第2話 非日常の始まり 2

 学校まで続く道を一人の少年が歩いている。

 彼の名前は、坂下航さかしたわたる

 年齢は16歳で今年の春より、今から向かう高校に通っている。

 航は制服からスマホを出して時間を確認する。


「よかった。何とか間に合うな」


 そう言うとスマホを制服にいれて、再び通学路を歩いていく。

 家から学校に登校するまで、それなりに時間が掛かる。

 普段であれば何も問題なく登校できる時間なのだが、今日は家を出る時間が遅くなってしまった為、つい先程まで全力で走っていた。

 ただ、時間を確認したら思ったよりも余裕があった為、走るのをやめて歩くのに変更したのだ。


「まあ、そもそもあのまま全力疾走しながら学校に行くなんて俺には無理なんだけどな」


 体力はそれなりにあるが、学校まで全力で走って登校しろなんて普通に無理な話だ。妹ですら無理だろう。

 そう思い歩いていると、再び体に違和感を覚え止まる。


「……やっぱりなんか違和感があるなぁ……」


 昨日までは何ともなかったのだが……


「風邪でも引いたかな?でも、どこも痛くもないし辛くもないしな……」


 気怠さといったものもない。ただやはり何か、体に違和感がある。


「今日は、なるべく無理しないようにするかな」


 学校へ向けて再び歩き出す。



 しばらく歩いていると、次第に車や人通りが増えていく。

 航の通っている高校の生徒もちらほら見える。

 すると1つの看板に目が留まった。


「藍王市で大型ショッピングセンターがオープン!……か」


 そういえば、テレビでもCMがやってたなと思い出す。


 藍王市らんおうしでは、5年程前から都市化が進んでいて、こういった商業施設やアミューズメント施設が建てられている。

 ただ、隣の白皇市はくおうしと比べるとまだ田舎だ。

 都市化が進んでいるといっても、少し離れたところには田んぼや畑があり、さらに離れれば山もある。


「今度、あいつらと一緒に行ってみようかな」


 そう思い歩き出そうとすると、


「ん?」


 少し離れたところから、誰かがこっちを見ている……。

 フード付きのコートを着ており、そのフードを被っている為、顔はあまり見えない。


「なんだあの人、さっきからこっち見て……」


 航がフードの人物を見ていると、こちらが見ていることに気付いたのか踵を返してその場から去っていった。

 去っていったフードの人物を航は不審に思ったが、さすがに追いかける訳にはいかない。


「何だろう、今日は朝からいろいろあるなぁ……」


 とりあえず、学校へ急ぐことにした。



 私立藍王高等学校。航が今年の春から通ってる学校だ。

 3年前に改修工事を行い新校舎となっていて、内装も新しくなっている。その影響かはわからないが生徒の人数が毎年増えていっているらしい。


「よし、間に合った!」


 航は、校門に辿り着き安堵する。スマホで時間を確認すると、8時20分になっていた。


(意外と余裕があったな)


