第1話 非日常の始まり 1

 ピピピピッ!ピピピピッ!と部屋の中にスマホのアラームが響く。


「……う~ん、むにゃむにゃ…」


 ベッドで布団に籠っている状態で手を伸ばし、アラームを止めようとするがなかなか止まらない。


「……」


 布団の中から少し顔を出し、枕元に置いてあるスマホを手に取り、アラームを止める。そして再び布団に籠って二度寝を……せずにベッドから体を起こす。


「……なんだろう、体に違和感が……」


 寝起き直後だからなのかなと思いつつ、スマホを手に取り時間を確認する。

 時間は、午前7時10分を過ぎていた。


「流石に起きた方が良いなこれは」


 ベッドから降り、部屋のカーテンを開けると朝日が入って部屋の中が明るくなる。

 それからベッドに置いてあるスマホを取ると、電池の残量が半分を切っていたので充電器に接続。登校するまでには、幾分かは回復するだろう。


「朝食を食べないとな」


 そう言うと部屋を出て、下のリビングへ降りていく。

 リビングに入るとすでに朝食が用意されており、いい匂いがしている。

 リビングには2人の人物がいて、その内の1人が声を掛けてきた。


「おはよう、航ちゃん。今日はいつもより遅い起床ね」


 彼女の名前は、坂下光莉さかしたひかり

 料理が得意で笑顔が似合う母親だ。

 おっとりとしているが、普段父親が仕事であまり家におらず家を任されているため、しっかりしている部分もある。


「おっ、おはよう母さん……」

「……もしかして、また夜遅くまでゲームをしてたの?」

「えっと……うん……少しだけ……」

「もぅ……やったらダメとは言わないけど、程々にね?」

「ごめん、面白いゲームでつい熱中しちゃって……」

「そんなに面白いの?もしかしてママも楽しめる?」


 若干興味ありげな感じで聞いてくる。


「えっと、ホラーゲームなんだけど、母さんホラーって大丈夫だったっけ?」


 そう聞くと光莉の顔から笑顔が消えて、


「……うん、ママはいいかな……」

「あぁ……うん……」


 残念そうな表情を浮かべる光莉にすまない気分になりつつも、とりあえず朝食を食べる為にテーブルへ向かい椅子に座る。

 すると、テレビの前にあるソファーに座っているもう1人の人物が声をかけてくる。


「おはよっ、お兄ちゃん」

「あれ?茜?」


 彼女の名前は、坂下茜さかしたあかね。妹だ。

 年は1つ下の15歳で、現在は全寮制の女子中学校に通っている。


「お前なんで家にいるんだよ。今日は平日だからお前も学校のはずだろ?」

「私、学校休みなんだよ」

「えっ、マジで?」

「マジで。しかも今日と明日の2日間。だから今日はママと一緒にお買い物行くの。だよねママ?」


 するとキッチンの方から、そうなのよ~と嬉しそうな声が聞こえてくる。

 こっちは普通に学校があるというのに羨ましいと思いつつ、朝食を食べ始める。

 テレビを見ると、どうやらニュース番組がやっているようだ。


「続いてのニュースです。昨日午後7時過ぎ、下校途中の女子高生が不審な男に襲われる事件が発生しました。事件が起こったのは……」


 ニュースを見ていると、どうやら襲われた女子高生は、不審な男に声を掛けられ、訳の分からないことを言われた後にいきなり体を殴られたらしい。しかも、女子高生が襲われた場所というのが……


