第6話 C2 阿須ひなのはこれを機に自分を変えたい
私たちはそのまま騎士達の案内のもと、ある部屋に案内される。
部屋は一人一人に準備されており、私たちは流されるがまま、部屋の中に入る。
私、阿須ひなのは部屋全体を見渡す。
「怪しい……」
王様みたいな人が言っていた言動がとても怪しく感じた。
別に見た目が怪しいというわけではない、ただ自分でも恐ろしいほどにこの状況に順応している。
「それにこの体の熱さ、頭に浮かぶ、スキルのような名前…やっぱり、おかしい」
異世界転移…それがきっとこの状況を示す答えだろう。
「けど…これはないよ、これは、やっと自分を変えるチャンスが来たと思ったのに…」
違和感は確かに感じたが、そんなことはどうでもよかった。
そんなことよりも私は自分を変えることができる可能性を感じたこの状況に心が高鳴った。
「スキル・感情活性…」
こんなスキル、私が読んできたライトノベルにもなかったし、そもそも文字が語呂合わせにしか見えない。
おそらく、他のクラスメイトもこのスキルの存在には気づいていると思う。
「それに職業・勇者、テンプレだな〜〜〜けど…」
これを機に私が変わることができれば、元の世界に戻った後も、きっと…きっと…。
すると扉から叩く音が聞こえた。
「勇者様、お食事です…」
「あ、はい…」
こうして私たちは大きな食堂みたいな場所に集められ、机にはずらりと見たことのない料理が並んんでいた。
「美味しそう!!」
「そうね〜〜あっこれなんだろう?」
「こら、お行儀よくしなさい!!」
みんな珍しそうに食べ物を見る。
みんなが席に座ると、鎧を着た男が姿を見せる。
「勇者の方々、今更ながら、お礼を言わせていただく、ありがとう…そして自己紹介をさせていただきます、私はガルル騎士団、団長ガルル、我々、ガルル騎士団が勇者様の護衛兼この世界のルールや戦いを教えますのでよろしくお願い致します」
ほとんどのみんなが真剣に話を聞いていた。
すると一人の男子生徒が皆を代弁するかのように……。
「こちらこそ、このような素敵な料理をもてなしてくれてありがとうございます、あ、僕は有山祐樹と言います、これからよろしくお願いします、ガルル団長」
「ああ、よろしく、勇者祐樹、では皆、今日はたくさん楽しんでくれ」
こうして皆が食事にかぶりつく。
見たこともない料理に、感じたことのない味に皆が喜んだ。
まぁ私は少ししか食べなかったけど……。
それにみんなが楽しく食べている中、私は一人ぼっち、寂しく食べているからだ。
これに関しては仕方がないこと…これは私が高校で友達を作ってこなかった宿命だ。
「それでも……」
やっぱり、この楽しい空間だと、心にくる、なんていうのかな、この後ろめたさ。
私はある程度、お腹を満たした後、誰にも気づかれずに、部屋に戻った。
「やっぱり、一人が落ち着く〜〜」
とはいえ、どうもあのガルル団長が嫌な大人に見える。
なんていうのかな?、どくどくなあの雰囲気、私が嫌いな先生の雰囲気と似ている。
それにあの、有山祐樹という男、あいつはクラスの中心メンバー、あいつも無理……。
「早く、強くなって…一人で行動したいな〜〜」
こうして早くも、異世界1日目が終わった。
早朝、9時に私たちは外に案内された。
そして…この王国についてとスキルの詳しい内容を教えてもらった。
「よしまずここはエルキザレオン王国、国の中でも既に前線を走っている王国だ、そして戦力、特に戦いにおいては我が王国に勝る国はない」
「一つ、質問してもいいですか?」
「なんだ、勇者祐樹…」
「戦いにおいて最強なら、どうして私たちを?」
「ふむ、簡単にいうと魔王がそれほどまでに強いからだ……魔王は、この世界で最も邪悪な存在、魔物の中の頂点、だからこそ、我々は勇者が必要なのだ…わかったか?」
「はい」
「うむ、ではこれからスキルについて教えるぞ、お前達は既に気づいているかも知れないが、お前達の頭の中で浮かび上がる文字がスキルだ、より強く、念じるとスキルの能力が見えるはずだ」
皆がガルル団長に言われるがままに、スキルを確認する。
もちろん、私も試してみた。
だが、確かにスキル名【感情活性】が浮かび上がるが、詳細までは浮かび上がらなかった。
嘘なのかと思い、恐る恐る周りを確認すると皆が喜んだり、叫んだりしていた。
なるほど、わからない。
とりあえず、今は大人しくしておこうかな。
「よし、勇者の皆、スキルの確認はできたな、ではこれより基本訓練である、体力づくりと筋力づくりを始める」
こうして勇者の基礎訓練が始まった。
最初は体力づくりとして訓練場を50周した。
普通ならきついはずの50周だが、ほとんどのメンバーが余裕でクリアした。
おそらく、これは勇者の力だろう。
俺たちはいつの間にか体力が増えていたのだ。
体力づくりが終われば、次は筋力づくりだ。
主に、俺たちがいた世界と同じやり方が多かった。
そして、この筋力づくりで大分差が開き始めた。
筋力が無いものは倒れ、余裕のあるものは淡々のこなした。
「これ、きついな……」
そして私は筋力のない側だった。
今でも倒れそうだ。
「君…大丈夫?」
疲れていながらも振り絞って上を見上げるとそこには一人の男性がいた。
黒い髪に黒い瞳、まるで私たちの同じ、日本の人みたいだ。
そしてその謎の男性は自然と手を差し伸べた。
「あ、はい…」
私は平然と手を通り、立ち上がる。
「訓練は順調?」
「え、え…と」
「そうか、つらいか…」
「そんなこと言っていませんが…」
「ははは、そうだね、けど君の瞳はつらいと言っているよ?」
「そうですか…」
「つれないな〜〜」
「もう、なんなんですか、あなたは……」
「俺かい?俺は君たちと同じ日本人だよ」
「え?」
「君はいいスキルを持っていると思う、だからどうか試練を乗り越えてくれよ…勇者達、じゃあね」
「ちょっと!!」
彼はスラリと姿を消した。
「う、うそ…」
結局、あの男が何者なのかわからないまま、訓練が終わった。
食事中もあの男のことが気になって食事が進まない。
「はぁ〜〜」
しかもクラスメイトの変化が一つ、それは身体能力的格差が遠慮と過剰が剥き出しになりつつある。
簡単にいえばカーストの発生。
まぁこれに関しては仕方がないことだ。
私はすぐに自分の部屋に戻った。
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