第8話 非日常の始まり 8
家のリビングにあるソファ。そのソファに
「…………」
航は、別に今やっている討論番組を見たくて見ている訳ではなかった。テレビをつけると今の番組がやっていて、それをただ見ているだけといった感じだ。そして、討論のテーマが……
「能力者……か……」
航は番組を見て、そう言う。
航が家に帰ってきてまず最初にあったのは、母である
家に帰って来た時の時間は、午後の8時を過ぎていて外は当然真っ暗だった。しかも帰ってくるまでの間、家に何も連絡をしていなかった為、余計に心配をさせてしまっていたのだ。
光莉は怒鳴り散らすというわけではなく、ただ心配だったと言い航の身を案じてくれていたようだ。そして今後遅くなる時は必ず連絡を入れてほしいと言われ、航も連絡を入れることを約束して説教は終わった。
その後は、夕食を食べてからお風呂に長めに入り、リビングに戻ってソファに座りテレビをつけたら、テーマが能力者の討論番組がやっていた。因みに時間は午後10時を過ぎており、かなり長く入浴していたようだ。光莉はすでに就寝しているらしく、リビングにはいない。
番組は、能力者は存在する側と存在しない側に分かれていて、それぞれが主張を言っている。
すると、リビングのドアが開いて1人の人物が入ってくる。
「あれ?お兄ちゃん、まだいたんだ」
そう言って入って来たのは、妹の
「まだいるよ。お前こそ、学校の寮に帰らなくていいのか?」
「ちゃんと外出の許可はもらってるから大丈夫。っていうか休みは2日間って言ったじゃん。だから明日も休み。まあ、午後には帰るけど」
茜はキッチンの方へ行き、冷蔵庫を開けて中からペットボトルを取り出す。どうやら飲み物を取りに来たようだ。そして部屋に戻るかと思ったが、そのまま航の方へ来て隣に座る。
「お兄ちゃん何見てるの?」
「ん?ああ……なんか能力者についての討論番組?……みたいなやつだな」
「ふーん……」
テレビでは、能力者がいる証拠の写真や映像のようなものが表示されていて、能力者は存在するんだと言っている。存在しない側は、それらの証拠は全部合成の写真や映像だと言っている。
「お兄ちゃんはさぁ、能力者っていると思う?」
「えっ!?な、なんだよいきなり?」
茜からの能力者と言う単語に驚き、少し変な声を出してしまった。
「……いや、テレビでこういうのやってるから、ちょっと聞いただけなんだけど…‥。どうしたの?」
「あ、あぁそうか……うん……そうだよな。えっと、そうだな……いるんじゃないか?」
航は、茜にそう答える。ただ、適当に答えたというわけではない。
(あんなことがあったからなぁ……)
家に帰る途中でフードの男に襲われたり、刀を持った少女に助けられたりとあり得ない体験をした。しかもその2人は、不思議な力を使っていた。
(多分あの2人は……)
能力者なのだろうかと航は心の中で思う。
だがそうなると自分はどうなのだろうか。
航もあの時、腕に鎧のようなものがついてフードの男と戦った。すぐに消えてしまったが……
(結局何だったんだあれ)
そう思っていると、茜が航の方を見ていた。とても、真剣に……
「な、なんだよ……なんか顔に付いてるのか?」
航がそう言うと、茜は……
「……別に何でもないよ」
そう言うと、茜はテレビの方に視線を移す。
(なんか同じことが朝もあったような……)
何か言いたいことがあったのだろうか。航はそう思ったが、何やら番組が盛り上がっている。能力者が存在する側の出した写真や映像が、存在しない側に悉く否定されてしまった為、存在する側の1人が声を荒げているみたいだ。
航は茜の方を見ると、うわぁ……と言う顔でテレビを見ている。
「なんか1人だけ、すごいヒートアップしてるね」
「まあ、あれだろ。自分の信じてるものを否定されるっていうのは、結構辛いんだろ」
「ああ、なるほどね。それは分からなくはないかも」