「あれ?この場所って、お兄ちゃんが通ってる学校の近くじゃなかったっけ?」

「本当だ。結構近いな」

「ってことは襲われたのって、お兄ちゃんの学校の生徒?」

「それはまだ分からないけど、可能性はあるだろうな」


 何気なくそう言ったが、これって結構まずいことなのでは?とそんなことを思っていると、


「もしかしたら次に襲われるのって、お兄ちゃんかもね」

「おいおい、冗談はやめろよな」

「そうよ茜ちゃん。そうゆうことは言っちゃだめよ」


 光莉から注意され茜は、は~いと返事をする。

 ただ反省してるようには見えない。

 ニュースはまだ続いており……


藍王市らんおうしでは、今月に入り不審者による傷害事件が相次いでおり、警察では同一犯の可能性が高いとして、引き続き逃走した男の行方を追っています」


 そう言うとニュースは終わり、そのあとは天気予報が始まり、それが終わると番組のCMが始まった。なにやら討論番組らしい。


「航ちゃん?そろそろ準備しないと、学校に遅刻しちゃうわよ?」

「えっ?」


 時計を見ると、午前7時30分をとっくに過ぎており、40分近くになっていた。

 これはちょっとやばいと思い、急いで朝食を食べて洗面所へ行き、歯を磨いて顔を洗い、髪の寝癖を直す。今日に限って寝癖がひどく、直すのに時間がかかってしまった。

 リビングへ戻り、昼食の弁当を貰って部屋に戻り制服に着替え、それから充電しておいたスマホを取り、カバンを持って部屋を出る。

 階段を下りていくと、玄関の近くに茜がいた。


「あれ?お兄ちゃん、まだいたんだ」

「まだって……、これから行くんだよ」


 そう言って玄関へ行き靴を履こうとするが、ふとあることを思い止まる。


「そういえばお前、どうやって家に帰ってきたんだ?」

「?、どういうこと?」

「いや、お前の通ってる学校って全寮制だろ?。ここからだとかなり距離があるし、朝からいるってことは、それよりも前の時間に来たってことだろ?この辺はそんな早い時間からはバスは動いてないし、どうやってと思ってさ」


 一応、電車という手段もあるがと言うと。


「あーそれはないよ。私、始発の時間になんて起きれないから」

「じゃあどうやって来たんだよ」

「えーとね……」


 茜は、少し何かを考えるような素振りを見せた後……。


「は、走って来た……かな?」

「は、走って!?」

「そう、走って」


 マジかよという顔をしていると茜が若干慌て気味に言う。


「ほ、ほら私、学校で陸上部やってるじゃん?だから体力にはそこそこ自信があるっていうか、ジョギング的な感じで走って来たっていうか……」

「いや……しかしだなぁ、かなり距離があるぞ?」

「まあそこは……がんばって……かな?」


 少し適当気味に言われているのは気のせいだろうか。

 ちなみに今日の買い物に着ていく服などは、予めこっちに送っておいたらしい。


 茜は中学に入ってから寮生活をしているため、こうして会う機会も少なくなっている。

 入学当初と比べると背も伸びているし、体つきも少し……と言うよりかなり成長している。

 髪も入学当初は短かったが、今は伸ばしているらしくポニーテールにしていて、印象がかなり変わっている。

 陸上の成績はかなり良く、大会では多くの賞をもらっている。母親に電話をして報告しているらしく、喜んでいる母の姿をよく目にする。

 ちなみにそれ以外の成績も学年では上位らしい。


 そんな妹に比べ自分の成績は……なんて思っていると。


「…………」


 茜がこちらを見ていた。それも先程の慌てていた状態ではなく、真剣にこちらをじっと見ている。それに対し若干押されつつも口を開く。


「な、なんだよこっち見て……」


 そう言われると茜は、ふぅっと息を吐き、


「……別に。何でもない」


 そう言うと茜は顔を逸らす。

 なんなんだ一体と思っていると、再び茜がこちらに顔を向け、


「っていうかお兄ちゃん、学校行かなくていいの?」

「あっ!やばっ!」


 茜に言われたことで気が付き、急いで靴を履く。

 そして玄関のドアを開け、


「行って来ます!」


 と言って家を出ていく。

 後ろの方では、いってらっしゃ~いっと茜が言っていた。



 空を見上げる。清々しい程の晴天だ。


「さて……今日も頑張らないとな」


 そう言って学校へ向けて歩いていく。


「……いや、少し走らないとだめか?」


 そう言って少年、坂下航さかしたわたるは学校へ向けて走り出した。


























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