第14話 なるほど理解した
なるほど理解した。先ほどのとばりと同じように、開戸妹の大和言葉の意味と発音がなぜかハッキリ分かる。
後は何か得物があれば……、と車の中を見回すと、発掘用のスコップやジョレンに混じって転がっていたバールから目がはなせなくなっていた。
「こいつで十分だ」
俺はバールをひっつかんで、車から怪我人を目掛けて飛び出していく。逃げ遅れて動けなくなっている人のところに……。
「大丈夫ですか?」
駆け寄って声をかけてみると、うずくまって動けなくなっていたのは、先ほどの美人アナウンサーだった。足を怪我しているみたいで血が流れている。
回復鬼法については聞いてくるのを忘れた。先ずは安全なところまで移動してから、治療だな。
だけど、悠長にことを構えてはいられない。ドラゴンは俺たちに向かって一斉にブレスを吐いたのだ。
「とばり!!」
降りかかる炎も水も岩石も見えない壁に弾かれている。その光景を呆然と見ていた彼女だったが……、目の前で起こる奇跡に気が付いたのだろう。
「あなたは?」
「賢者から魔法使いへのジョブチェンジした中年です」
彼女の問いには適当に答えておく。そんなことより、これからできるわずかな隙を突くために全力集中だ。あのくそドラゴンたちは、ブレスを吐く時、タメができ防御が薄くなる。そこにカウンターをぶち込む。
神経を研ぎ澄ませ。そして、一瞬の静寂が生まれた。ここだ!!
「かんば、はぜぜめ!!!!(エクス・プロージョン!!!!)」
動きの止まったドラゴンに向かって火の玉が襲い爆裂した。そこに畳みかける大和言葉の呪文。
「ほむら いかずちぜめ!!!!(ボルテック・プロ―ジョン!!!!)」
ほぼ丸焦げになっているドラゴンにトドメとばかりに天から落雷が直撃した。
ドッドドーンッ!!!!!!!
ついにドラゴンが数百メートルの高さから地に落ちた。だが、まだまだ動けるようだ。あの鱗の防御を鬼法では突破できない。くそっ、こいつなら何とかなるんじゃないか。俺の中には俺の右手に握られたバールに、根拠レスな確信があるのだ。
今回の発掘で唯一残った遺物、得体のしれない金属らしいから、これはオリハルコンでできている……。そうだ名前は聖剣エクスカリバーだ。
「つわもの!!!!(身体強化) もののふ!!!!(超加速)」
俺の体から闘気が立ち上がる。それと同時に体の中心から力が湧き上がってくるのがわかる。全く物理法則を無視していやがる。俺はそう呟くと赤いドラゴンに向かって加速する。30メートルはあった距離を一気に詰め、手に持ったバールを横なぎに振りかぶる。
ガッツキン!!!! 鱗に当たったはずだが、金属同士がぶつかった音と手ごたえだ。だがそんなことには構わず、バールを振り抜いていく。曲がった先の二股になっている先端が鱗を貫いた感覚はあった。
すると、どうだろう。バールの長さはせいぜい1メートルちょい。ドラゴンのでかさから言って、せいぜい鱗を掠めとったはずが……。ゴルフのスイングよろしく赤ドラゴンの頭を引きちぎりすっ飛ばしたのだ。
そのまま、回転の勢いに任せ、近くにいた青ドラゴンの脳天にバールをぶち込み、バールごと前方宙返り。頭蓋骨ごと釘抜きよろしく引っこ抜いたのだ。さらに俺から這って逃げようとする黄色ドラゴンに向かって、バールをブーメランよろしく投げつけた。
投げつけたバールは光り輝きながら鋭く回転して、ドラゴンの首を跳ねて俺の手元に返ってきた。
な、何だよ。この得物は?! マジでエクスカリバーかよ。
そんな緊張感のないセリフが口から出たときには「もののふ・つわもの」の反動か、体中から力が抜けていく。
10年前ぐらいに憧れた剣と魔法の世界に招かれたんで興奮が冷めやらない。ただ、これが現実だということは家や車が大破して、血まみれの死体が2桁に上っているのだ。
そして、俺が殺したドラゴンがいる……。そう考えてドラゴンの方を見ると、ドラゴンの死体が粒子になって風に吹き散らかされている。何が起こってるんだ? とっさに考えたのは,遺物を残さなきゃということだ。(こんなところで商売根性が……)
「のわけはぜ!!(トルネード・ブロージョン)」」
開戸妹から聞いた五つ目の大和言葉だ。
吹き散らかす風に相対するつむじ風がドラゴンの周りに吹き荒れる。そうして、花びらが舞うようにドラゴンの鱗がキラキラと舞い、数枚の鱗のみが破壊された大地に舞い落ちていた。
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