第12話 貴重な資料が掘り出された

 貴重な資料が掘り出されたこともあり、環状列石の墓も急ピッチで発掘が進んでいる。いまや、土曜日だけでなく、ゼミの時間はもちろん、空き時間さえ現場で掘っている状況だ。

 そのおかげでエンキドゥの墓はほとんど発掘が終わっている。方舟の床板と思われる物体と人骨については、炭素年代測定の結果が返ってきて、間違いなく四〇〇〇年前のものだというお墨付きが出た。

 残念なのは、床板を船体に止めていたと思われる金属は、アルミ合金のジェラルミンだというのは分かったんだが、金属では炭素年代測定ができないため、四〇〇〇年前のものだとは証明できなかった。

 それよりも、エンキドゥの骨の周りにジェラルミンの破片が数では13枚、最大の物は背後から胸に刺さっていた35センチ×3センチの大きさのやつだった。こいつが致命傷の一撃を加えたんだろう。

 ジェラルミンのひしゃげ具合は、発掘とは直接関係ないが、以前に戦場の発掘現場で見た甲板に爆弾が落ちて吹き飛ばされた鉄板のひしゃげ方にそっくりだった。

石板の通り、このエンキドゥはニンスン王妃を庇って自らが飛び散る破片の盾になったのだろう。爆弾に吹っ飛ばされた船体の破片を全身に受け、絶命したのだろう。ということは、船体はジェラルミンでできていた潜水艦で、魚雷のようなものを受けて大破したって……。今の科学技術と遜色がない?!

 今の科学でも理解できないものが、このエンキドゥのそばから発掘されたバールに似たものだ。

 バールってあのアニメの邪神少女が武器に使っていた釘抜きのでかいやつだ。ゼミのみんなは、なぜか心底、畏れ慄いているのだが、誰一人見たことも使い道についても知らなかったし、知ることができなかった。ただ神聖なものという認識だけは共通していた。

 伝手を頼って非公式で調査してもらったところ未知の金属?でできているらしくて、口止めするのが大変だったぐらいだ。結局、このバールに似たものだけは俺の手元にあり、発表を控える予定だ。

 後は土器や土偶だが、こちらは時代に合ったものが大半だ。神聖な場所に埋められた土偶らしく、呪術を施されており足や手の一部が破壊されていることが多かった。これは悪い体の部分を土偶に写し、その部分を破壊することで、病気が治るという信仰なのだ。


 今日はそれらの物を元々あった場所に戻している。発掘現場の写真を撮って記録に残し、報告書を作成するためだ。しかも、この恵山遺跡の発掘調査の概要の発表を行うため、マスコミ各社も取材に来る予定だ。

 そこで気が付いたんだが、発掘現場の端に竹が一本生えているのだ。それもかなり大きい直径20センチはありそうだ。

 あんな竹あそこにあったけ? 少し気になったが時間も押している。

 なにせ、取材の前に嫌がる瀬戸にエンキドゥの骨に触って残留思念を読み取らせようとしているのだ。……情報は多岐にわたった方が良いからね。

「先生、本当にやるんですか?」

「ああっ、お願いだ。近衛だったわけだから色々と知ってるはずだ。当時のもっと細かい状況が知りたいんだ。お願いします」

 俺はみんなの見ている前で瀬戸に向かって土下座をした。

 俺の熱意が伝わったのか、しぶしぶ瀬戸は頭蓋骨に手を伸ばす。

 そうして、しばらく目をつむり胸を押さえていたが、突然、呼吸を乱し、大声で叫んだのだ。

「ギルガメッシュ王子、我に鬼法を!!」

 そういうと、瀬戸は気を失ってしまった。どうやら、エンキドゥの死の瞬間をトレースしたみたいで、死を疑似体験したようなのだ。後30分ほどで取材も始まるし、中継車もやってきたようだし、この調子だと取材には間に合わない。

 俺は瀬戸からの情報を諦めて、無理に起こさず、車の中で休ませるようにみんなに指示をだした。根戸や吹戸などはあからさまに残念そうだったけど……。心配するな。お前らの出番はちゃんと作ってやる。


 テレビカメラの前に俺たちは整列をして、その横にはアナウンサーがスタンバイする。あとレフ版を持っていたり、収音マイクを掲げているスタッフがいたり、なかなか、中継っていうのは大変みたいだ。

 この放送は全国に流されるんだ。無名の俺がいきなり全国区デビュー。運の要素が大きいだけに、恵山遺跡の発掘調査を受けてよかった。

 そんな風に感無量になっていたところに、根戸の素っ頓狂の声が響き渡る。

「あれ、なんなん?!」

 そう云って、発掘現場の端を指さした。その指し示す先には……、先ほどの竹の節々が光輝いている。赤、青、黄色って信号か!?

「放電(プラズマ)現象か?」

「植物でも?」

 そんな声が上がる中、メキメキと竹が膨れ上がると、竹がバキンと爆音とともに弾け、そこからコウモリの翼を持ったトカゲが空に向かって飛び出したのだ。

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