茜は、少し納得したという顔になる。そんな茜に航はある事を聞いてみる。
「なあ、1つ聞いてもいいか?」
「ん?何?」
「お前は、能力者っていると思うか?」
航の質問に茜は、う~んと言って考える。視線はテレビに向いているが。
「……いるんじゃないかな。能力者」
茜はそう言うと航はちょっと驚く。
「意外だな。てっきりいないって言うと思ってたよ」
「そんなことないよ。それに」
茜はテレビに視線を向けたままで言う。
「知らないだけで、意外と周りにいるかもよ?」
茜の言葉に航は、えっ?と言う言葉が出てしまう。何か意味がありそうな事を茜が言ったからだ。
「それってどういう……」
と航か聞こうとした時、テレビからある効果音がする。
航がテレビを見ると、上の部分にニュース速報と言うテロップが効果音と共に出ていた。
「えぇっと……
「あっ、やっと解除されたんだね」
茜はそう言うが、航は何のことだか分からない。
「なあ、規制って何のことなんだ?」
「あれ?お兄ちゃん知らかったの?ほら、朝のニュースでもやってた例の傷害事件。その犯人が近辺に出た可能性があるからって、外出と交通の規制がでたんだよ」
「……それって何時ぐらいにでたんだ?」
「確か午後6時ぐらいっだったかな。っていうかお兄ちゃん、ほんとに知らなかったんだね」
「うん、知らなかった……」
午後6時頃といえば、クラスメイトの
(もしかして、帰る時に人や車の通りが全然なかったのは規制があったからなのか?)
そう思うっていると、茜が航にある事を聞いてきた。
「そう言えばお兄ちゃん、今日帰ってくるのすごく遅かったよね」
「えっ!?そ、そうか?」
「うん、いつもだと大体6時前には帰ってきてるってママが言ってたけど、今日は8時過ぎに帰ってきたじゃん。それでママに怒られてたし。何かあったの?」
「えっと……それは……だな……」
何かあったのかと言われれば何かあったのだが、それを言うことはできない。
⦅後、今日あったことは他の人には言っちゃだめだから⦆
公園でフードの男から助けてくれた少女にそう言われたからだ。
そもそも、その事を正直に話しても信じてはもらえないだろう。逆に正気を疑われるかもしれない。
「……もしかしてお兄ちゃん、例の事件の犯人に襲われていたとか?」
茜の言葉に航は、ビクッとなる。なぜこの妹はこんなにも核心を突いたことを言ってくるのだろうか。
「って思ったけど、やっぱり違うかなぁ」
「へっ?」
そう言うと茜は、ソファから立ち上がる。そして航の方を見て……
「もしお兄ちゃんが襲われたら、一発でやられちゃうだろうしね」
と、少し意地悪そうな笑みを浮かべながら言ってくる。
「な、なんだとー、このやろー」
「ふふっ、何その言い方」
わざとらしく棒読みで言ってみると、茜は笑みを浮かべる。そしてテーブルに置いていたペットボトルを持って、
「それじゃ明日も予定があるから、今日はもう寝るね」
と言ってリビングのドアに向かって行く。
「予定?明日もか?」
「うん、小学校の時の友達と遊ぶ約束してるの」
「その友達も明日休みなのか?」
「電話したら、良いよって言ってたし、そうなんじゃない?」
(それは、ただその子が学校をサボってるだけなのでは?)
航はそう思ったが、もしかしたら本当に休みの可能性もある。取り敢えず言わないでおくことにした。
「それじゃあおやすみ、お兄ちゃん」
「ああ、おやすみ」
茜はリビングを出て、自分の部屋へ戻っていった。
「さて……と」
時刻は、午後11時を過ぎている。いつもだと深夜0時過ぎぐらいまで起きているが、
「今日はいろいろあって疲れたから、早めに寝よう……」
航はそう言ってテレビの電源を切り、電気を消してリビングを後にした。
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