か気になる事でもあるのだろうか。


「どうかしたのか?なんか考え込んでるみたいだけど」

「うん、ちょっと思ったんだけど……」


 福男は何か思うことがあるようで、航にある事を言ってくる。


「アニメや漫画とかだと、大体は美少女が転校して来るよね?」

「お、おぅ……そう、だな?」

「で、クラスがおお!っとなっている中1人だけ、あ!あの子は……みたいになっている男子、もしくは女子がいる訳だお!」

「あぁ……うん……」


 何やらいきなり熱弁し始める福男。難しいことでも考えているのかと思っていたがそうではなく、いつもの福男だった。


 そう思っていると、教室のドア開いて担任の教師が教室に入ってくる。

 担任が早く席に着けーと言い、生徒たちは各々の席に向かい座る。全員が座ったのを担任が確認していると……


「おっ、鈴城は今日はちゃんといるな」


 と言い、凛の方を見る。すると凜は、いますよー!と言って手を振っている。


「今日は、昨日と違って二度寝をしないで時間に余裕をもって登校しましたよ!偉いですか先生!」

「おぅ、偉いぞ。ただ出来るなら、今後もそれを継続してくれると先生は嬉しいぞ」

「自信はないけど頑張ります!」


 凛と担任のやり取りに、クラスは笑いに包まれる。二人のやり取りは、このクラスでは当たり前のようになっている。


「まぁそれはさて置き、ホームルームを始める前に……実は良いニュースが1つある。実はこのクラスに転校生が一人転校して来てな。だから今から転校生の紹介をしようと思う」


 転校生と言う言葉にクラスがざわめき立つ。そして何故か、凛が航の方を見てドヤ顔をしている。転校生という部分が当たったからだろうか。


(転校生って言ったのは秀一が先だったような気が……)


 そう航が思っていると、担任が教室のドアの方へ顔を向けて……


「よし、入ってきていいぞ」


 と言う。するとドアが開いて、1人の少女が入って来た。少女は教壇に向かい、教壇に立って生徒たちの方を向く。


 入って来た少女を見てクラスの生徒達は、おおっ……!という反応になっている。特に男子生徒が。

 しかし、航だけは違う反応をしていた。


「えっ……?」


 航は、教室に入ってきた少女を見て驚く。何故ならその姿に見覚えがあるからだ。


 整った顔立ちをしていて、身長は女子にしてはそこそこ高めで、髪は黒色ストレートのセミロング。体つきも高校生とは思えないほど良く、スタイルがとても良い。


 そして何より瞳の色。彼女の瞳の色は深い紅、深紅色をしている。


「それじゃあ、自己紹介をしてくれるか?」


 担任の言葉に少女は頷き、少女が口を開く。そして……


姫川結衣ひめかわゆいです。よろしくお願いします」


 そして航は、少女……姫川結衣と再会をする事になった。























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