一色

@daseideikiru

一色

大半の人がお昼を終えた午後1時に、私は瞼を擦った。5年前にホームセンターで購入した薄手の毛布は年相応にくたびれ、妙な芳しさで私を包んでいる。何もない。そんな1日が今日も始まってしまった。ちょうど一週間前から大学に行くのも億劫になり、ようやくできた友人ともまた距離が空いてしまったようだ。大学進学に必要な資金が賄えるほどに裕福なわけでもないため、祖父の遺したものをそれに充てた。「立派な大学で勉強して、お爺ちゃんも喜んでいるわ」受話器からはこんな声が涙まじりに聞こえてくる。うまく笑えない。生まれてこの方、というわけではない。小学校の頃から始めた空手や野球のおかげで、ある程度の礼儀とコミュ力は備えることができた。だからどんな場所でもうまくやっていけていたはずだ。いや、今もうまくやることはできるのだ。でも味気ない。何が不安なのか、何に悩んでいるのか、それもわからない。毛布を被れば、「今日のこの発言が〜」とか、「あの時は〜」なんて。どれだけ悩んでも、灯りのないこの部屋では誰も答えてくれない。今日もまた、同じ明日に目を閉じる。

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