85◆星5への昇格◆
ある朝、俺達が朝食をとっていると、宿の支配人が俺に手紙をもってきた。手紙と言っても、小さいサイズの魔物の皮でできた羊皮紙だ。差出人は、このカプラードの街の冒険者ギルドのギルド長からで、内容はギルドに顔を出せというものだった。
「なんか、ギルドから召喚状がきたんだけど」
「あーそういえば、街に着いてから1回も行ってませんでしたね」
そうなのだ。カプラードについてから俺達はカタリナ姫の披露宴、その後はなりきり武器の試作、今までの開発品と製造方法の勉強会、着せ替え人形と布箱の試作などで忙しく、冒険者ギルドに顔を出していなかった。そもそも冬の間は依頼も少ない上に、王都とカプラードはたいした依頼もない。なぜなら、騎士団と兵士が周囲をきっちりと狩りつくして、魔物もほとんどいないからだ。
「1度行っておくかなー。皆今日の予定は?」
それぞれ大丈夫だと言うことなので、俺達は朝食を終えて準備をすると、冒険者ギルドへと向かった。
◇
俺達が、冒険者ギルドの扉を開けて中に入るとざわめきが起こった。『スターズ』のレイレと2人はもともと有名で、さらに最近街の噂になっている俺やクロナ達も加わっている。
ファンタジーのテンプレ的展開で、レイレが絡まれて俺が助けるなんて感じにでもならないかなと思ったりもしたが、そもそもレイレは俺よりも強いし、ネームバリューもあるので、皆が遠巻きに俺達を見るだけで、何も起きなかった。
受付で名を告げると、すぐに奥の応接室に通された。すぐに2人の中年男性が現れる。
「副ギルド長のボッシュである」
「カプラード冒険者ギルドのギルド長、デッカーだ」
俺達が席に座ると、すぐに副ギルド長がしゃべりだす。
「ようやく、きおったか!なぜ、お前はすぐにギルドに来ないのだ!お前のおかげで冒険者に舐められているなど、根も葉もない噂が立っていたのだぞ!」
副ギルド長は小太りのおっさんで、冬だと言うのに額の汗をひっきりなしに拭いている。正直、初見からイラっとさせる人物だった。先日追い払った商人ギルドのやつもそうだったし、この街の組織の副長は、嫌な奴しかなれないという決まりでもあるのだろうか?
「とくに依頼を受けるつもりもありませんでしたし、忙しかったので。寒かったですし」
「な、お前は、冒険者ではないのか?」
「冒険者です。商人でもあります」
「ぬぅ。せっかくのいい話をしてやろうと呼んだにも関わらず、なんという態度だ。お前はそれでいいのだな!?どうなってもしらんぞ!?各街の冒険者ギルドに要注意人物だと触れを出して、活動できないようにしてやってもよいのだぞ!」
「ならそれでいいです。もう2度と来なければいいですか?」
「な、なにをぉ!?」
国内で2番目に大きな街のギルドとなれば、それなりに影響力はあるのかもしれないが、いきなりの言い様に腹がたった俺は反射的に答えていた。副ギルド長は、顔を真っ赤にしながら、目をギョロギョロさせて興奮して唾を飛ばしている。
「まぁまぁ、待ってくれたまえ」
髪を丁寧になでつけた、渋めのギルド長が取りなすように入ってきた。
「すまなかったね、リュード君。なに、名の売れている冒険者である君が、ギルドに顔を出してくれないので、したり顔で忠告をしてくる人間もいたりしてね。我々も少し落ち着きを失っていたようだ。レイレ君も久しぶりだね。1年ぶりかな?」
「そうですね、以前こちらに寄ったのは、そのくらいだと思います」
俺は知っている。ギルド長と副ギルド長の役付けと動きは、ヤクザなんかがよく行う手口だ。脅す役の嫌な奴がプレッシャーをかけたところを、年長者が理解ある振る舞いをして安心させる。
「どうだろう、話だけでも聞いてもらえないだろうか?」
「聞くだけでしたら」
