第6話 瀬戸、この辺の神社っていうことは、函館神社か

「瀬戸、この辺の神社っていうことは、函館神社か?」

「いいえ、瀬戸神社なんです。恵山の中腹にある古い社の神社なんです。当時も子供の足じゃ無理だろうって……。誰かに連れてこられたんだろうって言われています。でも、全然覚えていなくて」

「それって、うちとも似てるわ。うちも険しい山中の神社で……」

 根戸の話に聞いていたみんなも頷く。しかし、二一世紀のこの時代に神隠しなんてあるか? じゃあ誘拐? 何のために? いたずら目的? 男もいるのに……、大体、開戸のところは二人同時にだぞ。それこそ目立つだろ。

「なあ、開戸兄妹、誰かお前らが誘拐されたところを見ていなかったのか?」

「えーっとね。私たちがいなくなったのは小学校の教室、ちょうどお昼ごろ、給食で席にいないってみんなが気付いたんだけど……、大さわぎで探したけど見つからなくて……。出入口にある防犯カメラにも怪しい人はもちろん私たちの出入りだって映っていなかったって……」

「うちも一緒や、小学校でいなくなったって、とても誰かの目を掻い潜って抜け出せるような状況やなかったって」

 開戸ミヒロの話に根戸ルリも同じだったと発言する。

 この二人に同調するようにみんなが話し出して、不思議体験自慢が車内で始まったんだけど……。

 更なる五人の共通点が……。この五人が発見された時には、左の手の甲に黄金色の蛇の鱗のような紋章が浮かび上がっていたそうだ? 

まあ、無事に見つかったことに話題が集中して、誰にも気付かれず、いつの間にか消えていたので、すっかり忘れていたらしいのだが……。

 5人が神隠しのあった神社の場所を聞いてみたら、瀬戸が函館、そして、開戸兄妹が盛岡と仙台、二人は別々のところで見つかったというのだ。そして、吹戸が奈良で根戸が兵庫の神社だという。

 彼女らが当時通っていた小学校から、距離にして10キロから100キロまで、小学生が一人で移動できる距離じゃないし、想像を絶するネタ話に時間も忘れて、ああじゃないこうじゃないと盛り上がっているうちに、恵山発掘現場に到着した。

 道具を持って車から降りる。ここからは仕事だ。さっきまでの話は置いといて、頭の中を切り替える。そうは言っても中々切り替わらないんだけど……。


すでに作業を始めている人もいる。近頃は地域活性化のイベントの一つとして、観光客に発掘作業をさせたり、見学させたりしているのだ。もっとも、そこはすでに手が入っていて土器の欠片の一部なんかが地表表面に出ているところで、それを観光客に掘らせているわけだ。

俺はそこで指導している市役所の人に挨拶をして、ロープで人止めをしている奥の場所に生徒の五人を連れていく。その場所は、遺構のところまでユンボで掘っていて、ここからは、ジョレンやクワで慎重に掘り進めていくのだ。

 新たな場所は、観光客が掘っている縄文時代の村の集落部分やゴミ捨て場と違って、さらに集落の奥、集落全体が見渡せる小高い丘だ。発見された場所は石を環状列石に並べているだけじゃなく、木の柱を円状に立てた環状木柱列の後と思われる柱を埋めた後がある場所だ。最近発見された三内丸山遺跡以上の規模の環状列石で期待が膨らむところだが……。身分の高い人物が埋葬されたと思える状態なのに、今のところ、これと言った遺物がでていない。

 縄文人は身分の差が無い平等な社会だと言われていたが、最近の研究では、明らかに身分の差があったと考えるようになった。

それに海洋文化を持って、他国との貿易をおこなったりしていたことも分かってきた。こういった文化交流の中で、生まれながらの身分制度が起こったのだと俺は推測しているわけだ。そういった証拠がお墓から出てこないかと期待しているんだけどな。

 そこで、開戸と吹戸に遺構に沿って掘り進めるように指示をだした。


 ジョレンを持って地面を削る男たちは、一時間と持たず作業の飽きたようだし、女性諸君はすでに、さっきの観光客用の発掘現場で地面から顔を覗かせている土器の破片を掘り出しているようだ。

 まあ、あっちに行ってしまう前に、根戸が手の甲を気にしながら「そうやね。うちの勘だと、こことそこ、あとはあそこも」といいながら、スコップで円を描いていった。

 全く、何を考えているのやら、勘で発掘できるのなら苦労はしない。まあ、今日は発掘に慣れるのが目的だ。思い思いに作業になじんでくれたらいい。そう考えながら、根戸の印をつけたところの堆積土を除去していく。

 開戸と吹戸も同じように、印のつけられたところを申し訳程度に掘っている。

 すでに、畝という基準面から2メートルは掘り進んでいるのだが……。他の遺跡でも、埋葬のために2メートルぐらいは掘られたようなので、何かが出てくるとしたらそろそろだ。

 そんな集中とも虚無ともとれる感情を押し殺した時間を単調な作業で過ごす。気が付けば太陽もだいぶ西に傾いている。

 そこで、ジョレンの先が何か固いものに当たった。

 また小石か? そんなことを考えながら、しゃがみこみ、ポケットからスコップを取り出し、手ごたえを感じたところの土を削っていく。

 木切れ? しかも板状に加工されている?! 埋まっている状態に合わせてスコップで土を削っていく。今の状態じゃ何なのか分からないが、かなりの大物だ。

「吹戸! 開戸! ちょっとこい!何かある」

「えっ、何か出たん?」「どうせ、土器の破片だろ?! 大袈裟すぎ」

俺の呼びかけに、吹戸と開戸が俺の周りに寄ってきた。そして、俺がスコップで削り出した板切れを見て驚いている。

「どうだ。長さ1メートル以上、厚みは5センチはある。まだ、地面から10センチほどしか出ていないけど、板状に加工されていて、漆のような防腐剤が塗られている。今まで発見された櫛やかんざしなんてレベルじゃないぜ」

 俺の興奮が二人に伝染したみたいだ。俺の真似をして、ジョレンでその板の周りを掘り出した。

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