第11話 死闘の試練⑤・立ちはだかる勇者祐樹
ゆっくりと目を開けると、私は生きていた。
「え?」
「後ろ見てみて」
ティアナ団長に言われるがまま、私は後ろを振り返った。
そこには衝撃の光景が広がっていた。
たくさんの木が生い茂っていた森が木々が全て朽ちていた。
何一つ残っていない。
「これでも私はまだ本気を出していない…その意味よく理解して次に活かすこと…私はあなたを生かす価値を見た、せいぜい死んでいった勇者の分まで頑張りなさい…」
すると遠くから槍がこちらに向かってくるのが見えた。
おそらくティアナ団長が穿った槍だろう。
その槍はティアナ団長の手元に戻った。
「じゃあね、勇者ひなの……」
私はそのまま、ばたりと倒れ込んだ。
強い、次元が違う……。
あれってもう勇者以上に強いんじゃない?勇者いる?と思ってしまった。
「生きてる、私は生きている……」
生きていることへの実感、そして同時に芽生える強くなりたいという信念。
強くなりたい、もっと、もっと、そしてきっとの先に自分がなりたい自分がいる気がした。
私は倒れた体をゆっくりと起こし、立ち上がる。
「やれやれ、本当に困ったな…」
聞き覚えのある声が耳に入る。
私はすぐに聞こえた方向に顔を向くと、そこには不敵な笑みを浮かべながら、片手に稲妻を纏う剣を地面に突き立て、彼は話しかけた。
「まさか、あのティアナ団長が君を認めるなんて、これもまた主人公補正というやつなのかな」
「どうして、ここにいるの…祐樹くん」
「う〜ん、ここにいる理由を簡単に述べるなら、君を……勇者ひなのを殺しにきた…かな?」
「な、何を言って……」
「そもそも、君をここまで生かした僕が悪い、そうだ、あの時にさっさと殺していれば、この試練ももっと簡単にことを運べたのに!!あ〜あ、自分が嫌になる!!自分が嫌いになりそうだ!!」
どういうこと、わからない、どうしてここに祐樹くんがいるのか、情報の整理がつかない。
「ようやく、ようやく!!!、僕の時代が来たと思ったのに…やっぱり君はいつも、僕のあるべき場所を奪う、だから僕が君を殺して…この僕が!!主人公になる!!僕が主人公になって世界を救うんだ!!」
そう言って、勇者祐樹は稲妻を纏う剣を持って、私の間合いに入る。
一瞬の急加速に私は反射的に体を動かす。
何が何だか、わからない、勇者グループのリーダーである祐樹くんがなぜここにるのか、そして私の知らない謎の単語、だけど今はこの状態を乗り越えなくては……。
「死ねぇぇぇぇ!!!!」
勇者祐樹の剣が私の真横をギリギリで通り過ぎる。
からぶったのか、運良く避けれたのか、ギリギリでかわすことが出来た。
しかし、すぐに二振り目がくる。
勇者祐樹が両手で剣を持ち、上から大きく振りかぶる。
私は手に持つ剣で、防ぐ。
「くぅ…無駄な足掻きを……」
「……祐樹くん!!どうしたの!!」
私は語りかけた、今の状況を理解できない以上、どうしようもない。
情報が圧倒的に足りない今、直接本人に聞く以外に方法はない。
まぁそこまで祐樹くんと接点なんてないんだけど…。
「私、何かした?」
「君が悪いんだ、僕の居場所を、僕がいるべき場所に座るからぁぁぁぁぁぁ!!!!」
勇者祐樹の力が増していき、押し合う剣が少しずつ、押されていく。
いくらスキルの超補正があるとはいえ、流石に力負けする。
これが今の祐樹くんの力……。
私はすぐに上からのしかかる力をずらして、その場から距離を取った。
「はぁはぁはぁ…」
ティアナ団長との死闘で体力の限界が近い。
しかも祐樹くんは万全の状態…このままじゃあ………殺される。
「しぶとい奴だな」
「話は通用しないみたい…」
ここは殺さずに、祐樹くんを気絶させるしかない。
けど…そもそもまともに戦えるかな……。
「やっぱり、主人公補正でそう簡単には殺すことはできないか…なら僕も本気を出すしかない」
勇者祐樹から稲妻のみでなく紅の炎が舞い上がった。
すると左手には炎を纏う剣が握られた。
右手には稲妻が走り、左手には紅の炎が舞っている、まさしくその姿は勇者のようだった。
「殺す…殺す…殺す…」
私は思った…勝てない。
ティアナ団長ほどではないとはいえ、力の差は歴然、絶対に勝てない。
それでも戦うしかない。
「ふぅ〜〜」
私は剣を構えた。
「死ぬ覚悟は出来たか?」
「ふん、私…死ぬつもりはないの」
生きたい…生きたい…生きたい!!、だから私はたとえ勝てない戦いであろうとも一歩、勇気のある一歩を進む。
「ふん、たわいごとを…死ねぇぇぇぇ!!!!」
二振りの剣が交互に激しく、降り掛かる。
タイミングに合わせながら、攻撃をかわすが、もう一振りが直撃する。
私は後方に吹き飛ばされ、体全体が燃え上がった。
「斬れなかった…だと」
熱いし、痛かったけど、すぐにその感覚は無くなった。
なぜかは、わからないけど、何も感じなくなった。
今は何も考えるな、考える時間が自身の隙を生み出す。
すぐに体から燃え盛る炎が自然消火された。
「はぁはぁはぁはぁ…まだ戦える」
「これも主人公ゆえか…しぶといやつめ、なら!!」
勇者祐樹は二つの剣を一つの束ねた。
「『ここに、聖と魔の融合を』」
すると二つの剣が溶け合い、一つになっていき、その剣は禍々しいオーラを放つ。
「これこそ、聖と魔の融合剣……『聖魔剣』だ」
聖と魔の融合剣、聞いたことはないが、その剣から放てれるオーラは体を震わせる。
やばい、体の震えが止まらない。
ただただ恐ろしい、ダメだ!!ここで恐怖の感情を出せば、スキルの効力が終わってしまう。
落ち着け、落ち着け…深呼吸。
よし、大丈夫、まだ保ててる。
「これで次こそ、確実に殺してやる、殺してやる」
「本当に私が何をしたのやら…」
正直、少しだけ諦めの気持ちがある。
勝てない、勝てないと心が叫んでいる、きっと諦めれば楽になれる、その方がきっと……。
でもそれを許さない自分がなぜかいる。
だから私は立ち上がる。
たとえ、不条理だったとしても……。
そして勇者祐樹は動き出した。
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