インターミッション1

   ・・・


 生きていた。死んでいない自分を不思議に思った。


 意識を取り戻したとき、川岸でうつ伏せに倒れ、両足を川の流れに浸したかっこうだった。

 水から這い上がり、砂利の川原に座り込んだ。四方は森だ。見知らぬ種類の木々が茂り、まるで場所の見当がつかない。

 弓はないが、愛用の剣は取り上げられぬまま腰にある。


 確かに自分は死んだはずなのに、と思う。死刑が執行され、死の魔法デス・スペルによって息の根を止められた。

 それから、死体は『咎人流しの川』に投げ捨てられたはずだ。魔王領では、大罪を犯した者は咎人流しの川に捨てられることに決まっている。偉大なる魔王のしろしめす土地に罪人を埋める場所などないということだ。


 今目の前にあるこれが咎人流しの川なのだろう。死体は水に浮かんで運ばれ、どこか下流のこの場所に流れ着いた。


 そして、なぜか息を吹き返した。


 魔王軍四天王の一人、『悲鳴なき死』ヴァルゴールが放った魔法だ。失敗ということは考えられない。


 ということは答えは一つだ。ヴァルゴールは、わざと不完全なデス・スペルをかけたのだ。おそらくは、部下であった自分を生かすために。

 逃がすために。


 まだ死ぬな、と言うのか、ヴァルゴール先生。

 ならば先生の望み通り、こちら側で生きてやろう。

 脳内のヴァルゴールに頭を下げた。

 そして立ち上がり、一歩を踏み出した。


   ・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る