149◆新発見◆



「地面に描かれた線を絶対に越えないように!縄を投げるとき気を付けて!」


「「「「ういっす!!!」」」」


「縄は1つの腕に2本ずつ!足にもかけるよ!」


「「「「うぃっす!!!」」」」


「よーし、では、1、2、3のリズムで3のときに引くよ!1、2……」


「「「「3!せいっ!」」」」


「動いた!よーし、その調子!じゃあ右回りで、縄を引っ張ったまま回っていくよ!ゴーレム暴れるかもしれないから、気を付けて!抑えられないようなら縄は放していいけど、そのときはタイミング合わせるからねっ!1、2…」


「「「「3!えいっ!」」」」


 俺は冒険者に指示を出し、暴れるゴーレムの手に何本も縄を巻き付けていき、最終的に簀巻きにして身動きをとれなくした。足も同じように拘束されたゴーレムはグゴグゴ、岩をすり合わせるような音を発し続けているが、何重にも巻かれた縄を引きちぎることはできないようだ。


「よっしゃーーー!じゃあ、皆!!迷宮の外まで引きずりだして荷車に乗せたら『スタープレイヤーズ』まで運ぼう!着いたら、美味い揚げ物食わせるぞー!」


「「「「おうっ!!!!」」」」


 一連の様子を見ていたモロクが「でたらめすぎる…」と遠い目をして呟き、ハイマンが「こういう人です。諦めましょう」と慰めていた。





 ゴーレムを運び出した理由はただ1つ。俺がこの不思議な魔物を、じっくりと解体したかったからだ。この世界で今までに出会った魔物は、体内に魔石を持つ以外は、筋肉や内臓、血液を持つ生物と呼べるものだった。だがゴーレムはどうも違うように見える。もしかすると、岩の体の中には生物っぽい器官などがあるのかもしれないが。


 だが解体をしようにも境界線に踏み入れば襲ってくるし、岩の塊相手に有効な攻撃方法もない。ならば、もうそのまま運び出して、どこかに固定して、削っていきながら調べていくしかないだろう。


 中から何が出てくるのだろうか。俺は素敵な宝箱を目の前にした気分だった。





 『スタープレイヤーズ』の屋敷の近くにある、太い木が立ち並ぶ森の中で、俺とモービィの指示の下、ゴーレムはそれぞれの手足を大木に結びつけられた状態で固定されている。ずっとギシギシグゴグゴと拘束から逃れようと必死な様子だ。


「じゃあモービィ、とりあえず腕からもいでくか。肩のところからいくよー!せいっ!!!」


 俺は固定されたゴーレムの上に乗っかって、思いきりツルハシを振りかぶって打ちつける。岩のかけらが飛びちり、ツルハシが少しだけ入る。かなり固い。とはいえ少しでも抉れるならこっちのもんだ。躍起になってツルハシを数十回も振ったころ、バギンと音がしてゴーレムの腕がもげ落ちた。


「よっしゃ!」


「じゃあ、リュードさん、削っていきます!」


 もがれた腕は、人が近づいても反応を返すことはなくピクリとも動かなかった。俺と同じように目をキラキラさせたモービィがノミと木づちで、さらに細かく腕を解体していく。


 見た目の通りゴーレムの腕は岩だったが、削っていくと腕の中央あたりに1センチほどの太さの細い木の根っこのようなものが通っているのがわかった。その木の根の様なものを切らないように気をつけながら、腕の付け根側から丁寧に岩を砕いていく。すると拳に当たる部分の真ん中にピンポン玉ほどの土の魔石があった。


「こんなところに魔石がある…」


 今まで出会った魔物は体の中央部に近いところに魔石があったので、これだけでも新しい発見だ。さらに解体を続けた結果、4本の手と2本の足の全てが同じ構造になっていた。ちなみに、どの時点で動きを止めるのか?も併せて観察していたが、全ての手足が取れた時点で、ゴーレムは動くをのやめた。


 そして解体作業は、胴体部分へとうつる。俺とモービィは細心の注意を払いながら、ゴーレムの胸の部分を少しづつ削っていく。一体何が出てくるのだろうと期待感が高まるが、はやる気持ちを抑えながら慎重に作業していく。


 胸のちょうど中心辺りに来たときに、魔石も端っこが見えてきた。傷つけないように、さらに注意を払って掘り進めて出てきたのは、六角形をした宵闇色の夜属性の大きな魔石だった。木の根っこのような部分は、それぞれの6つの辺にくっついていた。


「これは!?こんな形の魔石を初めて見た……」


 通常、魔石はその辺に落ちている石ころと同じような形をしている。六角形をしているのももちろん、木の根っこみたいのが直接くっ付いているのも初めてだった。


「なぜ、夜属性なのでしょうか?手足の先は土属性だったのに……それにこの根っこみたいのはいったい……?」


「わからない…なんなんだ、こいつは?」


 これまで魔石は、魔物の体内で魔力が結晶化してできるものだとされてきた。だが俺は、以前に目玉の魔物を解体した際、魔物が体内の魔石を何らかの行動・活動に使っている可能性が高いことを突き止めた。とすると、このゴーレムの魔石にも確実に意味がある。


 傾き始めた陽光の中で、ゴーレムの残骸に腰かけながら俺は考える。まず生物ぽさのないゴーレムの体が動く理屈がわからない。ただ見当はつく。おそらくだが、両手足の土の魔石によって、ゴーレムは動く。


 では、この六角形の夜属性の魔石は何に使われていた?俺の目の前には、ばらばらになったゴーレムが転がっている。解体しながらなので、パーツごとに残骸はまとめられている。その様子は、さながら破棄されたロボットにも見えた。


 ……ロボット



 その瞬間、俺の頭に電撃が走った。


 そうか!そうだ!ゴーレムはロボットなのだ!エリア内に入った対象物を自動排除するプログラムだけを組み込まれたロボットだ。そう考えると、腑に落ちた。動力、兼感知センサーを兼ねているのは手足の先の土の魔石、脳にあたる夜の魔石だ。


 つまり、夜の魔石は、前世でいうマイコン、マイクロコンピューターにあたる。


 そうマイコンなんだ!全てが俺の頭の中でつながる。六角形の辺は、マイコンにあたる入出力ポート、いわゆる電気信号のやり取り口になる。植物の根っこみたいなのはその先にあるセンサー等につながる配線だ。


 さらに言えば、夜属性のというのも納得できる。夜属性は画像を記録できる。前世でいうならメモリーに相当するものだ。画像を記録できるなら、制御系のコードがメモリーされて実行されていても何もおかしくはない。いや、厳密にいけばおかしいのかもしれないが、そもそも画像の記録自体も術者の認識次第で変わる曖昧なものなのだからしょうがない。


 そうマイコンなのだ。マイコンがこの世界にあるのだ。



「おぉ……うぉおおおおおーーーーっ!!!」



 気が付けば、俺は雄たけびを上げていた。マイコンがある……それが意味するところは、この世界で、電子制御…電子ではないが制御系のおもちゃを作ることができるようになるということだ。センサートイだってできる、鳴る光るのなりきり武器ももう1段進化できる。さらにいけば、『たまごっぴ』のようなおもちゃだって作れるかもしれない。


 夕焼けで紅く染まった木立の中で、俺はゴーレムの残骸の上に立ち、叫び続けた。俺のおもちゃ道は、この瞬間新たな局面を迎えたのだった。



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