第10話 座卓を挟んで、男3人女3人と

 座卓を挟んで、男3人女3人ときれいに席が分かれる。無難な席順なんだろうけど、なんかコンパみたいな感じでこの年になっても緊張する。女の人と飲み会などいつ以来だろうか? うまく話題についていけるかさえ怪しい。

 そんな心配も、MCよろしく吹戸が音頭を取り、俺に乾杯の挨拶をするころには、緊張もほぐれてきた。

「今日は形代ゼミ始まって以来の快挙に恵まれた。これも今年度に形代ゼミを選択してくれたみんなのおかげだ。君たちを歓迎し、歓迎会を催したので、今日はぶっ倒れるまで飲んでくれ、乾杯!!」

「「「「乾杯!!」」」」

グラスを派手に合わせて、パラパラと鳴る拍手。

 そして、思い思いの話をしながら杯は進む。話す内容は函館五稜郭大に来てからのことや、それぞれの高校時代の話が多い。なんとこの五人は顔だけは知っていたけど、ゼミが一緒になって、初めて話をしたというのだ。

「お前ら、俺のゼミに加入することを相談して決めたわけでもないんだ? それにしたら今日の出来事はあまりにも出来すぎていると思う。瀬戸、開戸、それに根戸。君らの能力もおかしいだろ? なんだよ、その発掘チートは?」

 ジョッキの中身を一気に空けると、俺はストレートに疑問をぶつけた。それに答えるように瀬戸が答える。

「大学を決めるときに、実は夢の中で金色の龍が出てきて勧められた。函館に来れば、亡くした記憶が蘇るって」

「嘘ちゃうん。うちも。あれは絵とかで見る金龍に間違いないねん」

「マジか~、ワイもや。一回だけやなしに何回もや。実家からは遠いけど、無視でけへん感じやったなぁ~」

「私たちも同じ、たぶん、神隠しに遭った時に何か大事なことを託された気がするんやけど、それが何かわかんないから、すごく夢が気になったんです。手の甲の鱗の印も疼いたし」

 開戸妹の横で兄も首を何度も縦に振っている。

 瀬戸を皮切りに全員が話した大学の志望動機は、夢で金龍に進められたからだという。また、その時に手の甲の紋様も疼いたらしい。

「子供の時の神隠しといい、手の甲の紋様といい、すげぇ~偶然だな。お前たちってこの函館に縁でもあったわけ?」

 ここまで偶然が重なると何か因縁めいた話でも出てきそうだけど……。俺の問いに対して全員がかぶりを振るのだ。

「うちは兵庫の六甲出身。函館にはそれまで来たこともなければ、親戚中探しても縁もゆかりもあれへん」

「ワイもそうやなぁ~。生粋の奈良県民で、函館の大学に行くゆうたら裏切りもん扱いや。関西人は出ていくもんに冷たいからな」

「私たちも、実家は仙台だけど、函館は話で出るくらい」

「五稜郭と函館山からの夜景だけ、青葉城に日本三景の美保の松原、歴史が違う」

 開戸兄、大学進学は別にご当地自慢じゃないから。

「私は小さい頃に住んでたけど、瀬戸神社で神隠しにあって、ここに近づくのは怖かったです。でも……、夢を見てから、その時自分に起こったことを知りたい気持ちの方が強くなったの!!」

 最後になった瀬戸の言葉にみんな頷く。神隠しと記憶喪失の謎、そして刻まれた鱗の紋様。なるほど、みんなこの謎から逃れられず、この北の大地にやってきたということか。

「なんてくだらんことに取りつかれてるんだ? そんな10年前のことなんて今の生活には関係ないだろ。逆に思い出すことで背負うこともある。知らなければよかったと後悔することもある……」

「せんせぇ~、深こう考えたらあかん。わいと同じ思いでここに来た人がいるだけで勇気をもらえたわ」

「うちも一緒や、あの神隠しの時に授かった力はこの時のためやったんや。納得いったでぇ~」

 俺が尋ねようとしたことを根戸が答えてくれた。俺の睨んだ通り、こいつらのチート能力は……。

「もしかして、瀬戸さんや開戸さんの力も行方不明になったときに手に入れたのか?」

 もはや遠慮はしない。酔いに任せて核心にせまった。それに対して瀬戸さんも開戸妹も躊躇なく答えてくれた。隠す気はないみたいだ。

「はい、私の場合は、手の甲が疼くと能力が発現するんですけど、私のサイコメトリーは水に残された残留思念を読むみたいで、水に関係がないと役に立たなくて……」

「なるほど、瀬戸さんが今日、サイコメトリーした板切れは王妃様を乗せて海を漂っていたからこそ、王妃様の残留思念がトレースできたわけか」

「私は盛岡の裏早秋津神社で見つけられた。そして、我に返ったときに目に入ったのが、奥の院のご神体って言われている岩に掘られているクサビ型文字で……、手の甲の紋様が疼くと、書かれている内容が頭の中に流れ込んできて理解できるようになったの」

「なるほど、いきなりクサビ型文字が読めるようになったんだ。一緒に神隠しにあった開戸兄にも何か力が宿ったのか?」

「ぐっ……、軍歌が歌えるようになった……」

「――?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る