第46話 功績
ユータス侯爵は口角を上げる。
「まあ互角と言っていいでしょうな。あの方が閣下の寝所に居られるようになれば私も枕を高くして眠れるというものです」
力いっぱい抱きしめられたらこの細い体が耐えられるかどうかは別問題だけども。ユータス侯爵の視線に反応してアーデバルトが眉をひそめる。
「その目は何だ? 何かまたろくでもないことを考えていただろう?」
「とんでもありません」
「正直に言え」
「何も考えておりません。そんなことよりもベルティアとの戦はどうなったのですか? 勝ったということは聞きましたが、詳細は耳にしていないのですが」
アーデバルトはむうと唇を尖らせる。
「うまく話を逸らしたつもりだな。まあいい。後でゆっくりと追及してやる。戦は予定通りの展開になった。私の直属部隊による擬兵の策にかかって戦線は膠着、会戦に応じず小競り合いに終始したよ。そうなれば兵の練度が違うからな、出血を強いていたら厭戦気分がみなぎり撤兵していった」
「そんな展開では陛下はご不満だったのでは?」
「我慢していたんだろうな。ベルティアの撤退を悟るや私にも知らせず追撃に出て手痛い反撃を食らったよ」
「それでは増々ご不興でしょう」
「私の直属部隊も加勢しての再度の追撃をお勧めした。二度目の攻撃で一度目の損害を補って余りあるほど快勝したので、陛下は大変ご機嫌麗しい。北と南の残りの二軍団は大きく動かなかったから全体としてみれば勝利と言えるんじゃないかな」
「二度目の追撃がよく上手くいきましたね」
「簡単なことさ。好戦的な陛下が臨戦しているのは向こうも分かってるんだから、一度目の追撃には確実に備えている。とはいえこちらの近衛軍にぶつかられたんだ。疲弊している上に、あれだけ叩いたならもう無いだろうと油断していた。それに私が指揮する軽騎兵五百で先行し横合いから突っ込んで内部を引っ掻き回したからね」
「またそんな危ない真似を。敵は二十倍以上というのに」
「だから刃は合わせていない。敵の本営の近くを矢を射かけながら駆け抜け、反対側から再度突入して同じことを繰り返しただけだ。まあ、そのタイミングで陛下が後方から襲い掛かったせいで、敵の後半分は大混乱さ」
「なるほど」
「矢を一万本ほど使っちゃったから出費は少々痛いね。出来る限り回収したし、ベルティアが残していったものから補償してもらう予定だけど。それから、陛下の側近連中の一部の反感がさらに強くなったのも気になるところだ」
「ははあ。一度目の追撃に失敗したので引き立て役に使われたと逆恨みしているんですな」
「それもあるし、敵の中央軍を率いていたレオジーネ枢機卿を私の直属部隊が捕らえてしまったから、手柄を横取りされた気分なのだろう」
「は? それは大手柄ではありませんか」
「まあね。大混乱の後半分はもういいだろうと前半分を遠矢で削っていたら、美々しく着飾った男が落馬したんだ。残りは逃げ出してしまったので捕えてみたらレオジーネ枢機卿だったというわけさ。ほとんど拾い首のようなものだし、功を誇るほどのものじゃないよ」
「自分の策の結果ではないからというのは理解できますが、それでも一軍の将を捕えたのは立派な功績です」
「陛下もそう仰っていたよ。その功を賞して今後は私の直属部隊の人数を増やしてくれるらしい。それと立太弟は前倒しして私の結婚祝いとしてくれるそうだ」
ユータス侯爵は念のため声を潜める。
「ケディアス殿やナイテート殿が激しく反応されたのでは?」
「ああ。視線で人を殺せるなら私は死んでいただろうね」
アーデバルトは冗談を言って忠臣を和ませようとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます