第7話 「お前ら、慎重にな!」

「お前ら、慎重にな!」

「先生、こりゃ何だよ?」

「結論を急ぐなって。先ずは全体を掘り起こしてからだ!」

 そんな、慌てた雰囲気に、やや離れた場所にいた女子たちや学芸員たちもやってきた。

「うちのゆうたとおりやろ!」

根戸が自慢げに言って、ワイワイ言いながら掘り出したものは……。

「テーブル?」

「いや、この時代にテーブルで食べる習慣は無い。この場所は環状列石と環状木柱列が同時に存在している場所だから……。きっと、木柱の一部だと考えられる」


 そう言葉にしながら、出てきたのは縦30センチ横180センチ厚さ5センチの漆ぬりの板、そして4つの角のうち三つは無理やり力が加えられて吹き飛んでいる……、そして残った一つにはどこかに固定していたような金属のボルトがねじ込まれているのをみて唖然とする俺たち。

 木に穴を開け、もう一つの木をその穴の大きさに削り、はめ込むいわゆる軸組工法なら縄文時代のあちこちの遺跡で発見され、この工法によって三階建てのやぐらも建てられると想像されるようになったのが縄文中期のはずだ。それがいきなりボルト工法だと……。

「これは環状木柱をコンクリートか何かの土台に固定していたんですかね?」

 表情を引きつらせ、俺に判断を仰ぐ学芸員。いや、俺もどう答えたら……。

「いや、さすがにそれはないでしょう。大体、コンクリートがあったかどうか? でも、この時代にはもうアスファルトがあって接着剤代わりに使われていたし……」

 少し冷静さを取り戻した俺は、さらにある事実に気が付いた。

もし、これがどこかに固定されていたとしたら、建物の基礎部分に固定された柱?いやこの形状なら床材か? だったら高床式倉庫の床なら土台に固定されていたというのも納得できる……。そんなふうに仮説を構築していく。

「これは、高床式の床……」

「先生、違うよ~!!」

 ここに戻ってきて、他の生徒と同じように発掘されたものを触っていた瀬戸が驚いたように声を上げた。

「なんだ。瀬戸さん? 何かわかったのか? あーっ、軍手を外して素手でさわっちゃだめだ」

「触っちゃダメだったんだ。ごめんなさい。でも、直接触らないと分からないから……」

「何がわかるって云うんだ?」

「静かに!! もう少しだから!!」

 鋭く叫んだ瀬戸は、いわゆる床板状のものを左手で撫でるように移ろわせ、右手は胸の部分の服を掴んで、眉間にしわを寄せる。まるで閉じた瞳は悪夢を見ているようで、顔色がどんどん悪くなるし、あごから汗が滴っている。まるでイタコの口寄せだ。

 移ろっている左手の甲には同心円状の鱗のような文様が……?

 そんな状態の彼女が口を開いた。

「この木片は、方舟?の床板ね。女の人が、最愛の人が怪物?に目の前で殺されて、恐怖と無念さに駆られながらも、その人に託された希望の大地に向かって出発した。

 だけど……、希望の大地に着く寸前、絶望が襲った。方舟は爆撃されて撃沈された。船外に放り出されて死に物狂いでこの板にしがみついて……、気が付いたらこの浜に打ち上げられていた」

「瀬戸さん、何を言っているんだ? いやそんなことよりその手の甲は?!」

「この木片に残された記憶はここまでね。えっと、驚かせてごめんなさい」

やっと目を開いた瀬戸は、相当顔色が悪い。まさかとは思うが、瀬戸はサイコメトラーだったりして? この板に残った女性の記憶を読み取ったのか?

 もし、事実だとしたら……、最愛の人を目の前で殺されたのを追体験して、かなり精神的に参っているだろうが……、それでも羨ましい過ぎる!! 考古学者から見てチートだろう。でも、さすがに方舟っていうのはなんだ? 時代的に地層どおり四〇〇〇年前で合っているのか?

 混乱する俺に向かって、自慢げに手の甲に浮かび上がった鱗型の紋章をみせながら根戸が言った。そのあざ?は瀬戸と同じか? 共通の紋章の示す意味は?

「なっ、先生、うちの勘、当たったやろ!」

 その言葉に我に返った俺。そうだよ。まだ、怪しげなところが2か所もあるんだ。もし、瀬戸の言ったことが事実なら、それを証拠づけるなにかが出てくるかも?!

「吹戸、開戸、そこのところを掘れ!!」

 俺がそう声を掛けた時には、二人は目の色を変えて掘っていた。

「「何かある!!」

 二人から同時に声が上がった。俺はまず吹戸のところに行った。

 慎重に土を取り除いていくと、これは骨のようだ。しかも、経験からして人骨っぽい。さすがに四〇〇〇年前の骨だとグロさはないが、発掘初心者にはキツイかも? 俺は学芸員を呼んで続きを掘るようにお願いした。

 やはりここは墓だ。開戸の掘っている場所も期待できる。スコップの先に何か固いものがあたったようだ。

珍しい装飾品か、はたまた正規の大発見、水晶の遮光器土偶のようなオーパーツだと最高なんだけど! そんなことを考えながら、今度は開戸兄の方に行く。

 俺より先に来ていた開戸妹は、興味深そうに刷毛で、表面の土が取り除き……。

――手元を見ようと俯くと、大きく開いたジャージの首元から覗く下着と胸の大きさに目が行く。ロリのくせに……、俯(うつむ)きがちな姿勢の女性の胸元は無防備で目の毒だ。そんな誘惑に打ち勝って、埋蔵物のほうに目を向ける。


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