第2話 辛い日常

小宮山

「ヤクザの人に気を遣わずに女と話してたのが理由みたいです。」

「外に出されてここで・・・」

「自分店内戻るんで、西海さんこの人タクシーに乗せてあげてください。」


西海

「了解。」




気を遣わずに話していたのが気に入らなかったのは事実だろう。

ただ恐らくそれだけが理由ではない。


一番の理由は自分の力を誇示するためだ。


ヤクザに対しては

後輩が自分の統率下にあることを。

俺、小宮山、後輩に対しては舐めたことを

するとこうなるというメッセージ。

女に対しては力関係で優位にいるのは

誰かをはっきり分からせるため。


これはこの場にいる人間だけではない。

必ず後輩は石塚を知る周りの者に今日あったことを話すだろう。

そうなることで石塚はほかの後輩もコントロールしやすくなる。



西海

「タクシー呼んできますね」


後輩

「ああ」




タクシーを呼びに行きながら

西海は考えていた。

後輩は今どんな気持ちなんだろう。


恐らく彼も地元では不良として周りの一般人からは恐れられる存在で金も持っている。

ただ今日の席では些細なことで

ここまで殴られた。

詐欺の仕事を続けていくのだろうか・・・。


そんなことを考えながら

店までタクシーを連れてきて

後輩を乗車させたときだった。




後輩

「石塚さんに申し訳ございませんでしたと伝えてくれないか?」

「後日、自分からも連絡は入れるので」


西海

「わかりました。お大事に・・・」




金は欲しい。ものすごく欲しい。

ただ俺には詐欺はできない。

それは良心からではなく。


刑罰の重さと不良達の縦社会で生きていける気がしないからだ。


店内に戻ると何事もなかったように

社長たちは盛り上がっていた。

戻ってきた俺に社長が気付き近づいてくる。




社長

「西海君、ごめんね。石塚さんが暴れちゃって迷惑かけたね。」


西海

「とんでもないです。」

「お気遣いありがとうございます。」

「じゃあ自分客引きもどります。」


社長

「おう、頑張って。」




そうしていつものように

一日は終わっていった。

次の日15時目が覚める。



西海

(やべ、もうこんな時間か早く事務所行かないと・・・)



西海の勤務時間は16時から翌6時の14時間。

16時から20時まで事務所で

売上のデータ入力や発注などを行う。

20時から6時は開店作業、営業、閉店作業を

して1日が終わる。


そして時給が発生するのは

21時から5時の営業時間だけだ。

つまり日給8,000円。実質の時給は571円。

それを月曜から土曜の週6勤務。


西海は限界を迎えていた。

仕事を辞めない理由は

社長に言い出しづらい

ただそれだけだった。


事務所に向かう電車の中で

考えることはなんとかこの生活を

抜け出したいということ。


とにかく金を稼げる方法はないか

何度も考えてもうまくいかない理由が

見つかり、これはダメかの繰り返し。

そんなことを数週間続けていた。



車掌

「お待たせいたしました、名台前、名台前

お出口は左側です。」



女1

「それでさー本当最悪だったんだからー」



向かいの席に若い女二人が座る。



西海

(うわー可愛いな・・・。大学生かな?)


女1

「お金持ちって言ってたのに

飲み代3000円出してって言われたんだよ!」


女2

「マジで!キモ!!めっちゃセコイじゃんw」


女1

「やっぱ出会い系の男なんて

ロクでもないよw」


西海

(へーあんな子も出会い系やってるんだ・・・)


(さすがに飲み代は男が出すのが普通だよな・・・)


(待てよ・・もしかしたらこれって!!)



西海はこのとき探し求めていた

【この生活を抜け出す方法】を思いついた。


これならイケる。間違いなく儲かるぞ!!!

さっきまでの眠気は吹き飛び、

死んだ目に生気が戻ってきた。



車掌

「お待たせいたしました、終点古宿、古宿です。お出口は左側です。」


西海

「ありがとう!君のおかげだよ!!」


女1

「え!?」

「何あいつキモっ!!」

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