あかねさんは、なぜ。隣の席は、背徳感に繋がる歪んだ始まり。
にわかに信じがたい占いの結果に、僕は震えていた。
一ヶ月以内に、キスをしている?
冗談じゃない。また、とんでもないヤンデレが生まれてしまうというのか?
「もしかして、伊能さんが僕を騙している可能性も……」
女性とキスをしている。情報はそれだけだ。誰とするか、どんなシチュエーションでするのか、明かされていない。
幸せなキスかもしれないし、最悪のキスかもしれない。
「結局、不安が増えただけだったな」
一難去ってまた一難。もう、平穏な生活からの脱却は、止まらない。
店を出てから、近くの田んぼを散策しても気なんて紛れず、近所に戻ってからもぶらついていたが。
余計なことばかり考えてしまった。最終的には、テスト勉強をしていると無心になると気付けたのが大きかった。
次の日の学校。
宮崎がハイテンションだった。当然か。勉強会が、かなり楽しかったという。
対する僕は、またしても不安を抱えている状態になっているので、心から「そうだよな、楽しかったよな」、ということができず。
「なんだか元気ないな」
「そうか? 僕だってすごく楽しかったし、もうテンションぶち上がりだったよ」
「そうならいいんだけどな……」
ちょっと見抜かれているかもしれないな。
一ヶ月以内に進展がある、といっても、きっかり一ヶ月後とは断言されていないわけで。
明日かもしれないし、一週間後かもしれないし。そこのところは、神のみぞ知るというところか。
「あれ、きょうって席替えじゃね」
「そうだっけ?」
日直が一周したら、席を変える。出席番号順で回していた。
きのうは「わ」から始まる人が日直だったな。それなら席替えをしてもいい頃か。
「とはいっても、俺たちが新しい席で過ごすのは長くないけどな」
「テストもあるし、三月に入ったらあまり学校もないか」
「そういうこと」
席替えか。
高校生になってから、クラスの教室を使わない機会も増えたから、小中学生のときよりかはワクワク感が減っていた。
僕らのクラスの場合、どの席になるかはくじで決まる。クラスの人数分、番号の書かれた割り箸が用意される。
入り口側の席の人からくじを引く。引いた割り箸に書かれている番号と対応する席に、座ることになる。
当然、運によるところも大きいので、男子や女子だけが固まる列ができることもある。
そのなかに、さして関わりのない異性がポツンと紛れ込んでいたりすると、互いにやりづらくなるというのは、どこでも同じなのだろうか?
「どこに座りたい?」
「俺は後ろで惰眠を貪りたいから、断然後ろの方だ。最前列に座りでもしたら、ジ・エンドだろうよ」
「そんな大袈裟な」
「拓也にはわからんだろうよ」
こういう性根が赤点スレスレに結びいているのだろう。
朝のホームルームでは時間がないということで、席替えは昼休みに回された。
「じゃあ、始めるぞ〜」
宮崎は必死に祈りを捧げていた。「後ろ来い! 後ろ来い!」と小声でいっていたが、願いは届かず。宮崎の番が回る前に、最後列は埋まってしまった。
「んー、真ん中」
うれしくも悲しくもない、微妙な席だったと、後で宮崎が熱烈に語っていたのは別のお話。
さて、僕の席はどうだろうか。
くじを引く。
「前野は、ここだな〜」
黒板には座席の略図が書かれている。そこに名前が書き足されていく。
僕の席は。
「前野君が隣だったんだ。なるほどね」
篠崎、茜。
「……!」
僕は目を見開いた。そして表情が固まった。
「篠崎さんの隣だからってそんな固まる?」「我々にも譲ってくれないか、その特等席!」「なに、マジでありえないんだけど。なんであかしーの隣があたしじゃないわけ」
などなど、ちょっとざわつく教室であった。
席替えになると、どこかクラスも浮き足立つ。それがテスト前であろうと関係ない。
いったん深呼吸。なに食わぬ顔で、席に戻る。
あかねさんが、隣か。
偶然にしては、出来すぎている。そう思うのは考えすぎというべきか。
くじを引くとき、ちょっと迷ってから引いた。本来引こうと思っていたものがあったが、「なんか違うな」と直観がはたらき、別のくじに変えたのだ。
だからどうした、という話だが。僕の恐怖心を煽るには充分であった。占いの後、繊細になっているということもあったので。
全員の座席が確定し、新たな席に移動するよう命じられる。
今度の座席は、窓側の後ろから二番目。いわゆる“アニメ
アニメにおいて、ここらへんの席から、窓の外の景色を眺めているキャラが多いというのが命名理由である。
移動すると、もうあかねさんは座っていた。笑顔で待ち構えていた。
「よろしくね、前野君」
「こちらこそ」
ただのクラスメイトであるかのように振る舞う。
しかしまあ、繰り返すようだが、まさかあかねさんと隣になるとは。
「あんまり変な真似しないでくれよ」
小声で伝えておく。
「……フリ?」
「あかねさんとて、誤解されたら困るでしょうに」
「監視の目があるから」
控え目に指を差した先では、冷えた目をした獣が睨みつけていた。
マイマイ様である。
「うわ、めっちゃ怒ってる……絶対後で小言をいわれるやつじゃん」
「絆創膏持ってるから!」
「僕が殴られる前提!?」
こんな風に軽口を叩いていたら、近くの席の人に「?」という顔をされた。
「というわけで、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
下手に話しすぎてもいけないな。あくまでただのクラスメイトを装うのだ。大事なことだから、二回、自分にいい聞かせた。
もはや、なにが起ころうとも僕は驚かないぞ。予想外が起こることは、予想の範疇にあるのだから。
「調子乗んなこのポッと出が!」
「……痛っ!」
昼休み、飯を食った後。
空き教室でマイマイ様にちょっとガチな感じで理不尽な暴力を受けたのは、予想内とか関係なく、ふつうにやめてほしかった。
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