息吹
何気ない日々が続く。
私からしたら結局ほぼいつもと変わらない。
生徒達はうじゃうじゃ。
話し声は男子らは馬鹿のように煩く、
女子らは有り得ないくらいこそこそと。
また逆も然り、静かな男子がいれば
煩い女子もいる。
そう、煩い女子も。
今私の目の前にいるこいつは
煩いという分類で間違い無いだろう。
花奏「な、聞いてた?」
歩「いいや何にも。」
花奏「なーんでやひどーい。」
頬を膨らませているのが視界の端に映るも、
結局は正面を向いて目を合わせた。
小津町は休み時間は特に暇なのだろうか。
時折小津町の過ごすクラス内に
友達がいるのか心配になるが、
教室の前を通った時は
大抵誰かと話しているものだから
どうやら友達はいるようで安心した。
こちらの教室は今年受験で
ぴりぴりしつつあるけれど、
彼女はあまりそう感じていないのか
場違いとさえ感じる雰囲気を纏っている。
それくらいいい意味で気の抜けた存在だった。
花奏「だから、今週末予定空いてるかってこと。」
歩「空いてない。バイト。」
花奏「嘘つけい。バイトないやろ?」
歩「やば、ばれた。」
花奏「もう受験前やしシフト入れるのはやめてるってこの前言ってたで。」
歩「小津町が覚えてるなんて。」
花奏「馬鹿にしすぎや。」
歩「ま、バイトはないけど実家に帰んの。」
頬杖をつきながら窓の外を眺める。
幸いにもまた窓側の席に
座ることができたのだ。
前回は真ん中の方で居心地は最悪だった。
やはり教室の席は隅っこに限る。
特に窓側。
ここは私の特等席。
窓側は1番変化があって面白い。
鳥は飛ぶし車は通る、雲だって過る。
廊下側もいいはいいけれど
窓側には劣るものがある。
ほら、今だって子供連れのお母さんが
歩いているのが見える。
今日保育園とかはなかったんだろうか。
子供はもうしゃかしゃかの
上着を着込んでいる。
上着を着る着ないで一悶着あったんだろうか。
なんて想像するのが何となく好きで。
花奏「そうなん?」
歩「そ。誕生日がどうとかで収集されんの。」
花奏「ご家族の誰かが誕生日なん?」
歩「あー、私がね。」
花奏「えっ!?」
歩「え?」
花奏「歩、誕生日なん!」
歩「そ。」
花奏「いついつ?」
歩「そう言われると教えたくなくなるよね。」
花奏「教えてください。」
歩「きもいからやめて。」
花奏「私は6月28日。」
歩「あ、そう。過ぎてんだ。」
花奏「私は教えたから交換条件、教えてや。」
歩「は?あんた詐欺師にあってるよ。」
花奏「嬉しないなぁ。」
歩「15日。」
花奏「15?」
歩「ん。」
花奏「よし、覚えとくな!」
にこにこと笑いながら
掌に何度も繰り返し書いている様子。
頭がいいんだか悪いんだか。
馬鹿と天才は紙一重とは
このことも含まれるんだろうとよぎる。
花奏「あ、そうや。」
歩「…何?」
花奏「そんなー、威圧せんでやー。」
歩「してない。これデフォ。」
花奏「そうやったわ。」
歩「はっ倒すぞ。」
花奏「あはは、ごめんて。」
歩「んで、何だったの?」
花奏「あー、そうそう。あんな、梨菜の様子が変なんよ。」
歩「…嶋原?」
花奏「そうや。」
急に声のトーンさえ落とし、
表情が硬くなるものだから
あまりにも不気味すぎる空気が
辺りを漂い始める。
とはいえど教室内は未だにさっきと変わらず
わいわいと喧騒に塗れていて
どうやら楽しそうだけれど。
嶋原の様子がおかしい。
こいつの放ったその言葉の意味は
妙に分かってしまっていた。
言いたいことはわかる。
最近私は会ってはいないが
Twitterの内容がどこか違和感を感じたり
関連しているのか
遊留の浮上が少なくなっていたりしている。
去年のTwitterの呟き数とかを見るに
元よりそんなに浮上するそうでは
なかったんだろうけれど、
この不可解な出来事に巻き込まれて以降は
割と高い頻度で動いていた気がする。
歩「最近会ってんの?」
花奏「いいや。先週あたりに電話したくらいやな。」
歩「あー、なんかそんな事もしてたらしいね。」
秋晴れが故、日差しが不意に膝を照らす。
多少陽が強いのでカーテン閉めた方が
居心地いいかもしれない。
なんて考えているとからからと
