伊能さんの未来予知に望みをかけよう。1ヶ月後のキス予知は、当たるか否か。

 未来予知と占い師。まさしく能力と職業のベストマッチである。


 伊能さんにとって、占い師は天職だろう。


 占いを始めるよ、といわれた僕だったが、異能力絡みのことで気になることがあったので、色々質問をしてみた。


 合計で5つの質問になった。


 問1:


 未来予知って、無制限にできるの?


 答:


 それは無理。諸々の制限がある。


 たとえば、未来を変えることはできないし、馬券を当てて大儲け、とかも検証したが不可能だった。


 問2:

 

 能力を使う代償ってあるの?


 答:


 ある。体に不調をきたす。


 眼精疲労がひどくなるケースが多い。それを理由に眼帯でもしようかと画策している。結局、私は厨二病なのかもしれない。


 一度、倒れて病院送りになったこともある。だから、便利だからといって乱用はしていない。


 未来を知りたくで死んでしまったら、元も子もないから。


 問3:


 どのくらい先の未来まで見通せるの?


 答:


 見通したい情報にもよる。検証の結果、天気くらいなら、数ヶ月先のものがわかった。それなら天気予報と変わらないか。


 肌感覚だと、長くても数週間先から一ヶ月弱ぐらいが限度だと思う。


 問4:


 能力を得てよかったことは?


 答:


 ない。世間に知られたら利用されるだろう、という恐怖に怯えながら生活するようになった。


 未来を知れるとなれば、生きる張り合いもなくなってしまう。異能力者と出会えると予知できたときは、うれしかったが。


 問5:


 未来予知ってどんな感じでやるの? 感覚は?


 答:


