第3話 非日常の始まり 3
午前の授業が終わり、昼食の時間となる。
学食へ行く生徒や教室で机を合わせて弁当を食べる生徒など様々だ。
「ふう、ようやく至福の時間だお」
そう言って、福男が弁当を食べ始める。彼の弁当箱は航達の弁当箱と比べるをかなり大きく、そこにご飯やおかずがぎっしりと詰まっている。
「いつも思うんだが、お前よくそんなに食べれるな……」
航は彼の弁当を見てそう言う。すると福男は……
「そうかな?実は以前より少し量が減ってるから、若干足りないんだよね」
そう言う福男に、航はマジか……と心の中で呟く。量が減っているとは言うが、正直変わったようには見えない。
「福ちゃんいつもすごい量食べてるよね。私の倍の量は食べてそうだもん」
そう言ったのは、
航とは、中学から一緒で運動が得意。しかし、それ以外の成績は悪く、中学の時はテストの度にネガティブになっていた。部活には入ってなく帰宅部であり、理由を聞くと早く帰って遊びたいからだそうだ。
「凛氏、おかず分けてあげようか?」
「えっ本当に!いやぁ、ありがとう福ちゃん!」
福男から唐揚げを貰って、嬉しそうな凛。
「航氏と秀一氏もいりますかな?」
「いや、俺はいいよ」
「僕も大丈夫かな」
福男はこちらにも聞いてきたが、航と秀一は断る。すると凛は、
「航ちゃんも秀ちゃんも食べる量少ないよ。いっぱい食べないと大きくなれないよ!」
と言ってきた。俺達よりお前の方が小さいだろうがと突っ込みをいれつつ、昼休みを過ごしていく。
昼食を食べ終えた時、秀一が、
「そう言えば今日の朝のホームルーム、やっぱり例の事件のことだったね」
っと言ってきた。
朝のホームルームで担任の教師が言ってきたのは、ここ最近起こっている例の傷害事件についてだった。この学校の近くで事件が起きたこと、そして襲われたのがこの学校の生徒だということだ。その為、今日から学校近辺を警察がパトロールを強化するらしい。そして生徒は、早めに帰宅してほしいとのことだった。
「なんというか、本当にこの学校の生徒が襲われたんだって思った時、ちょっと怖くなったよ」
「私もだよ~。次は私かも!?って思ったもん」
「お前は学校が終わったらいつもすぐに帰ってるから大丈夫だろ」
「いやいやわからないよぉ~?もしかしたら襲われちゃうかもよぉ~?」
「なんで若干期待してるんだよお前は」
凛の言葉に突っ込みをいれる航。そんなやり取りをしていると福男が、
「実はその事件のことなんだけど……気になる情報を見つけたんだよね」
と、言ってくる。航は気になる情報?と言い福男に聞く。
「何だよ、気になる情報って」
「あのさ、襲われたのはこの学校の生徒って言ってたでしょ?その生徒がね、警察の事情聴取であることを言ったらしいんだお」
「あること?」
「うん、不審者に襲われる時に言われたらしいんだけど……」
福男はそう言ってから数秒ほどためてからこう言った。
「『お前は、能力者だな?』って言われたらしいんだお……!」
わざとらしい演技で福男はそう言った。ただ、航はその言葉に……
(能力者?)