目の前が暗くなってゆく。
歩「は?」
花奏「え?あ、開けといた方がよかった?」
カーテンを閉めようとしたところ
先にこいつが手を伸ばして
私に日影を与えてくれていた。
歩「いや、別に。」
花奏「眩しかってん。それに歩も眩しそうな顔してたしな。」
歩「顔見るなきもすぎ。」
花奏「あー傷ついた。」
歩「はいはい、言ってろ。」
小津町はカーテンを隅まで閉め切って
再度私に正面から向かう。
何故なのかは知らないが、
小津町は絶対横から話しかけてこない。
学校且つ私が席に座っているときは
必ずそうしてくるのだ。
流石に廊下とかだと後ろから声かけられたり
隣からだったりはするけれど。
何故だろうか。
いつも正面から向かってくる。
花奏「んで話戻すで。梨菜の事なんやけど。」
歩「変なんでしょ。」
花奏「そう。そこで何か手助け出来ひんかなって思ってるんよ。」
歩「手助け?」
花奏「そうや。」
正気かと問いただしたくなったが
ちらと横目で見ると小津町の目は
かなり本気だということが分かる。
何馬鹿なことを言っているのだろう。
手助けなんてあり得ない。
邪魔になるかもしれない。
何より他人の事情に手を出すほど
面倒なことはないんだから。
歩「馬鹿じゃん。」
花奏「む…何がや。」
歩「嶋原には遊留がいるじゃん。」
花奏「そうやけど…波流もだんまりやし。」
歩「ああ、遊留に話聞いたの?」
花奏「聞いてはないんやけど…今の2人状況知ってる?」
歩「知るはずもなく。」
花奏「全く話してないんやって。全くは盛ったかもやけど。」
歩「どっち。」
花奏「ずっと一緒にいたのに今では別のグループにおる感じって言えばいいかいや。」
歩「あー。はいはい、わかった。」
花奏「ほっとけんへんやろ。」
歩「時にそれが大きなお節介になる時だってあるの。」
大きなお節介。
良かれと思ってやったことが
悪い方向にのみ進んでしまう。
私は過去1度同様の事を
しでかしてしまったことがある。
だからこそこうとしか言えなかった。
人の事情に手を突っ込むものじゃないと
釘を刺すことしかできない。
小津町の優しさも理解できるが、
私は断然関わらないに1票入れたかった。
花奏「だからって」
歩「小津町がそうしたいなら応援はするけど、私はやらない。」
花奏「……分かった。辞めとくわ。」
歩「へぇ、珍し。」
花奏「私やってちゃんと引くときは引くんや。」
歩「そうだね。」
花奏「ならそのかわりに条件ひとつ。いつか1回だけでいいから私の相談に乗ること。」
歩「ん?何でそうなる?」
花奏「あ、今やないで。」
歩「いや、それは分かるけど何その条件。」
花奏「呑んでくれる?」
歩「簡単な2択とかなら。」
花奏「あはは、やった。」
やっぱり馬鹿なんだろう。
簡単な2択での相談があるか。
けどとりあえず私が条件を
呑んだことに対してとても喜んでいるようで
他のことは一切頭に入っていないようだった。
わなわなと教室内には人が多くなっていた。
思えば空席の方が茂みに隠れるように
見えなくなってゆく。
いつの間にこんなに人がいたんだっけ。
こいつと離してる間に
そんなに時間は経っていたんだろうか。
花奏「そろそろ時間やなー。戻るわ。」
歩「ん。」
花奏「じゃあな、歩。」
歩「もう来るなー。」
花奏「また来るわー!」
最後のひと言だけより大きく放たれて
教室から潔く颯爽と出ていった。
嶋原のことに関して何一切
解決なんてしていないし
深い話し合いにすらならなかったけれど
それでよかったんだろうか。
正直あそこで引くのは意外だった。
もっと詰め寄られていつもの如く
無理矢理にでも付き合わされるんだろうなって
心のどこかでは思ってた。
ぴい、ぴ。
また知らない鳥の鳴き声が
耳の奥を掠めている。
春とは違った、秋の色。
冬が直ぐそこまで迫っているにも関わらず
私の生活は一変さえしなかった。
その直後教室に戻ってきて騒ぎ出した
長束に絡まれたと言うのは
想像に容易い事だろう。
驟雨纏う冬隣 PROJECT:DATE 公式 @PROJECTDATE2021
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