 いまから実践します。


「というわけで、いまから占いをしていきます」

「もう未来を読まれているんじゃないんですか?」

「読みたい未来がクリアな方が、精度が上がるんです。なので、バンバン質問していきますね」

「了解です」


 年齢・生年月日・最近の出来事・不安なこと・将来の夢。


 このあたりを聞かれ、話を膨らませていった。ポッキーゲームの話なんて恥ずかしくて御免だから、他のことをできる範囲で話したけれど。


 もしかしたら、隠したとしても、未来予知で見抜かれているかもしれないんだよな。


 恥ずかしがっても仕方ないと、後になって気づいた。


「……なるほど、ここ最近は充実した生活を送っている。でも、不安も同時につきまとうような、危うい状況にあると」

「そうなんです。異能力のことを聞きつけられたのは、正直ショックでした」

「私もよくわかりますよ」


 いったんこのくらいにしておきましょう、と年齢不詳の魔女は話を中断した。


「では、未来予知に入ります。チャンスとしては……三回。質問によっては、それ以下にもなりえるので、あしからず」


 三回、か。


 決して多くはないが、すくなくもない。魔法のランプと同じ回数だ。


 質問さえミスらなければ、充分な収穫は得られるであろう。


「それでは、ひとつ目の質問を」


 考える。僕が欲しい情報は、なにか。


「今後、僕が伊能さん以外の異能力者と接触する機会って、ありますか」


 うんうんと聞いてくれたあとは、入店したとき同様、謎の手の動きを見せて(某ニチアサの変身ポーズに近い)、水晶玉に両手をかざした。


 キャンプファイヤーで暖を取るときのような感じだ。


 見る見るうちに、無色透明だった水晶玉が、紫色にぼんやりと光り出す。不安定な光が、点滅を繰り返す。


 目を開けることなく、伊能さんは黙って手をかざし続ける。


「……見えました」


 水晶玉の光が消えた。


 伊能さんはすこし息を切らしていた。異能力を使った占いというのは、想像以上に体力を要するものなのだろう。


「結果は」

「接触は、あります。でも、誰だかは見えなかった。人数にして、二名。これが、私からいえるすべて」

「そうですか」


 異能力者との接触は、あるとわかった。質問が悪かったかもしれない。


 これから新たに現れるふたりなのか、それとも、すでに出会っている者のなかに伊能者が紛れ込んでいるのか。


「今度は、ふたつ目の質問を」

「その異能力者の能力の内容と影響は?」

「さきほどと、似て非なる質問ですね。わかりました」


 同様に、手のポーズがあって、水晶玉に手をかざす。


 今度は、謎の呪文まで唱え始めた。日本語ではなさそうだ。


「出ました。ひとり目は」

「はい」

「相手の行動を、能力」

「ずらす能力?」


 いわく、未来改変の能力だとか、思考・感情の誘導に近いという。特定の単語だとか、間であるとかの極めて繊細な調整によって、誘導されてしまうのだという。



 言葉で人の行動を左右することのできるもので、本人の自覚はなさそうだ、とのこと。


 たしかに、単に口がうまい人もいるし、それが異能力などとは、考えもしないだろう。


「感情の誘導より恐ろしいのが、未来改変の力」


 感情の誘導、という能力を派生させて、未来そのものを誘導する力とのことだ。


「知らず知らずのうちに、都合のいいように世界が変わっているかもしれない。なるほど、面白い」

「伊能さんは、いま知ったんですか?」

「知っていたら、嬉々として前野さんにお話ししているところです」


 なんともすごい能力だ。ただし、適応範囲は極端に狭いはずだ、という。


 とにかく、思考を誘導されたら抗いようがないので、いわれたところで気休めにしかならないらしい。残念だ。


「それで、ふたり目は?」


 僕の方から訊ねた。


「能力……あれ、おかしいな」

「どうしました?」

「思い出そうとしても、頭にノイズがかかったように、思い出せなくなって……」


 ちょっと待ってみたが、結局思い出せなかったようだ。


「どうしたんでしょうかね」

「私が未来予知の対象にしたことを自動で検知して、撥ねつけられたのかもしれません」


 あまり詳しくないが、ファイアウォールのようなものだろうか?

  

 未来を知ろうとしたことをきっかけに、いわばウイルスとして検知され、予知を妨害されてしまったのかもしれない。


「そういうタイプの異能力という可能性を疑ってみてもいいかもしれません。頼りなれず、申し訳ありませません」

「いえいえ、気にしないでください」


 未来予知とて、万能ではないのだと痛感した。


「じゃあ、最後の質問を」

「……僕は、一ヶ月以内にキスをしていますか」

「あなたの異能力のことですね」


 もっとも気になっていて、もっとも恐ろしい質問だ。


 していなければ、それでいい。


 だが、最近の状況。


 あかねさんとうっかりキスをしたっておかしくない状況。


 ゆえに、知っておく必要がある、と思った。


 未来は変えられないかもしれないが、無知でいるよりも、心構えができるというものだ。


 頼む、なにも起こらないでくれ……。


 手を組んで、目をつむった。


「結果、出ました」

「それで、どうだったんですか!?」

「占いの結果――」




「一ヶ月以内に、――あなたは、ある女性とキスを……しているようです」




 暗い部屋であるが、伊能さんはいささか赤面して、あわあわしているのがわかった。


「ちょ、その反応はなにを意味しているんです?」

「いや、これはちょっと……私の口からは」

「ノートに筆談でもいいです。教えてもらえませんか?」


 はぐらかされ、詳しい内容は答えは教えてくれそうになかった。


「知りたいなら、追加料金30万円で」

「高校生には土台無理ですって」

「そういうことです。とにかく、ここから先はあなたの問題です」


 気になるじゃん、そのリアクション。


「きょうはここまでとします。本日はご利用いただき、どうもありがとうございました」


 料金は1万円となります、とのことらしい。


「高……いや、これが相場なんですかね」

「未来予知込みでこの価格は、だいぶ値切りましたから、この辺で勘弁してください」


 未来予知込みと思えば安いか。


 まあ、半分くらいは微妙な結果になってしまったが。


「じゃあ、これで」

「一万円ちょうど、いただきました。じゃあ、これ」


 レシート代わりに、お守りを渡された。恋愛成就、と書いてある。


「どういう意味ですか」

「同じ異能力持ちとして、応援してますよ! また来てくださいね」


 いわれて、出払うよういわれてしまった。


『一ヶ月以内に、――あなたは、ある女性とキスを……しているようです』


 未来予知能力者の発言だ。


 これは……大波乱が待っている。


 覚悟を決めなければいけないときが、来たようだ。

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