第4話 勇者召喚当日・勇者達は導かれた
エルキザレオン王国・儀式の間にて、マックール王とその娘、エリザベスと最高位魔法士、お偉い貴族の方々、そして勇者召喚に使う生贄などが同席していた。
「おっ……」
少し周りを探索するとティアナの姿を見つける。
「よっ、ティアナ…」
「馴れ馴れしくしないでください」
「いいじゃないか、俺たちの仲だろう?」
「はぁ〜〜」
「ため息をつくことはないだろう、普通…」
「あなたに一つだけ言っておくことがあります」
「なんだよ…」
「余計なことはしないように、では…」
そのままティアナは俺のそばから離れていった。
え〜〜つれない奴。
「まぁ、いいけど…」
しばらく、飲み物を口にしながら、待っていると、マックール王が壇上に立ち、口を開いた。
「これより、勇者召喚の儀を行う…最高位魔法士、アベク…前へ」
「はっ!!」
「儀式の準備はできているな」
「はい…準備は整っております」
「うむ、では生贄を魔法陣の中に入れろ!!勇者召喚の儀を始めるぞ!!」
すると生贄となる奴隷50名が魔法陣の中に強制的に入れられる。
勇者召喚の儀を行うには生贄と神に召喚する許可を得る必要がある。
生贄は人間を50人、神の許可を得るために巫女に属するもの、もしくは王族の中の特殊スキルを持つものが神の声に耳を傾け、神の声の代弁者として宣言する。
今回、神の声を聞き、許可を得る役割を持つのがこの王国の王女、エリザベスだ。
王女エリザベスは特殊スキルを持っており、その詳細はマックール王の血族のみの秘密になっている。
まぁ、そこら辺に関してはそこまで興味はない。
俺としては勇者さえ召喚してくれれば、それでいい。
「準備、整いました!!」
「うむ…ではエリザベス…頼む」
「はい、お父様…」
エリザベス王女が魔法陣の前で祈りを捧げる。
始まるぞ、勇者召喚の儀が……。
「ここに我々を救う勇者を…我々に救いの手を…我々に強大な力を持つものを打ち倒す勇敢な者を…神々よどうか、我々に救いの手を差し伸べてほしい…我らここに生贄を捧げる」
勇者召喚の儀に必要な真言しんご、あれはエリザベスが神々に許可を得ている最中だ。
基本、神から許可を得ることができる、普通はな。
だが、今回は無断の勇者召喚、何が起こるかわからない。
「成功してくれよ…」
そして魔法陣が輝き出し、同時に天から光がさす。
天井があるはずなのに、それを無視した神々しい光、まさしく神の奇跡。
「お、おお…」
マックール王は瞳を輝かせ、声を漏らす。
急激な魔力の収集、魔法陣の中からは奴隷の苦痛の叫びが響き渡る……だがこれが意味することはただ一つ。
「来るぞ!!勇者が!!!!」
そして大きな光の柱が天井から突き抜け、魔法陣に直撃する。
すぐに光の柱は消え去り、魔法陣内には人影があり、そのままエリザベス王女は倒れる。
衝撃による煙が少しづつ晴れていく。
そこには総勢30名ほどの制服を着た勇者達がいた
そう、勇者召喚の儀は成功したのだ。
「なんだ…」
「ここは一体…」
「ここどこなのよ!!」
身勝手に召喚された勇者達は混乱し、戸惑っている様子だった。
よくある定番の場面…本当に滑稽だな。
「落ち着いてほしい…勇者達よ……」
その声に勇者達はマックール王へ顔を向ける。
そしてマックール王の言葉はよく響いた。
「今、我が国は危機に瀕している、どうか我が国を救ってほしい勇者達よ…」
ふん、心にもないことを、と俺は思ったが…勇者達の反応は……
「ふざけるな!!今すぐ、帰らせろ!!」
「うわぁぁぁ〜〜〜」
「こ、これはまさかのアニメでよくある!!異世界転移!!俺が勇者に!!ついに!!!!」
「どうして、こんなことに……」
よくある反応だ、俺も昔はあんな感じだったな。
王は戸惑いの反応を見て、さらに言葉を響かせる。
「安心してほしい!!我々が望むは魔王の討伐、どうか勇者達よ、我々人間を救ってほしい…それを成した暁には皆を元の世界にお返しすることを約束する」
その言葉を聞いた瞬間、勇者達は安心したかのように、落ち着き始める様子を見せる。
本当に、姑息いマックール王だな。
「では勇者達よ、戸惑いで心が休まらんだろう、部屋を用意した…そこでゆっくりと体を休めてほしい…我が勇敢な騎士達よ丁重にお連れしろ」
護衛の騎士が現れ、勇者達を部屋へ案内した。
これで勇者召喚は終わった。
「今回の勇者、あなたから見てどう思いますか?」
隣から歩いて話しかけてきたのはティアナだった。
「ああ〜なかなかいいんじゃないか、人数も多いし、勇者として成長するのが楽しみだよ…」
「嘘ですね…」
「おいおい、真っ向から否定かよ…」
「あなたが肯定した答えを出すときは、大体が嘘なのを私は知っていますから…で本当は?」
鋭いのか鋭くないのか、よくわからん、だがこれからティアナへの発言は気をつける事にしようかな。
「まるで昔の俺を見ているかのようでな…正直、滑稽でさぁ…本当に愚かだよな」
「仕方がありませんよ、それに…王は大概いい人はいませんから」
不思議に思っただろう?あまりのも勇者達の聞き分けのよさ…それには理由がある。
王になる者のほとんどが備えているスキル【都合主義】、これは国にとって都合がいいように解釈させるスキル。
ほとんど、勇者召喚の時にしか、発動しないスキルだが、まぁこのスキルの効力が絶大で、ほぼ洗脳に近い。
昔の俺も、スキルの影響を受けていたと思うと、鳥肌が立つ。
「本当、救えねぇよ」
「あまり口にしない方がいいと思いますよ…」
「俺だって普段はこんなこと言わないさぁ、だが…たまには口に漏らしたってばちは当たらないだろう?」
「そうですね、ですが少々…ぬるいですね」
「…ぬるい?」
「ええ、ぬるいんですよ、言葉が…もっと毒舌でいかないと…」
「え?」
俺はティアナが言っている意味がわからなかった。
するとティアナは手をこちらに振ってきた。
近づくと、耳元で………。
『王座で偉そうにしてるだけの口先野郎、自分は何もしてねぇくせに一々文句だけ偉そうに言ってきやがって、誰のおかげでこの王国が守られていると思ってるんだ、調子に乗ってんじゃねえぞ、粗チンカス野郎…』
俺は驚きのあまり、ティアナとの距離を反射的にあけてしまった。
「これがぐらい、言わないと、不完全燃焼になりますよ?…では……」
ティアナはあまり見せない笑顔を見せて、俺の横を通り過ぎていった。
「ははは…ティアナも相当、ストレスが溜まっているみたいで…」
まさかティアナがあんなことを言うなんて、キャラが濃い。
だが、それもまたティアナの良さか。
「久しぶりに背筋がヒヤッとしたな〜〜」
確かに、少し感傷的になっていたかもしれないが、同時に嬉しくもあったんだ。
英雄の卵……試練を持ってその選別をしよう。
俺は周りに聞こえないようにボソリと呟いた。
「勇者達よ、君たちはこの試練で一体、何人死んでくれるのだろうか…」
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