第10話 死闘の試練④・穿たれる神槍『グングニル』
「団長!!勇者グループの拠点を発見いたしました」
「そうですか、ご苦労、ではすぐに部隊を派遣し、その周りを監視しなさい」
「はっ!!」
やはり、拠点を作っていましたか、さすが勇者、最善の選択です。
ですが、逆に策を行ってくれたおかげで、それ以外の勇者を殺すことができる。
「報告です!!新たな勇者グループを発見したとのことです」
「すぐに迎え打ちなさい」
「はっ!!」
おそらく、二日目でほとんどの勇者グループを殲滅できるでしょう。
そして三日目を迎えた時、最後に残した勇者グループとの死闘でこの試練が終わる。
今のところ、私の手のひらの上でことが運んではいますが……。
「では、私もそろそろ出るとしましょう、この試練において最も困難な障害……」
常に一人行動をしているあの勇者を私の手で……。
「ベルフ…いますか?」
「はい、ここに!!」
「しばらく、あなたが指揮を取りなさい…」
「はっ!!」
そして私は森の中へ歩み出した。
すでに潜めている場所は把握している。
私の瞳はもうすでに彼女だけを捉えている。
勇者ひなの、あなたは私の手で打つと死闘の試練が始まった時から決めていた。
「さぁ、試練という名の喜劇を始めましょう……」
かなりヤバい状態に私は置かれているらしい。
朝、目が覚め、少し調査すると次々と勇者が殺されていることが判明した。
おそらく、ティアナ騎士団の仕業だろう。
「もしかして、私も狙われている?」
嫌な気配がこちらに近づいているのを感じる。
嫌な予感、別に特別なスキルを持っているわけではないが、悪寒、それを肌から感じるのだ。
「………祐樹がいるグループは特に襲われているわけではないらしいから、おそらく、それ以外の全ての勇者を皆殺しにするつもりね…」
つまり、私も対象ということ……。
手汗が止まらない、体が小刻みに震える。
「だめだ…冷静になれ…」
私のスキルが感情をより増幅させている。
心臓の鼓動も時間が経つごとに高まっている。
「不便だな…」
スキル【感情活性】、私なりの範囲内で知ったことだが、このスキルは歯止めが効かない。
その時の感情を何倍にも増幅させている。
プラスの感情ならそれでいいのだが、負の感情になると一気に冷静さを失い、自分自身の感情を制御できなくなる。
「今はなんとかなっているけど…」
これ以上、感情を制御できない…早く安全な場所に移動して冷静さを取り戻さないと。
私はひたすら、森の中を駆け抜けた。
嫌な予感がしたら、すぐに進路を変更し、できる限り遠くへと逃げた。
もう、おそらく祐樹が率いる勇者グループ以外、残っていないと思う。
ティアナ騎士団の強さはこの目でちゃんと観察してきたからよくわかる。
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
この世界に召喚される前なら、とっくに膝から崩れ落ちていただろう。
だが今は勇者なのか、疲れてはいるがまだ余裕がある。
すでにもう3時間は走り続けている中、まだ嫌な気配は追ってくる。
「やっぱり、戦うしかない…かな…」
けどこの気配、今までに感じたことがない気配、もしかしたら、もしかしたらだけど……。
少し足を止めていると、足音が聞こえた。
それは少しずつ、こちらに近づいている。
「少し…木が邪魔ですね」
すると奥の木々から青い光が見えた。
その瞬間、一気に背筋がゾッとした。
そして、私の脳内で訴えかけてきた『避けろ…』と。
私はすぐに体を伏せた。
その瞬間、光が私の背中を通り抜けた。
大きな青い光が全体を覆い、私は目を閉じた。
目を開くとその周り、視界には木々が塵となって朽ちていた。
私は信じられず、少しぼーとしてしまった。
すると歩み寄る足音が聞こえた。
「改めて、初めまして、勇者ひなのさん…」
私の目の前にはティアナ騎士団、団長・ティアナが美しい碧眼、その槍を輝かせながら、こちらを見つめていた。
「……」
私は唖然と同時に驚きを隠せなかった。
たった一振りの槍で周りの木々を塵に変えてしまう団長、そんな存在、勝てるわけがないと思ってしまった。
「少し、見せすぎました…けどこれも現実、勇者にはこれぐらいのことはできないと、勇者なんていう名を語ることはできませんよ」
「正真正銘の化け物ね…」
