第4話 雨月(後編)

台所へと小走りで向かうと、シェフが夕飯の支度をしているようであった。


「シェフー、こちらにブランちゃん来ましたか?


シェフは大きな鍋の中身をかき混ぜながらも、律儀に質問に答えてくれる。


「さっき買い出しから帰ってきたのだけれど、その時に川沿いですれ違ったよ?ブランちゃんは、のんびり街の方へ歩いていったよ。」


「なるほどです。この家の外にいるのですね。わかりました。ありがとうございます。」


外にいるのか。すぐに戻ってくるかな?

今日は大雨が降るって言うし、すぐに連れ戻してあげた方が良さそうね。


台所へ行ったその足で、雨具だけ持ってブランを探すために外へと足を進めた。


★ ★ ★ ★


屋敷を出て、川沿いを探す。

川の上流の方は黒い雲が空を覆い、大量の雨が降っているようであった。川もいつもより増水していた。


「ブランちゃん、なかなかいないなあ。早くしないと、ここの辺りも雨降ってきちゃうよ。」


そう言っている傍から、空から雨粒が落ちてきて、頬にあたった


ザーーーー!


1粒雨粒が当たったと思ったら、雨は一気に強くなり、音をてて降り出した。


「…あちゃー。とうとう雨が降ってきてしまいましたね。天気予測は当たるものですね。早く見つけないと、ブランちゃん大丈夫かしら…。」


持ってきた雨具のフードを被り、雨の中街の方へと足を進める。すると、向かいから御屋敷で働くメイドが歩いてきた。追加の買い出しをしているようであった。


「追加の買い出しご苦労様です。街の方から来たのですね?ブランちゃんを見かけませんでしたか?」


「見ていないよ?あんな白くて綺麗な毛並みの猫だと、こういうくらい日には余計気づくと思うけれども、見かけていないよ。」


「そうですか…。ありがとうございます。」


「そうそう、川の上流の方では、凄い大雨らし

くて、一部の地域では川が氾濫したらしい。この川は街の方まで続いているから、街付近で川が氾濫しないように、バリケードを作っていたわ。」


メイドは手に持った荷物が濡れないように、傘で荷物を一生懸命にかばっている。


「この辺りで川が氾濫すれば、どこもかしこも見ずに浸かってしまうでしょう。」


雨だけでなく風も強くなってきており、横殴りの雨がルナにも降って来ている。


「…ブランちゃんが危ない。早く探さないと。私ブランちゃん探しに行ってきます。」


「この雨の中で出歩くのは良くない。屋敷で待つのが良いと…あー。…行っちゃった。」


制止するのも振り切り、ブランを探しに走る。


川沿いを街へ向かって走っていくが、一向に見つからない。

段々と川の水位が上がっているのがわかった。


どこへ行ったんだろう。

いつも通る道は川のように水が流れている。


いつもだったら月明かりが照らしてくれるのだが、今日は雨雲で月が隠れてしまい、辺りは真っ暗闇であった。


「ブランちゃ〜ん!」


川の流れの中で出来た島に光るものが見える。

暗闇の雨の中ではなかなか見えないが、あの形は猫の目だ。猫がいるのが見えた。


「ブランちゃん、今助けるよ!」


川の流れは早いが、膝までは浸からない程度の深さであり、どうにか歩いて川の中の島まで歩いて行けそうである。


「動かないで待っててね…。」


膝下は水に浸かり、急な川の流れで飛び散る水飛沫で全身がずぶ濡れになっていた。

ゆっくり慎重に進み、どうにか猫の元までたどり着いた。


ブランちゃん、お待たせ。さぁ帰ろう!


「ニャ。」


「お待たせ!大丈夫だったかにゃ?あれ?」


そこに居たのは、首輪をつけている別の猫であった。


「……あらら、違う子だったのね。けど、ここにいると危ないよ。一緒に行こう。」


「ニャ。」


猫を抱きかかえ、歩いてきた川を戻っていく。

先程から時間は経っていないのに、水かさが増している。

おそらく川の上の方で再度氾濫したのか、水の流れも激しくなっており、私の足をすくっていった。


「わっ!」

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