第28話 救出

 バクードは人懐っこい笑顔を見せる。

「お。また会ったな。ナタリー。俺達はそういうめぐり合わせなのかもしれないな」

「その娘を開放しろ」

 切っ先を向けてくるナタリーに困惑した顔をする。

「誤解だよ。俺は何もしちゃいねえ。怪しい連中が何かを担いでいるのを見かけて声をかけたらいきなり斬りつけられてよ。応戦したら、抱えていたこのお嬢ちゃんをおっぽり出して逃げ出したんだ。放っておくわけにもいかねえし、運んでいるところにあんたと出くわしたってわけだ」

 半信半疑の目を向けてくるナタリーにバクードは自分の服の破れたところ示す。

「本当のことを言うとさ。あんたが走っていなくなるから心配して追いかけてたところだったんだ。あんたみたいないい女が刺激的な格好で一人で出歩いているのを見たら変な気を起こす奴がいるかもしれないってね。ナタリー。あんたも無事で良かったよ」

 その言葉を信じたのかナタリーは緊張を解いた。

「済まなかった。バクードさん。あなたは確かに土嚢詰みをしていたし、その娘を誘拐するのは無理そうだ」

「分かってくれたらそれでいい。この雨の中いつまでも外にいるわけにはいかねえ。せっかく助けたのに風邪でもひかれたら大変だ。ナタリー。この娘が何者か知っているっぽいんだが、どこに連れていけばいい?」

「案内しよう。こっちだ」

 しばらく行ったところでノーランの部下と行き会う。

 ほっと胸をなでおろす部下が笛を吹き鳴らすとわらわらと人が集まって来て、シャルロッテの体を預かると館に運んでいった。

 館まで同行するとナタリーは責任者のノーランに引き合わせようという。それをバクードは断った。

「忙しくてそれどころじゃないだろう。それよりも俺はあんたがその恰好のままでいる方が気になってならねえ」

 自分のチュニックを脱ぐとバクードはナタリーの肩にかける。

 体つきに自信があるのか、裸身をさらすのが好きな自己陶酔タイプなのかもしれなかった。

「礼なんていらねえぜ。まあ縁があったらその時は一杯奢らせてくれ」

 片目をつぶるとバクードは町中へと走り去った。

 その後姿を見送って館の中に入るとカトリーヌが駆け寄ってくる。

「お姉さま」

「まだそんな恰好をしているのか? 部屋に戻って着替えないと風邪をひくぞ」

「それはお姉さまもですわ。あら、その男性用の服はどうされたの?」

「どうでもいいことだ。それよりもお前たち、なんでカトリーヌを濡れたままにした?」

 ジェフリーとバッツにナタリーは鋭い視線を向ける。

「姫様。私もそう言ったんですよ」

「オレの言うことなんか全然聞いてくれねえんだもん」

 カトリーヌは二人をとりなした。 

「ここで議論していても仕方ないですわ。お姉さまも無事戻って来たことですし、早く温かい風呂に入りましょう」

 部屋に戻りがてら、カトリーヌは右往左往する者を呼び止め、部屋にたっぷりのお湯を持ってくるようにお願いする。

 寝室の横の部屋に据えられた浴槽にお湯が張られ、ジェフリー達が控えの間に下がると、カトリーヌは毅然とした態度でナタリーに浴槽に入るように言う。ほとんど命令するかのようだった。

「さ、お姉さま。風邪をひかないように入ってくださいませ」

「カトリーヌ。お前も濡れているだろう」

「もちろん、私も入ります。でも、姉さまが先」

 雨に湿ったナタリーの服を剥ぐように脱がせると、びしっと浴槽を示す。ナタリーは首を振り振り浴槽に浸かった。

 大きな瓶からお湯を足し温度を調整するとカトリーヌもドレスを脱いで浴槽に入る。

 陶製の浴槽は大柄なナタリーと二人で入っても十分な大きさだった。

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