151◆王都にて打合せ◆



 ステラとジョイが生まれてから1年が経っていた。本当は王都には行かずにずっと双子といたいが、巡遊が仕事に含まれているのでしょうがない。よくよく考えたら、たいして巡遊なんてしていないように思うが、いずれにせよ行かないと怒られるのは確かなので、俺は東辺境伯と共に秋の終わりに王都へと向かった。


 王都で社交シーズンの開幕の前に、国王様と3辺境伯と打合せを行った。ちなみに、送っておいたアクションフィギュアセットは大好評で、全員自分の城の目立つところに飾っておいているそうだ。国王様は毎日ポーズをつけるのは自分の役割だと胸をはっていた。ヒマなのかな?


「さて、リュード、ようやく出てきたな。子どもが生まれるのであれば仕方ないと思ってはいたが、このままだとお前ずっと出てくる気がなかっただろう?」


「う……そうですね。でも、もう本当に2人が可愛くて!『メモリースター』に記録してきたんですが見ますか?」


「あ、あとでな。それよりも、先に仕事の話だ!」


「すみません。はい、そうですね」


「お前と観光馬車隊の話をしてから3年が経った。報告書ももらってはいるが進捗を改めて説明しろ」


 観光馬車隊は、以前に国王と3辺境伯に話した計画のことだ。主に3辺境伯の頑張りによって、王都と3辺境の領都を結ぶメインの街道は、魔物や盗賊も出没することが無くなり安定している。そこで俺は、東の拠点から俺達の商品を輸送する『スタープレイヤーズ』専用の輸送商隊を作り、それが軌道に乗ったら、そこに金持ちを乗せて、王都と3領都の観光施設を巡る馬車ツアーをしたいと話したところ、話がどんどん広がっていった。結果、国策として金持ち観光馬車の計画を進めていくことになった。


「お前の提案した王都の総合遊戯施設だがな、時間がかかったが来年、ようやく完成できる。3領都と王都をつなぐ街道の再整備も行われた。お前の方の準備はどうだ?」


「商会の規模としては、そこそこまで来たと思います。3領都と王都、南のカプラードで支店はできましたし、商品の特異性、話題性も充分かなと思っています。時々入っていた大商会のちょっかいもなくなりましたし」


「そうだな、ドラゴンスレイヤーとしてさらに名を上げたし、お前達はもうつぶされない程の大きさになった」


「今年の後半は、東で観光馬車隊のサンプルとなる馬車も数台作りました。王都にも持ってきてますので後でご覧いただけます。もっとも、貴族の乗るような豪奢なものではないですが。内部が2階構造になっていて、1階部分が寝台になっています。定員は2~4名です」


「ほほう、おもしろそうだな、後で見せてもらおう」


「途中の領地貴族の町での受入れ体制も、間もなく整うだろう」


「ということでしたら、来年にはスタートできそうですね。募集と進行はどうしましょうか?例えば来年の春の中ごろから王都から3領都へ向けての試験ツアーを行って、再来年から本格稼働とかはいかがですか?」


「後は馬車と参加者の数だな」


「設計図は複製して持ってきてますので、東以外でも馬車工房を抑えられれば、生産には入れると思います。段階的にはなりますが、1回のツアーで30人、それを3領都と王都からの出発でを4ラインで考えています。経済効果の試算は組みなおしていますので少し時間をください」


「よし、そうしよう。仔細はまかせる。リュード、修正した資料を後で出せ。必要な経費の半分を国が持とう」


「よろしいのですか?」


「観光を請け負う商会というのが初めてだ。やるからには成功して、国内で金を回して行くぞ」


「わかりました」





 打合せが終わって数日後、テイカーとハイマン、モロクを伴って、王都のとある一画に飲みに来ていた。爵位をもらおうが、こうやってフットワーク軽く動けるのは俺達ならではだ。


 今回冬の王都に来たのは、『スタープレイヤーズ』の男性陣だけだ。モロクは商会の警備部の責任者で、荒事担当のスタッフの訓練をしたり、輸送商隊の護衛チームを割り振ったりしつつ通常は東の領都にいるが、時々自らも商隊について現場を確認している。今回俺が王都にくるのにあわせて一緒に来た。


