150◆異世界アクションフィギュア◆



「んだよー…どうやって制御するんだよーっ」


「そうですねー」


「そもそも、解析からして無理じゃんかよー」


「まったくですー」


ゴーレムを解体して「マイコンだぁ!!」と興奮してから20日余り、俺はスパ銭で温泉に浸かりながらぶーぶーと愚痴を垂れ流していた。隣にいるモービィが適当な相槌を打っているが、真剣に聞いてもらいたいわけじゃないし、そのぐらいの反応でいい。


 夜の魔石で、制御系のおもちゃが作れる!……と興奮したのはいいが、何をどうすれば、その制御システムが作れるのかが全く分からない。手掛かりすらない。煮詰まりすぎて、家でうんうん唸っていたら、「家の中でもんもんとした空気をふりまかないでください。ステラとジョイも機嫌が悪くなります。ザナドゥにでも言って息を抜いてきたらどうですか!?」とレイレに軽く怒られて今に至っている。


 前世において、マイコンやICチップを搭載した商品を開発するときは、プログラムを組むためパソコンがまず必要だった。プログラムを組んでは、パソコンからつながったエミューレーターというマイコンを動作検証する機械で確認して進めていく。おもちゃの場合はセンサーやスイッチなどの検証も必要なため、エミュレーターにさらにセンサーなどを組み込んだ動作モデルを組み込んだりもした。


 いずれにせよ、この世界にはパソコンがない。というか、そもそもパソコンがあったとしても、それで魔石にプログラムを書き込めるものなのかどうかもわからない。


 さらに言えば、ゴーレムの魔石の中身を解析する方法もない。ゴーレムは手足を解体した時点で動かなくなってしまい、取り出した中身もつなげ直すこともできなかった。なので、自動反応の様子から、こういう命令が組まれていたのではないかという推測することくらいしかできない。


 温泉で一汗かいて気分転換できたので、俺はしばらくゴーレムの魔石のことは忘れることにした。最悪、制御系の技術が手に入らなくてもしょうがない、まだまだ作れるものはたくさんある。そう切り換えて俺はスパ銭を後にした。





 ということで、俺はかねてから作ろうと思っていた、アクションフィギュアの試作を作っていた。動かないミニフィギュアは、各領都と王都で発売し、うちの商会のいい利益になっている。ブラインド式で売られているフィギュアの中でもレアに設定したフィギュアはかなりの高値がついているとも聞いている。


 アクションフィギュアは、手足や首、胴などに関節を仕込んで自分でポーズを変えて遊べるようになっているものだ。ポイントになるのは関節部分だ。関節の方式は、フィギュアの重さや材質、対象年齢によって構造が異なる。幼児向けのフィギュアは手足などが取れてはいけないので、頑丈に、引っ張ってもとれないように作るが、その分動きの自由度は少なかったりする。


 今回の俺が採用したのは、球体関節、ボールジョイントだ。前世で小学生以上を対象にした、変形フィギュアを作っていたときにもお世話になった構造だ。球体に支柱のついた凸側のパーツと、それを受ける中が空いた球体の凹パーツが合わさって関節になったものだ。材質は、いつものスライム粉と土属性の魔石から出た砂を混合させた『プラ液』をベースにした素材だ。


 そのボールジョイントのサイズを3種類用意する。首や胴、翼の根元の関節には大サイズ、頭や肘、膝の関節には中サイズ、手首や耳、翼の先には小サイズといった形で、前後につけるパーツの大きさに合わせて変えていく。


 俺は立体物を作るのは正直苦手なので、こうやって大まかに作った試作を、職人に渡し、ここから先を細かく作り込んでもらう。何度か職人をとやりとりをして修正をかけた後、完成したパーツを型に取って、複製し、整えて、彩色をすれば完成だ。





 何日かが経って屋敷の居間に『スタープレイヤーズ』のメンバーと東辺境伯夫妻、マリアンヌ夫人に集まってもらった。東辺境伯夫妻は良くうちに遊びに来る。双子に会いつつ、隣のスパ銭で湯に浸かり飲み食いして帰るというのは本当に楽しいそうだ。東辺境伯は、ここに来る時間をとるために、長男に仕事をガンガン押し付けているそうで、先日、その長男からリュードさんからも何とか言ってくださいという泣きの手紙が来ていた。


「リュードよ、今日は新しい商品を見せてくれるのだろう?幾らだ?」


「いや、待ってください東辺境伯。先行販売はしませんよ。国王様からいい加減、王都に出てこい、巡遊しろとうるさく催促が来てますし、渡すなら全員一緒に渡しますよ」


「なぬ!?そこを何とか!」


「いや、せめて物をみてからにしましょう。ということで、今回私が作ったのはこれです!」


 俺がテーブルの上の布を取ると、そこには5体のアクションフィギュアが並んでいた。赤いドラゴン、白と黒のグリフォン、銀色の甲冑の騎士、茶色ベースの衣装の冒険者、暗緑色のゴブリンだ。


 ドラゴンは高さ30センチほどで、頭部に生えた4本の角とビッシリと並んだ牙と大きくな口、長い尻尾に強靭な四肢のついた胴体に大きな翼…と俺の記憶の限りを呼び起こして作った、我ながら会心の出来だ。


 ドラゴンと並ぶ大きさの白と黒のグリフォンも素晴らしい。凛とした黄色い瞳や、鋭いくちばしや、獰猛なかぎ爪、力強い黒い翼にたくましい太腿……と非常に格好よく再現できた。


 騎士と冒険者は、10センチほどでドラゴンとグリフォンのおまけのようなものだ。ゴブリンはさらに、おまけのおまけでサイズも8センチと一番小さい。肩と足くらいしか動かない。


「こ、これは……!!!」


「ド、ドラゴンだ!!すごい、こんな化け物だったんですね!!!」


「このアイテムは、さらに動かしてポーズを変えることができます」


 俺はドラゴンを手に持ち、首や尾を曲げ、口を開き、翼を広げる。


「おぉお!!」


 皆の顔を見て、俺は今回のアクションフィギュアの成功を確信した。


「どうですか!個人的には、いい出来だと思っているんです」


「ぶぁっ……」


「ぶぁ?」


「「ぶぁっきゃぁ~~~っっ!!」」


 その声を聞いた瞬間、俺は痛恨のミスをしたことに気がついた。皆の後ろの方で、マリアンヌ夫人とチェルノ夫人に抱かれたステラとジョイが、目を大きくして、そして瞳を輝かせながら、自分の体が落ちそうなことも一切気に留めず、必死に手をフィギュアの方に伸ばしている。


「「あぁううーーー!!!!!」」


「あ…!やばい、ステラとジョイを!す、すみません、すぐに部屋からっ!」


「「あぁぁ~~~~!!!!ぎゃぁああ~~~っ!」」


 狂ったように泣き叫ぶ双子の声が部屋から遠ざかっていく。


「あぁ、やってしまった…」


「リュード…あの子達に何があったのだ……」


「私にもわかりません…。でもこれは大人用なので渡す訳にはいかないんです…」


 この後、アクションフィギュアは、5種類をセットにして生産をスタートした。3辺境伯と国王様には、グラデーションや墨入れをした特別彩色バージョンを作りプレゼントをした。ステラとジョイは数日機嫌が悪く、俺にだけ猛抗議をしてきたので、俺はひたすらご機嫌取りを続けなければならなかった。いつか2人に渡しても大丈夫な日が来たらプレゼントしてあげようと思う。




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