と、心の中で思う。
「ちなみにその情報はどこにあった情報なんだ?」
「もちろん、ネットだお」
「ネットって……それだとその情報、怪しくないか?」
「大丈夫だお!この情報は信頼できる場所から得た情報だお!」
「…………」
ネットの情報が全て間違っているとは言わないが、全幅の信頼をおくのはどうなんだろうと航は思ってしまう。すると秀一が福男の言葉に、
「能力者ってあれだよね。確か3年ぐらい前に流行った」
「あっ!そういえば流行ってたね。私グッズ買ってたよ!」
凛も能力者という言葉に反応する。かく言う航も、その言葉に少し懐かしさを感じていた。
始まりはSNSのとある書き込みで、そこにはこう書かれていた。
『ヤバイ、今日仕事から帰るとき変な人を見たんだけど、その人手から光る球みたいな物を出してた』
当初、この書き込みを信じる者は誰もいなかった。むしろ馬鹿にする者たちの方が多く、その後に証拠の写真だと言って1枚の写真が投稿されたが、結局それも合成の写真だろうと言われ、信じてもらえなかった。
しかし、その2日後に今度は別の人物が、背中から翼の生えた人を見たという書き込みを投稿する。さらにその3日後には、目が光っている人を見たという書き込みが投稿がされた。
それ以降、こういった投稿がどんどん増えていき、1か月後には多くの人たちがこういった者たちを見たという投稿をするようになっていた。その中には、人気アイドルグループのメンバーや有名な俳優、大物政治家なども含まれていた為、世間にもブームとなっていき、その頃から能力者という言葉が使われ始めた。
そして、能力者が存在するという者達と存在しないという者達による論争がネットや番組で度々行われていた。
航も当時のことはよく覚えている。中学生だったこともあり、こういったことにはかなりはまっていた。
しかし、このブームは数か月ほどで去っていき、今では僅かな人達がサークルなどを作って、能力者について語ったり実在するかどうか調査したりしているらしい。
(福男の奴、今でも能力者にはまっているんだなぁ。さっきの情報もそう言った場所にあったやつなのかなぁ)
航がそう思っていると、福男が3人に能力者について聞いてくる。
「ズバリ聞くんだけど、みんなは能力者って今でもいると思っている?」
ちなみに僕はいると思うお!と福男は言う。それに対して航達3人は、
「う~ん、正直言って今はいるとはなぁ……」
「僕も航君と一緒かな。当時は、いるって思っていたけど」
「私も今はいないと思うなぁ~」
それぞれの反応に、福男は少し落ち込んだ感じになり、
「……やっぱり、そう思うよね……」
「まあ、あれから3年も経っている訳だし、仕方ないんじゃないか?」
「わかったお。今回は僕の負けだお……」
「いや、別に勝負はしてねーよ」
いつの間にか何かの勝負に勝っていたらしいのだが、何の勝負だよとツッコミを入れたくなる。
その後に航は、教室の時計を見る。そろそろ午後の授業が始まる時間になっていた。
「そろそろ午後の授業だから、今日はここまでにしようぜ」
「そうだね。着替える時間も必要だから、ここまでだね」
「オッケー!」
航の言葉に、秀一と凛も賛同する。だが福男だけは、ん?っという表情をしている。
「航氏、午後の授業って何だっけ?」
「何言ってるんだよ。午後は、体育だろ」
「なっ!?」
何故か福男は驚いている。そしてそのまま秀一の方を見て
「……秀一氏、午後が体育って本当ですかな?」
「本当だよ。時間割にも一応書いてあると思うけど。」
「…………」
軽く絶望顔なっている福男。午後の授業が体育なのを忘れていたのだろうか。
「それにしても午後から体育っていうのは正直ダルいなぁ」
「本当だよね。しかも今日は晴れてるから、外での授業だね」
「てことは、またグラウンドを走るのか……きついなぁ‥…」
「私は、全然きつくないよ?」
「お前は運動が得意だからだろ……」
そんなやり取りをしていると、福男が静かに話し出す。
「……お昼……もう少し減らしておけばよかったお……」
そう言ってため息をする福男。すると凛が、
「大丈夫だよ福ちゃん!」
と言って福男の前に立つ。
「恐らく福ちゃんは、午後から体育なのを忘れておなかいっぱい食べてしまった。このままでは、授業がきつくなってしまう。そう思ってるんでしょ?」
「うぅ……そうなんだお。このままだと……」
「ふっふっふ。大丈夫、こう考えればいいんだよ福ちゃん!」
「?……というと?」
「つまり、午後の体育で使うエネルギーをお昼でたくさん取った。こう考えれば、何も問題ないよ!」
「な、なるほど……!」
凛の言葉に、納得をする福男。そしてその2人のやり取りを、航と秀一は見ている。
「先週も同じこと言ってたよなあいつ」
「言ってたね。そして福男君はバテてたね」
そんなことを言っていると、福男が立ち上がる。どうやら復活したようだ。
「よし、ちょっとやる気が出てきたお!」
「その意気だよ福ちゃん!」
「……まあ、やる気か出たのは良いことだと思うが……」
ただ、結果が何となく見えている。
そんなことを思いつつ、航達は午後の授業を受ける為、更衣室へ向かい、その後グラウンドへ向かった。
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