断っても良かったが、向こうが詫びを入れた形になっているので話だけでも聞いてみることにする。何より隣にいるレイレに、了見のせまい男だと思われたら嫌だなとか考えてしまったのもある。
ギルド長の話を要約すると、カプラードのギルドにも冒険者として登録をしてほしい。あっという間に星4まで上げよう。その上でさらに星5に認定したいとの話だった。
先ほど、副ギルド長は他の街にお触れを出して…と言っていたが、実は冒険者ギルドは全国で連携がしっかりと取れている組織ではない。町、街ごとにギルドがあり、共通しているのはプレートに星を刻んで昇格していく仕組みくらいで、その評価方法も各ギルドによってまちまちだし、冒険者の情報もよっぽど有能でなければ共有もされない。だからお触れが出されたとしても、その効果は疑わしい。
冒険者のランクは、登録してすぐは星無し、星1は町の雑用、星2で簡単な魔物討伐、星3で中堅、星4でベテランとなる。複数の街で星4以上の活躍をすれば星5になることもあるらしい。
以前、グリフォンを倒し王都にもどった俺に、王都のギルドは、おつかい依頼数回で星4にしてくれた。うちにはグリフォンバスターいるんですよという箔付けのためだ。王都のギルドは、今目の前にいる2人のように面倒くさいことを言わず、ストレートに打診してきたのでOKを出した。
俺にとって星5になることは意味がない。星によって行き来が制限される場所もなければ、優遇されることもたいしてないからだ。……と今までだったら考えていた。
隣にいるレイレは星5だ。レイレは各地で、強い魔物を討伐して回っている。ある時、とあるギルドがレイレを星4に昇格したところ、生まれ故郷の東の辺境伯領都ユーガッズのギルドが、これはいかん、姫を星5にするのは俺達だと発奮した結果、レイレは星5になったそうだ。
ちなみに星5への昇格は、王都と3辺境伯領都、そしてこのカプラードの5大都市のギルドでのみ可能だということだった。他の都市に行っても、星5に昇格してくれるとは思うが、ここで早めに上げてもらうのもいいかと、俺は考えた。
「その話受けます。ただ、俺はこの街に住んでいませんし、来年の春には発ちます。それでもいいのなら。また、受ける依頼はこちらでも、数や内容も吟味して決め、酷い内容は受けません」
「お前はっ!どこまで!生意気な口をっ!」
「ボッシュ、黙れ」
騒ぎ始める副ギルド長を、ギルド長が止める。
「こちらに、その条件を飲めと言うのかね?」
「そうです。本来、冒険者とギルドは互いを尊重しあってこそ成り立つと俺は思っています。まぁ、ここで星5にならなくても、辺境伯に口利きをお願いすれば他の街でもギルドで昇格の検討もしてくれるでしょうし」
わざと辺境伯の名前を出しつつ、別に断ってもいいと言いきった。ギルド長は目を伏せて少し考える素振りを見せる。ギルド側が今回俺を推すメリットは、大貴族に気に入られており、名も売れて強い冒険者である俺と縁をもっておくこと、星5にするという恩をうれることだろう。それも、このやり取りでだいぶ失敗していると思うが。
「ふぅ、わかった。飲もう。それでよろしく頼む」
こうして俺はおつかい数回で星5に昇格し、レイレと並ぶようになった。もともと星4だったハイマンとミュカは変わらず、星3だったクロナとテイカーは昇格して星4に上がった。
昇格したその日、宿の食堂で祝杯をあげていた俺に、宿の支配人が声をかけてきた。
「リュード様、星5への昇格おめでとうございます。いつもお世話になっているリュード様に、ささやかながらですが宿からも特別なサービスの提案をさせていただきます。リュード様、湯治などはいかがですか?」
「え?温泉あるのっ!?」
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