「とりあえず乾杯―!」


「「「乾杯―!」」」


 今俺達がいるのは、来年オープン予定の総合遊戯施設『アムリリランド』だ。『アムリリランド』は国王様に企画を依頼されたエンターテイメント施設だ。最初は遊園地のようなものにしたかったが、動力の問題や安全性、企画開発期間から考えて断念した。そして思いついたのは、卓球、ダーツ、ビリヤード、ボーリング、釣り堀、スマートボール、ボルダリング、ロング滑り台、パターゴルフ、以前に俺が開発したモルック風棒倒しゲーム『魔物と村人』、キックボードエリア……などが集まった総合遊戯施設だ。個々の遊戯の内容は企画書と遊び方を最初に提出し、後は国の手配した職人にがんばってもらった。


 そしてその施設の一角にあるのが俺達がいるフードコートだ。一部の鮮度を必要とする食材をのぞいて、いろいろな地方の料理を1ヵ所で食べることができる。試験運用として、ここだけ限定的にオープンしているとのことで、やってきた。


 俺達はそれぞれに好きな地方の料理を注文してはテーブルに山と積み、エールやワインで食べながら料理に舌鼓を打った。


「テイカーもハイマンも、そわそわしてるけど大丈夫?まだ先でしょ?」


「わかってはいるのですが……。えぇ、今回だって王都に来たくはありませんでしたが、止むをえませんでした。せいぜい、この冬のうちに段取りとやることを済ませて、子どもが生まれてからは当分東から出ないようにします」


「レイレ姫が、経験者が近くにいてくれるのは心強いのですが、わかってはいても落ち着かないのです」


「今からそんなだと、実際生まれる直前あたりになったら相当大変だと思うよ。あとは生まれてからの方がバタバタするのもあるし……って俺もそうだったから自分でも何言ってんだって感じだけどね」


 ミュカとクロナにも子どもができた。しかもほぼ同時で、予定は来年の夏前になる。


「モロク殿もそうだったのでしょうか?」


「1人目が生まれたのももう30年くらい前だからなぁ、もう覚えておらんよ。ただあれだ、女は男よりもよっぽどタフで強いぞ」


「うん、それはまぁわかる気がするね」


 しばらく人生の先輩であるモロクから、夫婦の秘訣などを語ってもらい、皆が真面目に耳を傾ける。いつしか話題は、これからの商会のこと、未来の展望などに移っていく。


「観光馬車な、護衛の質をもう1段、引き上げねば金持ちの相手もできまい。訓練内容に礼節などを加えるべきか?」


「いやー、最低限でいいと思うよ。その分、御者と馬車隊の責任者がきちんとできるようにしたほうがいいね」


「リュード殿、エヨン教の癒しの技が使える人間を、見聞を広める目的で常に1人入れておくのはどうですか?客から見た安心度も増すと思いますが」


「ハイマン、ナイス!それはいいね。繋ぎはまかせても?」


「問題ありません。というか、既にそうなる可能性もあることを打診して、内々で承諾をもらっています」


「さすが!!」


「そういえばリュード、参加の際の契約書のラフですが、作っておきましたので時間のあるときに見てください」


「え?もう作ったの?」


「はい。ポイントになるのは、旅の途中の安全保障の範囲と、代金の徴収の時期ですね」


「了解、明日打合せしよう。安全保障の項目はいるからモロクも入って」


「おう、了解だ」





 飲みの場において、酔いが回ってくると昔話にどうしても花が咲く。俺達、『スタープレイヤーズ』の今までの旅の話を、モロクに聞かせつつ懐かしむ。思えば、俺達もずっと走り続けてきている。


 いつしか商会を立ちあげてからの話になった。冒険者パーティ『スタープレイヤーズ』から始まった商会だが、モロクも立ち上げ時から幹部として入っている。


「しかし、商会もでかくなったものだ」


「そうだね、立ち上げてから4年で、人も増えたね」


 多くの人の助けを受けて、今ではうちも大所帯の商会になった。開発や生産工場なども兼ねているので、スタッフ数は本当に多い。事務15人、開発部10人、研究部5人、警備部50人、工場100人、輸送スタッフ50人、『メモリースター』出張技術スタッフ15人、支店スタッフ25人、幹部7人…数えたら優に250人を越えている。


 取り扱っている商品は『ポケットファイア』『メモリースター』『コレクションフィギュアシリーズ(一般用と貴族用)』『布箱』『魔物トレーディングカード』『アクションフィギュア』『魔石コンロ』『魔石サーキュレーター』と多岐にわたる。あれ、まだまだおもちゃの種類が少ないな……もっとおもちゃを作らなくては。まだまだ、やりたいことは多いし、作りたい商品、アイディアも尽きない。酔いの回った頭で、次は何をやろうか作ろうか、そんなことを俺は考えていた。




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