第4話 非日常の始まり 4
午後の授業が終わり、教室では放課後の時間となっている。
生徒の大半は部活へ行った為、教室に残っている生徒の数は少ない。
その教室で、今にも力尽きそうな生徒が机に突っ伏している。
「あぁ…………。ようやく……終わった……お……」
そう言ったのは、
午後の体育の授業は、グラウンドで持久走だった為、福男は早々にバテていた。航や秀一も中盤から息切れの状態で走り、授業の終わる頃には疲れて動けないほどだった。と言うより、クラスの男子生徒の半分近くが同じ状態だった。
「航ちゃんも福ちゃんもよく頑張ったよ!」
「そういうお前は元気だなぁ……。確か女子も持久走だったんだろ?」
「そうだったけど?」
「疲れてないのか?」
「全く、疲れてないよ!」
そうですかと言い、目の前の元気少女から目を逸らす航。すると凛が教室を見渡し、
「あれ?そういえば秀ちゃんは?」
と聞いてくる。それに対して航は、廊下の方を指さす。
「秀一なら廊下にいるぞ」
「廊下?なんで?」
「なんか知り合いから電話がかかって来たらしいな」
「そうなんだぁ……こっそり会話を聞いてこようかな」
「やめとけ」
目の前の元気少女が今度は盗み聞きをしようとしているので、取り敢えずやめさせる。
すると机に突っ伏していた福男が顔を上げて、こちらを振り向く。どうやら幾分かは回復したようだ。
「……そうだ、ゲームセンターへ行って遊ぼう」
いきなりどうしたんだと思い、航は福男に聞き返す。
「唐突にどうしたんだよ福男」
「今日はとても疲れたお。だから、英気を養うためにゲーセンへ行って遊ぶんだお」
「疲れてるんなら、家に帰って休んだ方がよくないか?」
「いや、だからこそだお!。今日の辛かったことを全部忘れて、ただただひたすら遊びまくって、ストレスを発散するんだお!」
「ストレス発散って……」
「まぁそういうことだから、これからゲーセンへ遊びに行くお!航氏!秀一氏!凛氏!」
そういうと福男は立ち上がり、ガッツポーズを作る。
「まあ俺は大丈夫だけど、お前はどうなんだ?」
「私も全然オッケーだよ!」
「……珍しいな。いつもだと学校終わったらすぐ帰ってくのに」
「だってゲーセンでしょ?それっていつものあそこでしょ?そりゃ行くよ!」
そう言って凛のテンションが上がっていく。
福男と凛が言っているゲームセンターは、
「航氏も凛氏もオッケーみたいだね。秀一氏は大丈夫……ってあれ?秀一氏は?」
福男は周りを見る。今気づいたのかよ……っていうかこの状況、ついさっきもあったような……。そんなことを思っていたら、凛が代わりに答える。
「秀ちゃんは、廊下にいるよ」
「廊下?それはまたなんで?」
「なんでも、恋人から電話がかかって来たんだって」
「な、なんですとおぉぉぉーーーっ!?」
「おい、何勝手に電話の相手を捏造してるんだ」
「あれ?そうだっけ?」
「お前なぁ……」
そんなやり取りをしていると、
「ごめん。ちょっと電話が長くなっちゃって……」
「秀一氏!!」
「うわぁっ!?」
戻って来た途端、福男からいきなり声を掛けられる秀一。
「えっと……福男君?いったいどうしたの?」
「…………恋人かお?」
「えっ?」
「電話の相手、恋人なのかおおおおおおおっ!?」
怒り半分、泣き半分とそんな顔で秀一に迫る福男。秀一は明らかに困っている。
「……あの、航君?これはいったい……」
「取り敢えず無視していいぞ。それより秀一、今日この後時間あるか?」
「この後?うん、大丈夫だけど……どうして?」
「今日この後みんなで、いつものゲーセンに遊びに行こうってことなったんだよ」
「それは良いけど、担任の先生からなるべく早く帰るように言われてたような……」
そういえばホームルームで担任が言っていたなと航は朝のことを思い出す。例の暴行事件でこの学校の生徒が襲われたため、生徒には早めに帰宅するようにだったか。
すると福男が大丈夫だおと言って、
「そんなに長くは遊ばないから、問題ないお!」
「問題ないよ!秀ちゃん!」
「う~ん、なら良いかな」
「良いのか……」
まあ少しぐらいなら大丈夫だろう。それに今月はまだ行ってなかったし、気分転換にもなるかもしれない。
「よし、それじゃ早く行くお!」