 すると後ろの方から声を掛けられる。


「おはよう!航君」

「ああ、秀一か。おはよう」


 声をかけてきたのは、佐藤秀一さとうしゅういち

 航とはクラスメイトであり、航の数少ない親友の1人だ。

 秀一とは、高校から知り合ったが趣味の話で意気投合し、またもう1人の親友の影響もあってかすぐに仲良くなった。


「珍しいね。航君がこの時間帯でまだ登校してるなんて。いつもだともう教室にいる時間帯じゃない?」

「今日は、ちょっと家を出るのが遅れてさ……。まあ、出る時に茜と喋ったのがまずかったな」

「茜って妹さんだっけ?」

「そう、妹さん。あいつ今日と明日は学校が休みなんだってさ」

「それは、羨ましいね」

「本当だよ。こっちは普通に学校あるってのに」


 そんなことを話しつつ、校舎に入り下駄箱で靴を変えて教室へ向かう。


「そういえば航君、朝のニュースって見た?」

「もしかして、不審者の奴か?」

「そうそれ。あれってやっぱりここの学校の生徒が襲われたのかな?」

「どうだろうなぁ。まあ、もしそうだったら朝のホームルームで担任が何か言うだろ」


 そう言いながら歩き、1-Aの教室に辿り着く。

 教室に入るとすでに多くの生徒がいて、談笑などをしている。

 航と秀一は自分たちの席へ向かう。

 因みに航の席は、窓側の一番後ろで、その前が秀一の席だ。隣は席がなく空いている。

 そして秀一の隣の席が……


「フッフッフ、おはよう航氏、秀一氏……!」

「おう、おはよ、福男」

「おはよう、福男くん」


 こちらに挨拶をしてきたのは、善財福男ぜんざいふくお

 秀一と同じく航の数少ない親友の1人だ。


「なんか、今日はやけに機嫌がいいな?」

「よくぞ聞いてくれたね航氏。実はね……ほら、やっと欲しいキャラがゲットできたんだお!!」


 そう言うと福男は、スマホの画面を見せてくる。画面にはゲーム画面が表示されていて、そこに女性キャラクターがいる。


「やっと……やっっっっと、ゲットできたんだお!!」

「わかったわかった。だから、半泣きの顔でそんなに近づくなって!」


 そう言って航は、福男を押し戻す。

 福男とは、中学から一緒で当時は仲良くなるなど、これっぽっちも思っていなかった。だが、たまたま趣味の話をしたら意気投合して今に至る。

 福男は、アニメや漫画、ゲームが好きでいわゆるオタクと言う奴だ。航や秀一もそれなりにゲームはするし、アニメや漫画も見るが福男には及ばない。この手の知識においては、彼の右に出るものはこの学校にはいないだろうと思えるほどに。

 後、彼は航や秀一と比べて体が大きい。縦にも横にも……。


「ちなみに航氏は、このキャラはゲットできましたかな?」

「うっ……そ、それは……まあ、無理だったけどさ……」


 あれだけアイテムを貯め、課金もしたのに駄目だった。その時のことを思い出しいやな気分になる。しかも目の前では、勝利の笑みを浮かべてる奴がいるので、若干の苛立ちもある。


「そ、そうだ。秀一はこのキャラはゲットしたか?」


 もしかしたら秀一も駄目だったかもしれないと思い、航は聞いてみる。


「ああ、僕はそのキャラじゃなくて、もう1人の別のキャラにしたよ」


 もちろんゲットしたよと秀一もスマホを見せてくる。画面には、確かにそのキャラがいた。


「つまり、航氏だけ完全敗北したというわけですな」

「ぐはぁっ!!」


 なんなんだこの理不尽さは!と思わず叫びそうになってしまう。


「ま、まあこういうのは結局運頼みなわけだし、今回は航君の運が良くなかったってだけだよ」

「それは、まあ……そうなのかもしれないけどさあ……」


 秀一が航にフォローを入れてくれるが……


(だが失ったものが大きすぎる。特に課金した分が!)


 ここ最近少し課金をしすぎて、母親から注意されたこともある。その後に、この様なことになってしまった。


(母さんに怒られるかもなぁ……)


 普段は笑顔でどこかおっとりとしているが、怒るときはちゃんと怒る。しかも、あの笑顔で怒るから余計に怖い。想像して気分が下がっていく。すると、


「おーい、席に着けー!」


 そういって担任の教師が教室に入ってくる。生徒たちは各々の席に戻り、椅子に座る。


「よし、それじゃあホームルームを……」


 始めるぞと担任が言おうとした時、廊下から走ってくる音がして教室の扉が勢いよく開く。


「おはようございまーす!!」


 そう言って入ってきたのは1人の女子生徒だった。髪はショートで、背が小さい。

 女子生徒を見て担任は、


「……鈴城すずしろ、毎回ギリギリになって教室に入ってくるのはやめなさい」


 と、ため息をしながら言う。それに対して鈴城と言われた少女は、


「いや先生、今日はちゃんとした理由があるんですよ!」

「……どんな理由だ?」

「実は今日、早起きをしたんですよ、奇跡的に!。でも、思いのほか早く起きすぎてまだ時間に余裕があったんで、これはまだちょっと寝てても大丈夫!っと思って二度寝をしちゃったんですよね。そしたら結構熟睡しちゃって、気付いたらヤバイ時間になってたんですよ。なので、ダッシュで来たというわけなんです!」


 と元気よく言い訳をする。それに対して担任は、


「……二度寝をしなければよかったんじゃないのか?」

「それはまあ確かにそうなんですけど、それを言われちゃ困っちゃいますよ先生!」


 担任の言葉に対し、笑顔で返す鈴城。担任は、はぁっ……と息を吐き、


「とにかく、早く席に着きなさい」


 そう言われると鈴城は、はい!と言い席に向かう。彼女の席は、秀一の前だ。

 席に着くと後ろを見て、おはよう!と挨拶をする。秀一も彼女に挨拶を返す。


「……それじゃあ、今度こそホームルームを始めるぞ」


 担任がそう言い、ホームルームが始まった。


























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