第13話 出てきたトカゲは赤、青、土色3体

 出てきたトカゲは赤、青、土色3体、それがグングン大きくなっていく。大体体長5メートルぐらいの大きさになる。そいつらが空気を震わす大音響の鳴き声を発する。

「ドラゴンだ!!」

 誰かが叫んだ。それを合図に周りの人たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。ただし、開戸妹と根戸は足がすくんで逃げ遅れた。俺たちは二人を抱えて環状列石から逃れようとしたが、それに狙いを定めたように、赤いドラゴンは巨大な顎(あぎと)を開き、タメを作り……、次の瞬間、炎を吐いた。

「$&%“=&!~……」

 気が動転した開戸妹は、何度も同じことを呟いている。

 開戸妹はさっきから何を呟いているんだ。「と、ば、り」そうか「とばり!!」か。

 目の前に炎が迫る。チリヂリと肌を焼く熱を感じて、せめて生徒たちだけでも守ろうとして、開戸妹を抱きかかえて……。その時、俺は「とばり!!」と大声で叫んでいた。

 俺の周りの空気が俺の意志に感化されたように従う。そして俺たちに向かっていた炎は、目に見えない壁にぶつかったように俺たちを避けて周りの遺跡を火の海にした。

 訳が分からないけど、こんな偶然は千載一遇のチャンス。まだ腰の抜けている開戸妹や根戸を引っ張って環状列石のエリアから逃げ出し、瀬戸がいるハイエースに転がり込んだのだ。

 そして気がついたのだが、5人の手の甲に鱗の紋章が浮かび上がり、俺が展開したとばりに呼応しているように、深く刻まれ光を発している。

 三匹のドラゴンは旋回しながら、地上の様子をうかがっている。そして、赤いドラゴンは火を吹き遺跡を灰に変える。地面が溶けるほどの高温。そこに青いドラゴンが水を吐く。熱せられた地面に水が吹き付けられ水蒸気爆発が起こり、乗り込んだハイエースが大きく揺れ、フロントガラスが吹き飛んだ。

 俺は再び、「とばり!!」と唱えたのだ。

 見えない壁が向かってくるガラスや熱を吹き飛ばす。さらにこの見えない壁は広がって周りの人や車を守るようになった。やはり、とばりは紋章と呼応している。

だが、せっかく発掘した貴重な資料もすべて粉々で、残ったのは車に積んでいたこのバールだけだ。

 そんなこちらの都合などお構いなしに、今度は黄色のドラゴンが顎から土の塊を吐き出す。その塊は地面に衝突し巨大なクレーターと衝撃波を生み出した。四方50メートル以上が陥没し、恵山発掘現場は完全に崩壊した。しかし、そんな衝撃波も俺の壁に吸収されたのだ。

 いったい何が起こっているのか? 彼女らの特別な力が働いているみたいなんだけど……。

「とばりって何を意味するんだ?」

 俺の問いに、興奮したように根戸が答える。


「こ、これって魔法だよね!! 嘘ちゃうん。先生って三〇歳まで童貞やったから魔法使いになれたんやろ、やろ!! 知らんけど!!」

「不遇の賢者から都市伝説の魔法使いに……」

 こら、開戸兄、何わけの分からんことを!! 魔法の原因ってお前らだろうが!!

「そうじゃないです」

 誰だ? 後ろの座席から声が聞こえた。振り返るとさっき倒れた瀬戸だ。一番後ろの座席に寝かされていたのか。

「瀬戸さん。気が付いたか?」

「うん、さっきの衝撃でね。それで、この力はとばりに秘められた力です。大和言葉で境界に垂らして内と外を分ける結界の力です」

「いや、そういわれても、言葉を発するだけで?」

「発する言葉は大和言葉でないとだめみたいです。これはサイコメトリーで得た情報です。エンギドゥさんが守っていた王族の子ギルガメッシュがここに流れ着いた時、追っ手に対して初めて使った御力(みちから)です。

 大和言葉には、この時代ではまだ発見されていない量子と量子の間にある暗黒粒子の力を借りて、言葉通りの現象を起こすことができるみたいなんです。この力は鬼法と言われ、ウル王国の王族だけ伝わる一子相伝の技だということなんですが……。なんで先生が使えるんです?」

「そんなこと知るか?! そんなことより、先ずはあの3匹の龍を何とかしないと」

 それだけだけじゃ紋章の説明は付かないと俺は思ったけど、生き残ることが最優先と思考を切り替えた。

 誰かが通報したのか、パトカーや救急車がサイレンを鳴らしながら近づいてきた。しかし、警察官の拳銃はあのドラゴン相手は全く歯が立たない。あの鱗の防御力は強力で、ブレスが直撃した3台のパトカーは壊滅状態になっている。血まみれでピクリとも動かない人が転がっているのに、救急隊員も近づけない。手遅れになる前に、何とかしなければ!!

「開戸妹、体が強くなる大和言葉は? それに、あのドラゴンたちのブレスと同じような力は大和言葉ではなんて言えばいいんだ?!」 

 今気が付いたけど、開戸妹は俺の手を無意識に握ったままだった。だから、その手を握り返してみた。それでやっと我に返ってきた開戸妹。やっと目に力が戻ってきたのだ。

 ただそれは怒りの目で、俺が手を握っているのが気にくわない様子。しかしそんなことを気にしている場合ではない。

 俺は異世界物で定番の魔法吟唱について大和言葉ならどう発音するか尋ねたのだ。

 力強く睨み返した目で、唱えた言葉は5つ。

「%#$&%“=&*?<%>」


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