君の歌
IORI
忘れられなくて
君の好きな歌を口ずさんだ。燃えるような夕焼けの下、変わらないメロディーを噛み締める。ポップな曲調と切ない歌詞。僕の声に似合わなくて、我ながらに可笑しい。
どうしてこの曲が好きなのか、いつかの僕は君に野暮に問うた。キョトンとした顔をして、次いで君は悪戯に微笑んだ。
貴方みたいだから
その時の僕は、その意味が分からなかった。この曲と僕の共通点が見当たらない。けれど、悪い気はしなかった。むしろ、嬉しいと感じてしまうくらいだった。
君の綺麗な声は、怖いくらいこの曲に似合っていた。もしかして、君のために作られたのかと錯覚するくらいだ。歌う時は決まって、とても機嫌がいい時と、何か嬉しいことがあったときだった気がする。
今日は目玉焼きが上手くできた
可愛い服を買えた
とても空が綺麗だった
どれもこれも日常にありふれていることばかりで、思わずつられて僕も幸せになる。どんな小さなことも、君にとってはかけがえのないものなんだろう。
君のそばにいると、とても温かい気持ちになる。素直で、純粋で、真っ直ぐな君は、こんな僕に微笑んでくれる。正直僕は、君とは真反対の人間だ。捻くれているし、何より根暗だ。あまりに君が眩しくて、時々怖くなる。その淀みのない光は、いつか僕を掻き消してしまうのではないかと。まぁ、君に消されるのなら、それも一興だけど。
君の過ごしたたわいのない日々は、こんな僕の人生に鮮烈に彩った。君と言う存在の大きさは、計り知れないだろう。人を好きになることを、愛するということ、身に染みて感じられる。こんなにも大事に思える人ができるとは、かつての僕なら想像さえも出来なかった。
灰色だった世界に、舞い降りた天使は、僕にないものばかりを持っていて。無邪気な笑顔は、荒んだ心に愛をもたらした。綺麗な思い出ばかりで、抱きしめたら壊してしまいそう。それでも今は、力任せに引き寄せて、何も考えずに縋ってしまいたい。あの淡く愛しい思い出達に。
あの夕日は変わらず燃えていて、歩くスピードは変わらず君が隣にいる時のまま。あの歌を口ずさみながら、見慣れた景色を一人眺める。
ねぇ、君は気づいていたの?僕のくだらない嘘を。本当は知っていたことを。懸命に隠してたつもりだったのに、君の真っ直ぐな瞳は、愚かな僕を見透かしていたのだろうか。ないものねだりだと分かってる。もう時は戻らないと分かってる。でも、こんなにも会いたくて、触れたくて、恋しくて堪らないのは、君のせいだろう?
あの夕日に飲み込まれた君は、こんな僕を笑ってくれるだろうか。君の歌を歌っていれば、あの無邪気な笑顔をまた見れると信じてる。君みたいに上手く歌えないし、もう声さえでない。
嗚呼、置いていかないで。
君の歌 IORI @IORI1203
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