第8話 上弦の月(後編)

「ふふふ。外に出るのは久しぶりだにゃー。」


ルナは、のんびりと散歩でもするように川沿いを歩いて行き、街まで着いた。


「今日は食材の買い物です。お野菜と、お魚とお肉と…。」


街で食品が売っている店を探してキョロキョロとする。

すると、店の近くにアズールの姿が見えた。



「そこをどうにか、お願いします!」


深々と頭を下げるアズール。 そのようなアズールの姿を見るのは初めてであった。


「んー。うちも厳しいんだよ。分かってくれ。」


ルナは、アズールに見つからないように木の影に隠れ、アズールを遠くから見ていた。何度となくお願いをしているが、結局断られてしまっていた。



「…上手くいってないみたい…。大変なんだな仕事って…。あ、私は買い物をせねば…。」


自分の仕事を思い出し、食材を探してその場を離れた。



★ ★ ★ ★



「はぁ、またダメだっか…。」


川沿いの道で、アズールは溜息をつき座り込んでいた。街から離れているため人の気配も無い。

川のせせらぎだけが聞こえる。

アズールは、落胆の表情で川を眺めていた。


「…親父は仕事でも俺を助けてくれていたんだなぁ…。いなくなって初めて気付くもんなんだなぁ…。」


アズールは顔を下げて、足を抱えてうずくまってしまった。



「ふぅ!いっぱい買った!買い物とは、重い荷物を持つことにあり!」


買い物を終えたルナが帰り道の川沿いを歩いてやってきた。


「…あ、あれはアズール様?あんな所で座って何をしているんだ…?今日断られたのを引きづっているのかにゃ?」


ルナはアズールの元まで歩いてやって来て、隣に座った。アズールはルナの存在に気づいていないようで、うずくまったままてまあった。


「アズール様!奇遇ですねこんな所で!」


ルナは元気良く声を掛けた。


「…ん?その声はルナか…。…外で会うなんて久しぶりだな…。」


アズールは顔を上げてルナを見た。

表情は明るくはなかったが、ルナに会えたことで少しだけ笑顔が戻っていた。


「仕事、上手くいかないんですか?何のアドバイスにもならないですけども…、私も断られることいっぱいありました!」


「お前は…。…仕事上手くいってないとか、単刀直入に言うんだな…。変に気を遣われるよりか良いけどな…。…なかなか上手くいかないんだ…。」


元気無くアズールは答えた。


「私は、よく挫けました!何日もクヨクヨしてることもありました!けど、そんな時、歩いていた猫のブランちゃんに救われました。ブランちゃんが今のお仕事を運んできてくれて、アズール様に合わせてくれました!」


アズールを元気づけようと、ルナは元気良く切り出した。


「全ては、猫さんが導いてくれるんです!あなたが雇ってくれてる私は、あなたの猫さんです。」


ルナはアズールのことを見つめ、恥ずかしげもなく言い切った。


「辛い日は、気持ち切り替えて休みましょ!さぁ、おうちに帰りましょ。」


ルナはサッと、立ち上がるとスタスタとアズールの屋敷の方へと歩いていった。

アズールが着いてこないとを察すると、立ち止まり振り返った。


「アズール様、着いてこないのかにゃー?」


振り返ってアズールのことを待つ。


「…なんだよ、俺の猫って…。」


アズールは、呆れながら重い腰を上げた。

顔には明るさが戻っていた。


「…そうだな。悩んでてもしょうがないな。今日はもう仕事のことを考えるのはやめて、気分転換にしよう!」


アズールがルナの元へと歩き出すと、ルナも着いてこいと言わんばかりに先へ進むのであった。

アズールは小走りで追いかけて、ルナへと追いつき、ルナの手を握った。


「一緒に帰ろう。俺の猫さん。」



南の空には、上弦の月が空高く輝いていた。



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