第15話 この惨劇の元凶が消えた後
この惨劇の元凶が消えた後、耳に触るのがパトカーのサイレン音だ。十数台の赤色灯が疲れでかすむ目に突き刺さる。武装した警察官がパトカーから飛び出してきて、状況を確認しようと、生存者の元に走ってくる。
俺は……、面倒なことはごめんだ。
みんなの待っているハイエースの方にふらつきながらたどり着いた。運転席に座った俺の目にあわただしく動き回っている人たちが目に入る。特に中継車の周りに人が集まっている。さっき俺が立っていたすぐ近くで尻餅をついて動けなくなっている美人アナウンサーも警察官と消防隊員が取り囲んでいる。
(もう、大丈夫)そう考えて俺は後ろを振り返りゼミの全員に確認をとる。
「撤収だ!」
俺の言葉にコクコクと頷く面々。全員、煩わしいことはごめんだと顔に書いてある。俺も頷くとセルを回す。
ブロロローッ!!
エンジンが掛かった。よし動く。運転に邪魔になるひび割れたフロントガラスをバールで粉々にして、視界を確保。
動き出した車を見て、慌てて警察官が赤橙を振りながら走ってくるが、別に悪いことをしているわけじゃない。俺たちを止めたいんなら令状を持ってこいとばかりに、そのまま、工事現場から道路へとバリケードを蹴散らし大学の方に向かう。
「せんせぇ~さっきのってなんなん?」
「ツッコミどころ満載でどこから突っ込んだらええのかわからん」
根戸、いつもの「知らんけど」が無いぞ。吹戸、別にボケたわけじゃないぞ。と関西なまりの会話から始まった車内。まったく、こんな時でも物怖じなく話せる関西人の性格には救われる。
「根戸、俺にもよくわからん。自分でも確信があってあんな行動に出たわけじゃない。思い当たることがあって、腑に落ちたというか……。やっぱり、先ずは瀬戸さんがエンキドゥの骨から読み取った残留思念から聞きたいな」
「そうですね。さっきはあんな状態だったので断片的なことしか話せなかったので」
「で、先ずはあの魔法の原理だけど……」
「そうですね。あれは魔法ではなく鬼法と云って、自然を支配する力です。原子と原子の間は原子の大きさと比較してかなり広く開いています。まだ、この世界では発見されていませんが、実はこのスカスカの隙間は暗黒粒子という粒子で満たされているんです。その暗黒粒子は大和言葉に感応して原子を活性化し事象を変化させることができるらしいのです。要は森羅万象を思い通りに動かせるということですね」
「そういう思想って昔からあるよね。言霊信仰ってやつでしょ」
開戸妹の言葉に俺もうなずく。
「昔からそういう事実に気が付いていた人がいるということだ。まあ、神が天地創造した時に仕込んだ管理システムだろうな」
「だけど、それを実行できるシステム管理者はアヌンナキとアヌンナキの遺伝子を引き継いだシュメールの王族の長子だけだと見せられたわ。しかも、伝授されるのは先代が死を予感した時のみ。なぜ先生がその鬼法を使えるのか分からない」
「シンプルに考えようぜ。俺がシュメールの王族の末裔ってことなんだろ?」
「はっ、ありえん!!」
「いや、開戸兄、高貴さが漂ってるだろう」
俺と開戸兄の掛け合いは瀬戸にすっかり無視されて話が進む。
「でも、私が読み取った情報だと、神(アヌンナキ)に反逆できないように遺伝子を引き継いだ王は25歳までに死ぬ呪い(遺伝子操作)が施されているって、先生って30歳だよね」
「おう、確かにうちの家系の直系はみんな早死にだな。墓参りに行って驚いたことがある。親父も爺さんも若い時にいきなり心臓が止まってるしな。まるで時計の針が止まるように突然だった。だが俺は根性で生き延びたな!!」
「根性で死の呪い(遺伝子操作)から逃れられたら苦労せえへん」
吹戸がツッコミを入れたけど、本当に怒っているみたいに声を荒げたため、みんな黙り込んでしまった。俺自身が親からそんな一子相伝の力の説明を受けていればよかったんだろうけど、そうじゃない。それらしい最後のピースが揃わなくてイライラしているのは俺も一緒だ。
思い切って口を開いたのはエンキドゥの骨から残留思念を読み取った瀬戸だ。
「でも、私の見せられた光景って、さっき先生に見せられた景色とそっくりだった。どうやら、エンキドゥはアヌンナキにマーキングされていたみたい。そのマーキングって頭の中の考えさえトレースするもので、エンキドゥの思考を読んでドラゴンが召喚され攻撃を開始したみたいね」
「なるほど、瀕死のエンキドゥも海岸に流れ着いた時点じゃ死んでいなかったんだ。当時も、今日みたいに竹節から現れたドラゴンに攻撃されたんだ」
「そうなの、絶体絶命のタイミングで魔法に覚醒したのが王妃に抱かれたギルガメッシュ王子だった。最後にとどめを刺したのは、王子が回復鬼法と身体強化を掛けたおかげでエンキドゥはドラゴンを倒すことができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます