打ち上げにみんなで行く。カラオケBOXの中は、踊るか、歌うか。

 テスト返却が終わった。


 午前中には帰りのホームルームをして、下校していいよ。そうなれば。


 遊ぶしかないだろ!


 なにせ、テストで総合順位でトップ10入りだ。祝勝会を開かなくちゃあならない。


 気づいたのは、あかねさんに「サイテー」呼ばわりされた後のことだった。


「前野君」


 サイテー、といい放ったあかねさんが、決まり悪そうにこちらに近づく。


「あのさ」

「打ち上げ?」

「なんでわかるの!?」

「こんな勉強会の成果が出たのに、ハイ終わりとはいかないでしょ」


 あかねさんには感謝しかない。みんなそう思っているはずだ。


「ふたりで、いきたいなーって」

「マイマイ様と宮崎は」

「別の機会に誘えばいいよ。私、たっくんと行きたいの」


 ポッキーゲームから時間が経ち、ふたりきりで過ごすこともしばらくなかった。


 そろそろ、からかいたい衝動が高まっているのだろう。


 それに、あの「サイテー」を聞く限り、あかねさんの僕に対する感情は――。


「……じゃあ、ふたりきりで行こう」

「よかった」

「カラオケとか、どうです?」

「いいね! 楽しそう」


 そうやって話題を膨らませていると……。


「カラオケ? みんなで打ち上げってこと?」

「あかしーとふたりきりがよかった」


 宮崎らが、まるで空気を読まずに寄ってきた。


「み、みんな」


 ちょっとしょんぼりしたあかねさんがいた。


「なあ拓也。コソコソ話なんてひどいぜ。恥ずかしがらずいえばいいじゃん」

「あたしと行くんだよね?」


 ここで、「実はふたりきりで行きたくて」なんていえるはずもない。もはやふたりきりのカラオケは実行できないだろう。


「うん! そうだよ! 早く予約しないと大変だよね!」


 精一杯の笑顔が痛々しかった。せっかくの雰囲気をぶち壊された悲壮感を、僕だけが読み取っていた。


 学校周辺のカラオケ店は全滅だった。考えることはみんな同じだ。前日からフリータイムで予約している猛者が割合いたようで、きょう一日空いていない。


 ちょっと遠いところなら、大丈夫だった。近くに高校のない、あまり栄えていないところだ。占いをしたときに降りた駅、そのちょっと近くである。


「遠いけど、みんなはいい?」


 宮崎は流行りのJPOPを鼻歌で歌っている。その気らしい。


 マイマイ様と僕はこくりとうなずいた。


「じゃあ、決定ね」


 かくして、ふたりきりカラオケという計画は、完全に頓挫した。




 今回訪れたのは、ちょっとこじんまりとした地元のカラオケ屋! 


 なにかとチェーン店を外している僕らですが、空いている方が正義なのだ。


 悲しいかな、中学生のときに気に入った店は、大概潰れたらしい。親からの情報である。


 空いているからといって、質の悪い店とは限らない。


 気の良さそうなおじさんが受付をやっていた。お客さんは、昼どきだったけれど、僕らしかいなかった。


「ドリンクバー」


 寡黙な人で、部屋の場所とかドリンクバーの場所とかを、指で合図していた。


「……楽しんで」


 寂れたバーの店主になれそう。そんな失礼なことを考えていた。


 ソファに座り、タブレットで曲を選び出す。ドスっと、荷物を置いて。


「なんかやけにあかねさんの荷物パンパンですけど」

「カラオケ以外も想定して、いろいろ詰めたんだ」

「気合がすごい」

「私は遊びのために身を削ってるからね」


やけに重そうに運んではいたけど。本気度が違う。


「誰が最初に歌う?」


いったのは、あかねさんだ。


「あかねさんから歌ってくださいよ〜」

「いやいや、私、そんな歌うまくないし……」

「じゃあいかせてもらいます! いくぞ前野」

「僕!?」


 予約されたのは、インターネットでネタ扱いされている曲。先輩が文化祭で踊っていたから、我が高校に限っていえば、そこそ知名度のあるものだった。


「知ってるやつだ!」

「あんたら、カラオケ、舐めてんのか」


 女子勢から正反対のコメントを頂きましたよ。


「「♫〜」」


 洋楽風のテクノ系なのだが、サビ終わりに、イケイケさをすべてを台無しにする曲である。それでたぶん伝わる。


 僕は、踊りながら歌った。


 ダンスバトルを思い出していただきたい。そこそこ踊れるのだ。あかねさんより劣るとはいえ。


 キレッキレで踊ったら、宮崎とマイマイ様はびっくりしたらしい。


「はぁ、はぁ……一曲目から飛ばし過ぎた」

「なんだよ拓也、仲間じゃなかったのかよ。実力隠し系陰キャなんて、今日日求められてないぞ!?」

「え、かっこよ。宮崎のダサさが際立つわ〜」

「黙れ」

「はいはい。こんなの見たら、私も……」


 韓流系の男性アイドルグループの曲を予約。


「♬ー! oh〜」


 やはり、マイマイ様にはカッコよさも似合う。女子校だと憧れの先輩タイプだと思う。


「ふ、この程度」

「なんだか私も踊りたくなってきたなぁ」


 予約したのは。


「……ッ!」


 因縁の曲だった。


 ダンスゲームという勝負には勝ったが、本当の戦いには負けていた、あの曲だ。



 明らかに僕の方に目線を送っていた。


「すごいなぁ!」


 わざとらしく褒める。


「懐かし。あたしと踊ったよね!」


「あんまりうまくないだけど、頑張るね!」


 いって、最初のポーズをとる。


「♪〜」


 まず、歌に聞き惚れた。


 明瞭で聞き取りやすく、洗脳されてしまいそうな声から紡ぎ出される歌唱。みんなが黙って聞き入ってしまう。


 それに、ダンスも一品級だ。


 前にSNSにあがっていた動画のときよりも、さらに磨きをかけていた。


 本気でダンスバトルをやられたら、勝てる見込みは、もはや限りなくゼロに等しいだろう。


「おおっ」


 胸を見るな、宮崎。


 ドン、ドン。二発、マイマイ様の肘攻撃。


「いって〜」

「痛」


 男子ふたりへの攻撃だ。


「胸見るなバーカ」

「「すいません」」

「あたしも見ちゃうけど」


 理不尽だな。人の振り見て我が振り直せって習わなかったのか。


 人に厳しく、自分に甘くがマイマイ様なのだろうか。


「ふぅ。終わり!」


 なんと90点越え。踊りながらの点数である。


「もーさ、あかしーはアイドルグループに書類を郵送して。ひくてあまただろうから」

「いやいや、上には上がいるし」

「なんだろう……みんな俺よりダンスがうますぎて立場ないんだけどぉ!?」

「ドンマイ」

「裏切ったな、男の友情を」

「あんま責めないでくれよ。そういう日もあるよ」


 余裕かましやがって、とボソボソいってるがスルー。


 そうはいっても、ちょっと宮崎をオーバーキルしてしまったな、という心情を、僕以下三名は共有していたようで、以降ダンスは控えた。


 やるとしても、みんな簡単に踊れる曲を選んだ。


 ……歌いにきてるのか踊りにきてるのか、よくわからなくなってきた。


「ちょっと腹減ったな」

「食うか」

「このお店って、食事とか頼めるんだっけ?」

「そうらしいよな、前野」

「なぜ僕に振る」


 踊り疲れた僕らは、ちょっと遅めの昼飯にありつくことになった。

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