「化け物ですか、それは褒め言葉として受け取っておきましょう…しかし、鬼ごっこは実に楽しかった、弟とやって以来です…しかし鬼ごっこをやめたということはそれなりに死闘する覚悟ができたということですよね?」
「そう、見えますか?」
「ふん……そうですね、そうは見えませんが、しかし、勇者ひなの、あなたはまだ生きることを諦めていませんよね?」
「!?」
「瞳を見ればわかります…やはり勇者の中でもっとも警戒するべきは、勇者ひなの、やっぱりあなたで間違いありませんでした」
勇者達の中で私が一番に警戒されていた?どいうこと……。
だめだ、今はわからないことを考えるのはやめよう。
今は私が置かれちるのは団長ティアナと戦わなければならないという状況、いやこれ詰みでしょ。
「さぁ、私と死闘を……」
「やるしかないよね…」
私は携えている剣を引き抜き構えた。
「ふん、ではいきますよ」
すると視界に鋭い槍先が映る。
私はギリギリで避けた。
「目がいいのですね」
「あっぶな…」
完全に不意をついた一撃、完全に油断した。
もし、スキル【感情活性】がなければ、確実に仕留められていただろう。
スキル【感情活性】はとある特殊の条件下において最大の効力を持つ、それが戦闘だ。
戦いに関する全ての感情を自身の力に変えることができる、それがこのスキル。
しかもその感情を燃やせば燃やすほど自信の身体能力が向上する。
つまり、この戦い長引けば長引くほど私の感情が燃え、生存率が上がる。
ここは少しでも時間を稼ぎたい。
私はすぐにティアナ団長の間合いに入る。
相手の武器は槍だ、距離を開ければその分、相手の攻撃する手段と方法が増えてしまう。
ここはやはり距離を詰めて、相手の攻撃手段を狭めることが最も適した答えだろうと判断した。
「はっ!!!!」
ティアナ団長に向けて間合いを詰めながら剣を振り続けた。
「やりますね」
「余裕そうな顔をして……」
最初は完全にティアナ団長が優勢だった、だがティアナは少し違和感を感じていた。
それは、剣と槍が撃ち合うたびに勇者ひなのの力が上がっていることに……。
最初は偶然だと思ったが、途中で確信に至った、彼女は私と撃ち合うたびに強くなっている。
まだ剣術は初心者ながらも、確実に強くなっている。
「なかなか……」
「はぁはぁはぁはぁ……はぁ〜〜〜!!!!」
疲れているはずなのに、もう体力も限界なはずなのにそれでも剣を振るっている。
素晴らしい、これこそ勇者という存在なのかもしれない。
そしてついにティアナの槍は弾かれた。
全く本気ではないとはいえ、弾かれたのだ、私の槍が……。
「なっ!?」
「はぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!!!」
そして胴体に隙ができ、そこに向かって剣が吸い込まれる。
このままでは確実に直撃する。
いける!!このチャンスを逃してはならないと私の脳が叫んでいる。
勇者ひなのが振るった渾身の一撃。
その時、ティアナはボソリと呟いた。
「『神槍・階梯』」
その言葉と共に蒼き槍が神々しく輝き出し、勇者ひなのの渾身の一撃はかき消される。
光に紛れ、勇者ひなのは大きな風と一緒に吹き飛ばされた。
「なっなにが起こって……」
私はなんとか地面に剣を突き立てて、なんとか体勢を保つ。
「勇者ひなの、あなたの力、確かに肌で感じるほど素晴らしいものでした、まだ未熟とはいえ、私の槍を弾いたのですから、誇っていいと思います……」
ティアナ団長は私を称賛した。
優しい声、こんなことをするとは考えられないほど透き通った声だった。
「なので、見せましょう、私の一槍いっそうのその一端を!!」
蒼く輝く槍が槍先に集まっていき、その輝きは槍全体を優しく纏う。
そしてティアナが蒼く輝く槍を構えたとその時、槍が神々しく輝き出した。
「『これこそ、全てを貫く神槍・第一封印解放・穿て・グングニル!!!』」
その槍は私に向けて穿たれた。
神速の速さ、目では捉えられないほどの速さ……。
まさしく、神槍……その言葉こそ最もふさわしい表現だと思った。
私は死を覚悟した……。
私は自然と目を閉じた。
その神槍は私の横を通り過ぎ、森の遥か先へと突き進んだ。
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