第3話 雨月(前編)
「お待たせしましたご主人様。お料理の準備が出来ました。」
メイド服姿のルナは、アズールを呼びにアズールの部屋へとやって来た。
「今日のメニューは、どれも腕によりをかけて作った美味しい料理でございます。」
ここで働かせてもらうことになって、数ヶ月。私はそつ無くメイドの仕事をこなせるようになっていた。
アズールに向かってドヤ顔を決める。
「ありがとう、ルナさん。ただ、そんなにドヤ顔で言われてもね。ルナさんは料理作ってないからね。作ってるのは、あなたでは無くて専属のシェフだからね。」
そう。その通り。
私は作っていない。私は料理は出来ないのだ。
そうは言っても、お食事の時間を伝えるのも大事な仕事だもん。私の本当の仕事は猫さんのお世話なんだもん…。
…料理なんて出来ないやい!
開き直りのドヤ顔を再度決める。
「ドヤァ顔ー!…あ、そうだ。今日は朝か昼か夜か、どこかの時間帯で凄い大雨が降るとの事です。お出かけの際には傘をお持ちくださいませ。」
「…ありがとう。なんとも大雑把な情報だなぁ。いつ降るんだそれ。そもそもどこから仕入れた情報なんだ?まあ、それが正しい情報だと信じよう。」
「私にも、もう少し感謝の気持ちをお願いします。」
「…はいはい。情報を伝えるだけでも立派な仕事だよね。天気を予測してくれた人に感謝しよう。」
「私に感謝ですよー!もう!」
プクーっと、ほっぺを膨らませる。
「もうちょっと、家事が出来るようになったらいっぱい感謝するよ。」
★ ★ ★ ★
「じゃあ、そろそろ行ってくる。帰りは少し遅くなると思うから、そのように皆に伝えておいてくれ。」
ルナは、アズールを見送りに大きな玄関まで出てきていた。
アズールは傘を手に持ちながら、ルナに向かって伝言を伝える。
「はい。分かりました。アズール様のいない間は、家のことは任せてください!お留守番は得意です!」
「…うん。何か掃除とか家事をしていてくれると助かるのだがな…。まぁいいか…。行ってきます。」
アズールは少し呆れたように出ていった。
「よし!今日のアズール様は帰りが遅いということで、私はまったりとバルコニーで日向ぼっこしながらお昼寝です!帰ってくる時にも起きていてあげないとですからね!」
てくてくと階段をあがり、アズールの部屋を通ってバルコニーへと出る。自分の部屋から持ってきたお気に入りの枕も一緒に。
「…はぁー。お日様は気持ちいいなぁ。御屋敷は広いし、南向きのこのバルコニーは日向ぼっこには最高だなぁー…。」
★ ★ ★ ★
日向ぼっこしながら寝ていると、段々と日が落ちかけてきて、雲が太陽を覆い隠していった。
「…曇りかぁ。日向ぼっこ気持ちよかったのに。そうだ、今日は雨が降るんだった。部屋に入っておこう。」
そそくさとバルコニーから部屋に入る、
バルコニーはアズールの部屋と繋がっており、アズールの部屋を横切る形で通り、自分の部屋に戻ろうとする。
アズールの部屋に飾ってある猫のブランの写真と目が合った。
「…そうだ…。ブランちゃん、今日会ってないや…。」
立ち止まり、自分の部屋に戻るのを諦めた。
「睡眠の続きも良いけど、寝すぎたね!そろそろ仕事しよう!ブランちゃんのお世話をしなきゃね!ブランちゃんどこだー?」
アズールの部屋や自分の部屋をさがしてみるがブランの姿は見えなかった。
「あれー?ブランちゃんが居ないなぁ?どこかにゃー。」
1Fに降りてみてもブランの姿はない。
1Fの応接間を探そうと部屋に入ると、ちょうどメイド長が老年の男性の相手をしていた。
「あ、すいません、失礼します。メイド長ー、ブランちゃん見ましたかー?」
メイド長は眉をしかめて答える。
「今応接中です。後にしてください。ブランちゃんなら先程、台所に行くのを見かけました。そちらの方をお探しください。ここにはいないです。」
「はーい。ありがとうございます。台所ですね!」
サッと応接室を出て、台所へと向かう。
台所へ向かう間の廊下でも、ほかのメイドは忙しそうに窓拭きや、花瓶のホコリ取りなどをしている。
「皆さん掃除忙しそうですね。偉いです。私も仕事をせねばですね。早くブランちゃんを見つけねば。」
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