福男がそう言い、航達は学校の帰りにゲームセンターへ向かった。
学校から歩いて15分程の場所に、ゲームセンターがある複合施設がある。ゲームセンターのほかにも、ゲーム機やソフト、対戦カードなどを販売している施設や、飲食ができる施設、スポーツができる施設などもある為、利用客はとても多い。この時間帯だと学生がほとんどだ。
航達4人は、ゲームセンターの入り口へ来ていた。
「よっしゃー!それじゃあ遊びまくるお!」
「おー!」
すっかり元気になった福男と最初から元気な凛のテンションが上がっていく。そのテンションの上がり様を周りの客がこちらを見ており、非常に恥ずかしい。
「福ちゃん!レースゲームしよ!」
「フッフッフ……いいですぞ凛氏。今日こそは勝つお!」
「いやいや、今回も私が勝っちゃうよぉ!」
福男と凛は、ゲームセンターの奥へと入っていく。今から白熱した戦い?が始まるのだろう。
「また福男が負けるんだろうなぁ……」
「鈴城さん、強いよね。僕も前に鈴城さんと格闘ゲームで対戦してみたけど、完敗だったよ。」
「あいつ昔から強いからなぁ。ゲーセンにあるやつもそうだけど、ゲーム機でやるゲームも」
中学生のころ、福男と凛の3人でよくゲームをしたものだが、凛に一度も勝てなかった。何というか、強さが桁違いと思えるほどに強かったのだ。
「まあ今はそんなこと、どうでもいいか。俺たちも何かして遊ぼうぜ」
「そうだね。せっかく来たわけだしね」
そう言うと、航と秀一も奥へと入っていく。
そして………………。
「いやー、ずいぶん遊んでしまったお!」
航達4人は、複合施設の外に出ている。
時刻は午後6時30分過ぎ。空はもう暗くなり始めている。
少しどころか、だいぶ遊んでしまった様だ。
「福男君と鈴城さんの対戦すごかったなぁ」
と、秀一は言う。ここまで遅くなったのは、この2人による対戦があまりにも白熱したためだ。
いつも通り福男が凛に勝てず、何度もリトライしていたわけだが、リトライする度に徐々に勝てそうな感じになっていき、最終的にはあと一歩のところで負けてしまった。そしてそんな2人の対戦を航や秀一だけではなく周りの客も観戦し始め、軽いゲーム大会のような状態となっていたのだ。
「福ちゃん、本当に強かったよ。私、負けちゃうかと思ったもん」
「そう言われると嬉しいお。負けたのに気分がすごく良いお!」
凛に称賛されて笑顔の福男。いつもだと凛に勝てず、帰りは大抵落ち込んでいるが、今回は違うようだ。
「でもその結果、こんなに遅い時間になってしまったお……」
と思っていたら、別のことで落ち込み始めている。
「まぁ、俺らも止めずにずっと見てたから、俺らにも責任はあるな」
「そうだね。福男君だけが悪いってわけじゃないよ」
航と秀一は、落ち込む福男に一応フォローを入れる。
「うぅ……そう言われると、ありがたいお……」
福男は、2人に感謝をする。
「とにかく今日はもう帰ろうぜ。これ以上暗くなるとヤバイからな」
航の言葉に3人は頷く。空は先程よりも暗くなっている。これ以上暗くなると、家族にも心配をかけてしまう。航達は、複合施設を後して今日は別れることにした。
「それじゃ俺はこっちだから、またな」
「うん、またね。航君」
「またねー!航ちゃん!」
「また明日だお、航氏!」
航は3人と別れて、家へと向かい歩き出す。街灯がすでに点灯しており、周りの建物も電気が点いている。
「暗いなぁ、こんな時間帯に帰るのも久しぶりだし……」
中学生の時に何度かあった程度で、普段は大体6時前には家に帰っている。
「……なんか、歩いてる人少ないな……。車もあんまり通ってないし……」
家の方へ歩いていくにつれて、周りを歩いている人も少なくなっていき、車通りも少なくなっていく。
それから10分ほど歩いていると、周りを歩いている人はいなくなり、走っている車も殆どいなくなった。航の家は、町から少し離れている為、人通りや車が少なくなっていくのは別におかしいことではないが……。
「……とにかく早く帰ろう。なんか嫌な予感がする」
ここから家までは、まだ距離がある。航は歩くスピードを少し早めて歩くことにした。
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