第6話 路上ライブ
「あ、連絡先。ま、いっか。路上ライブに来てくれるって言ってたし、終わったら改めて聞こっと」
気分を変えて一度織に戻る。
「あ、たっくん。やっと戻ってきた。マスターに聞いたら一度店を出て行ったって言ってて。戻ってくるの待ってたの」
中に入ると七瀬が居て嬉しそうに近寄ってきた。
「どうしているの?」
「もう、どうしてじゃないよ。たっくんの路上ライブ前にも一緒に居たくて。マスター、詩織さん。いつもうちのたっくんがお世話になってます」
そう言いつつ七瀬が頭を下げる。
うちの彼がみたいな言い方しないで欲しい。誤解されるのは困る。
「泰叶くんはお父さんににて人気者ですね」
智紀さんがそう言って微笑む。ふと、瀧澤さんと目が合ったが気まずそうにそらされてしまった。
「ほら、たっくん。そろそろ時間でしょ。行こ?」
七瀬がギターと鞄を渡して腕を引っ張ってくる。
「七瀬、ちゃんと行くから待って。瀧澤さん、今日の路上ライブ、バイト終わったら来てね。話したいこともあるから」
腕を引かれつつ織を出ていつもの駅前に行く。
「ねえ、たっくん。瀧澤さんといつから仲良くなったの?」
路上ライブの準備をしていると七瀬にそんな事を聞かれる。
「いつからでも良いじゃん。七瀬には関係ないでしょ」
「関係なくないよ。たっくんは他の女の子にもてるから、私は」
七瀬がそう言って言葉につまる。
「ていうか、俺が誰と仲良くしようが、七瀬には関係ないじゃん。それなのに何でいちいち七瀬に教えないといけないのさ」
「そうだね、確かに私には関係ないかも。ごめんね、変なこと、聞いて」
そう言って七瀬が微笑んだ。
それから準備が終わって路上ライブが始まる。
「今日も来てくれてありがとうございます。みんなが俺の歌を聴きに来てくれるおかげで毎週、同じ場所、時間に路上ライブが出来ています。それでは楽しんでいって下さいね」
一曲目を歌い始める。動画を撮る人、足を止めて聴いてれる人。通りすがる人。
本当に色々な人が居て、ここで自分のことを知らなかった人が俺の事をネットで検索してくれる。そして、歌ってみたの動画にたどり着いて再生数が伸びていく。
少しずつ、歌手としてメジャーデビューするという夢が近づいてきているような気がする。
そんな事を思いながら歌っていると路上ライブが終わった。
そういえば、結局、瀧澤さん、来てくれなかったな。
残念に思いながら片付けをしていると、七瀬が手伝ってくれた。
「今日も格好良かったよ。お客さんもたくさん居て良かったね」
「うん、そうだね」
特定の人にこんな聴いて欲しいって思ったの、初めてだな。不思議な気分
だ。
「たっくん、どうしたの?」
「別にどうもしないよ。片付けの手伝い、ありがと。帰ろっか」
片付けが終わり、家に向かった。
「ただいま」
「おかえり、にいちゃ」
七瀬と途中で別れて自宅マンションに帰ると美夢が嬉しそうに出迎えてくれた。
「まま、にいちゃが帰ってきたよ」
美夢とリビングに行き、母ちゃんに、ただいまと言った。
「お帰り、泰叶。あれ、何か、元気ない?」
「別にそんな事ないよ。荷物、部屋に置いて着替えてくるね」
やけに勘の鋭い母ちゃんをおいて自分の部屋に入り一息つく。
しばらくして着替えを済ませてリビングに戻り、冷蔵庫から父ちゃんが作ってくれていた夕飯を取り出して温め始める。
「泰叶と美夢だけでご飯食べちゃって。お母さんはお父さんが帰ってきたら食べるから」
「うん、わかった」
温め終わった夕飯をテーブルに並べて美夢と二人で食べ始める。美夢が話しかけてきてそれに適当に返事をしながら食べていく。
「ごちそうさま。今日はお風呂入って寝るよ。お休みなさい」
母ちゃんに余計なことを聞かれる前に食器を流しに持って行き風呂場に向かう。
「瀧澤さん、どうして来てくれなかったんだろ」
モヤモヤとした感情を抱きながら湯船につかり、小さく溜息をつく。
「明日の昼休みにでも教室に行ってみようかな」
そんな事を呟きながらお風呂を出て寝る支度を済ませて眠りについた。
ー続くー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます