第5話 禁じられた時計

 ちょっと、「そう」かな。って言うかそうじゃないと文章書けないし……


質屋で時計見てる。


「これ、見たいんですけど……」


「……」無言。


 質屋の店員は大抵、応対が悪い。逆にそんな接客でいいなら質屋の店員になりたいよ。


「これですか?」


あ!しゃべった!


「はい。2段目の複雑な作りのやつ……」


「はい。これですね」

(なんだよ。できるじゃない)


「それです」


 出してもらって、しばしうっとり。当然付けたくなる。


「触ってもいいですか?」


「はい」

(なんだよ。感じよくなってきたじゃん)


 手に取ってもすぐには付けてあげない。中古だからダメージ度を確認する。使用頻度が一発でわかる箇所があるんだ。教えるね。ベルトのバックルだよ。ここだけはどんなに丁寧に扱っても傷が入るんだよ。


(ダメージが酷いな。それでこの値段。いくら乗せてんの!意地悪したくなってきたぞ)


「すいません。これシチズンって書いてあるんですけど見たことないんですが、なんのラインにアップされた時計ですか?」


「え?そ、それは時計に書いてありますよ」


「あ!これですね。何と読むんですか?」


「え?それは……カン…ちょっと確認します」と言って他の社員の所に行った。

(そんなにいじわるしてないもんね~。名前聞いただけだもんね~。あ!違うのが来た)


「すいません。それはシチズンのカンパノラです。(知ってるわ。常識の範囲やど。バカたれが)うちにもなかなか入りません」


(カンパノラ付けてる人が質屋にそんなにくるか!値が下がらない時計だからよっぽどのことがあって手放したんだろう)


「これ44万円しますけどダメージ結構ありますよね?定価いくらですか?限定品ですか?」

(もう止まらない。スイッチ入った)


「調べないとわからないのですが定価は60万くらいだと思います。限定品かは分かりません」


「そうですか。(ガッカリした感じで)すいません。いろいろお尋ねして……」


「いいえ。大丈夫ですよ」


「あと一つだけ。電池ですか、エコドライブですか?」


「え?えっと、それは調べてみないと……」


「そうですか。(ガッカリした感じで)すいません(ム―ブメントの裏面を見なさい。エコドライブなら刻印されている)このカンパノラも良かったんですが、複数あるグランドセイコ―のなかにダイヤルに青のラインが入った品は格好いいですね(笑顔)」


「ありがとうございます。グランドセイコーは人気があります。特にお客様がおっしゃったものなんかは次いらした時にはないかも知れません(笑顔)はい!」


「そうですか。値札が20万円って書いてありましたけど、あれ、僕がおたくに10万円で質に入れたものですけど……質流れて1年は経ちますよ。じゃあね、バイバイ」

 

 出禁間違いなしだな。しかし、あんな所には近づかないに超したことは無い。質屋に入れて戻ってきた時計は一本もなかったし……

 

 今日、初めて質に入れ引き戻せた時計を左手に付けて質屋を後にした。(バーカ、二度と来るか!……ただし一番バカなのは私である)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る